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第88話:たまには若者をわからせてみる

 一度執務室に戻った俺たちは来客用のソファーへ舞衣と並んで座り、対面する形で蛇喰が腰を下ろして一先ず仕切り直す事にした。




「マスター、お茶くらいアタシが淹れますよ?」




「いいの、いいの。今日君たちは僕のお客さんだからね?


 さ、どうぞ? このお菓子も美味しいよ?」




 紅茶の柔らかな香りが鼻腔を抜けて緊張した空気を解きほぐしていく。




 俺は遠慮なく一口、たっぷりとミルクを使用した甘い紅茶をじっくりと味わい、余韻が冷める前に小洒落たクッキーをひとつまみ。




 これは中々——。




「お兄ちゃん、ミルク入れすぎでしょ。子供みたいなことしないでよね恥ずかしい」




「ははは、まあ、紅茶の味わい方は人それぞれだけど、ちょっと品位には欠ける量かもね」




「——、余計なお世話だ。で? そろそろ本題と、ついでにさっきの『力』についても話してくれるんだろ?」




 言いたい放題言ってくれる妹と蛇喰に軽く鼻を鳴らした俺は、意識して眼光を鋭く蛇喰へと視線をぶつける。




「そんな甘々な紅茶とクッキー片手に格好つけられても、説得力ないよお兄ちゃん」




 ——。妹よ。今は放っておいてくれないだろうか?




 シリアスな感じの雰囲気出さないといけない場面だから。




 あんまりツッコミ厳しいとお兄ちゃん、泣いちゃうぞ。




「……、で、どうなんだ」




 俺はとりあえずそっとお代わりのクッキーと紅茶をテーブルに戻し、改めて蛇喰へと問いかけた。




「ふふ、面白い人だね涼真さん。




 想像よりもずっと接しやすくて安心したよ——。




 そうだな、まずは僕の、いや僕たちの『力』のことから話そうかな? おーい、そろそろ入って来なよ」




 俺の問いかけに整った美少年の笑みで応えた蛇喰が執務室の奥にある扉へ向かって声を掛けた。




「……、わーっとるわい、ど阿呆」




 言いながら現れたのは燃え盛る炎の様な髪色に目つきの鋭い高身長の青年。




 コイツは確か蛇喰とあの時一緒にいた。




「紹介、は要らないと思うけど、一応。彼は〈クラン〉紅蓮獅子のマスター、緋獅子(ひじし)炎真(えんま)君だよ、ほら挨拶して炎真君」




「うそっ、エミちゃんのお兄さん!?」




「誰が『君』じゃ気色悪いっ、おうおっさん!


 あの赤黒のガキはおらへんのか? ワイの目的はあのガキとのリベンジや! もういっぺん勝負——」




 横柄な態度でどかっと蛇喰の隣に座り込んだ緋獅子は開口一番『エハド』と再戦させろとイキリ散らかして来たので、流石に現実の理解出来てない青二才に灸を据えてやる事にした。




「エハドと本気で戦いたいなら」




 俺は手のひらに『火球』を一つ生み出した——。


 瞬間、アルバが結界で舞衣を保護。




「え……? アルバ君?」




「——っ、が!?」


「な、なんや、この熱量、ぐぅ!?」




 目の前の二人はどっと汗を吹き出す。




 急速に上昇していく部屋の温度にカップの紅茶が瞬時に蒸発、パキンと音を立てて全てのカップが割れた。




 蛇喰と緋獅子が体内から失われていく水分に喉を掻きむしり呻き声を漏らし始めたあたりで、俺は『火球』を消す。




 これ以上やったら死んでいただろうな。




 俺は床に転げ落ち、今だに呻いている二人へ【治癒】を発動。




 一気に乾燥し切った空気を整えるのに【風】と【水】を使用して簡単に加湿する。




「……今の十、いや、百だな、今の百倍の熱量に耐えられる耐性がないと、そもそも力を解放したエハドの前に立つことも出来ないぞ?」




 やっとの思いで息を整えた蛇喰が備えてある冷蔵庫へと急ぎ水を取り出して一気に煽る。




「ふぅ……飛んだ巻き添えだよ全く。


 涼真さん、このバカが悪いのは全面的に同意するけど、次同じような事をやる時は一声掛けるか、僕は巻き込まないでくれないかな」




 不機嫌そうに緋獅子を睨みながら一緒に取り出した水のペットボトルを、茫然自失として動けない様子の緋獅子へと投げ渡す。




「……っ、く、わ、悪かったわぃ」




 投げ渡された水をやはり勢いよく煽った緋獅子は口元を拭い、不貞腐れたような雰囲気で大人しくソファーへと座り直した。




「はぁ、……彼にとって『炎』を使う事に関しては誰にも負けられないっていう矜持ってやつかな? だからエハド様? 相手に手も足も出なかった事が悔しかったみたい。




 涼真さんにも『炎』で敵わないことがわかった今、彼のプライドは粉々〜って状態かな」




 自業自得だな。




 己の力に溺れ増長した奴は必ずいつか折られるのが『闘争』に身を置く者の常だ。




 だから、妹よ、そんな非難するような視線を俺に向けるな、絶対悪いのはコイツだったじゃん? お兄ちゃんは悪くないからな?




「まあ、事情はわかったが事実だ。




 正直、エハド相手に『炎』で戦うとか、俺でもゾッとする。




 冗談抜きで『太陽』相手に『火炎放射器』で喧嘩売るようなもんだからな」




「……はは、マジ?」


「……」




「え、エハドちゃんってそんなに強いの?」




 俺の嘘偽りない言葉に最初は冗談のように受け取った蛇喰もゴクリと唾を飲み、緋獅子はジッと床を見据えて沈黙。




 家で母たちと戯れていた様子を知っている舞衣は素直に驚いていた。




「はあぁ……、誰かさんのせいで大分時間を無駄にしちゃった。




 話が外れちゃったけど僕たちの『力』について説明するよ」

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