第83話:お慕いしております!!
「ううむ——。
その王家?が積極的に我が家を攻撃する可能性は低いんだろう? それにな、涼真。
息子のお前が理不尽な目に遭っているのに自分だけ巻き込まれたくないなんて、親として思うわけがないじゃないか。
あ、雪乃さんこっちの色紙にもサインを……出来れば名前つきで、へへ」
「そうですよ? それに今はソフィアちゃんも、シュナちゃんにシャロちゃん、あとエハちゃんだったかしら? この子も可愛いわぁ〜。
こんなに可愛い娘達ができたんですもの、もう涼真だけの問題じゃないわよ?
当然母さん達の問題でもあるんだから、今日は出前のお寿司でいいかしら? 雪乃さんも是非食べていらしてっ」
俺の説明を受けて、逆に冷静さを取り戻したのか雪乃にサインを強請る父と、新たに加わったエハドを撫でくりまわして、平常運転に戻った母。
俺は両親の豪胆さに呆れ半分、頼もしさ半分といった感じで唯一常識人枠の妹へと視線を向ける。
「クランマスターが言ってた『支配者』がその『王家』?
ん〜、あたしじゃ判断できないな、ねぇお兄ちゃん!
良かったら一度あたしの〈クラン〉にきて、マスターと話してみてくれない?
もしかしたら力になってくれるかも! 蛇喰マスターにもお兄ちゃんとの時間をセッティングして欲しいって頼まれていたし!」
予想以上に現実的な提案が返ってきた。
「俺が、あの小僧みたいなマスターに?」
そういえば、あの青髪——蛇喰蒼真だったか? 赤髪の奴と一緒にエハドが吹き飛ばしてからそのまま放置してしまっていた。
一応【治癒魔法】は咄嗟に掛けたから怪我は完治しているはずだが……。
舞衣の上司でもあるわけだし、一応詫びの一つくらいはしておかないとマズいかもな。
「小僧って……まぁ、かなり幼い見た目ではあるけどね? 会ってくれる?」
「まあ、別に会うくらいなら……」
「よし、そうと決まれば早速報告とアポの確認しないと! 詳しい日時が決まったら教えるね」
何故か仕事モードに切り替わった妹は〈デバフォン〉を片手にこの微妙な空気の俺たちを容赦無く放置して席を離れていった。
「……エセ勇者」
「……なんとでも、元々分不相応なので」
未だに険しい顔で俺の肩越しに睨みつけるソフィアと涼しい表情でそれを受け流している雪乃真白。
さて、こっちの問題はどうしたものか。
「あ、そういえばソフィアちゃん! 前々から言ってた『戸籍』きちんと取得できたよ。『探索者専門学校』の受験手続きもしておいたから、そのつもりで宜しくね」
『雪乃真白サイン』を私物やら色紙やらと大量に入手して上機嫌の父が唐突に重大な話をぶち込んできた。
マイペースすぎるだろ俺の家族。
「へ、あ……ありがとうございますっ、お父様」
ソフィアもいきなりの話題に戸惑い、猛る獅子のような様相から借りてきた猫のように居住まいを正して父に頭を下げている。
「ところで涼真。 その、王家? よくわからないけど雪乃さん、あなたの為にわざわざ危険を犯してその人たちと縁を切ってきたんでしょ?
だったら中途半端なことしないで、雪乃さんの事もソフィアちゃんと一緒にきちんと守ってあげなさいよ? 男の子なんだから」
数百万の兵をたった一人に差し向けて関係ない村や町まで平気で巻き込むような奴らを相手するのに『男の子』だからって——まぁ、それを言われると確かに、そうなんだが。
「あ、あの、お母様、お母様の仰っている事もわかりますが、私と彼女は——」
母の言葉をしっかりと聞いていたソフィアは、おずおずと反論を試みようとして、そんな母はニコリと笑顔を向けてソフィアの言葉を遮った。
「ねぇ、雪乃さん、いえユキナさんとお呼びした方が良かったかしら?」
「は、はい、お母上様。どちらでもお好きな呼び方で——」
「? あなたは、どちらがいいの?」
「——っ、ユキナ、ユキナとお呼びください」
ソフィア以上に表情の薄い雪乃真白……ユキナは母のおそらく何の計算もないが無意識に確信を貫いてくる素朴な疑問に大きくその瞳を揺らし、込み上げてくる感情を抑えるかのように俯き応えた。
「ふふ、ユキナさんは『雪乃真白』さんより『ユキナ』さんの方が可愛いわね? それで、ユキナさんはリョウマの事、どう思っているのかしら」
「ぶふっ——、ちょ、母さん何の質問だよ」
万難を打ち砕く超ストレート豪速球に思わず吹き出してしまった。
どうって、そりゃ兄?
いやあった頃の年齢差を考えると父的な感じなのだろうか?
どちらにせよ保護者のようなものだろう。
「お慕いしています」
「あらぁ〜」
「お、おしたい? 推したい? え?」
「……っ! 私、私だって! す、すぅ……、す」
母のド直球に間髪入れず即答で返したユキナ。
お慕いって、いやいや、冗談だろ?
悪い気はしないけど、あんまりおっさんの純情を弄んじゃダメだぞ?
冗談だった時の切り替えとか、この年齢になると簡単じゃないんだぞ?
後ソフィアはどうした? 何かしら対抗しようとしているのか、口を『す』の形にしたままプスプスと赤面して萎れていったけど……。
取り敢えず何故かのぼせてしまったソフィアに微風を【魔法】で送りつつ、真剣な顔で母を見つめているユキナとニコニコ顔の母に視線を向ける。
「なるほどね、じゃあユキナさんは涼真と結婚したいのかしら?」
「け、結婚、だなんて、恐れ多いです。わたくしは、メイドとして涼真様にお仕えしてこの身を生涯捧げられれば、それだけで、幸せです」
「そう? じゃあ涼真が別の人と結婚しても側にいられるの? 別の子と幸せそうに笑う涼真を見ていられる?」
なかなかに容赦がない母の指摘。
先程から父など母の様子にビクビク震えている。
そんな母とユキナの問答がやはり気になるのかソフィアは火照りから冷め、二人のやり取りを見守っていた。
「わたくしは、涼真様に命も心も救って頂きました。
当然この世界の何者よりも涼真様をお慕いしている事は事実です。
ただ、この想いは『対等でありたい恋愛』ではなく、どこまでもいっても『追いかけ求める恋慕』です。
わたくしは、涼真様がわたくしではない誰かと添い遂げ幸せであるなら、それはわたくしにとっての幸福。
わたくしの選ぶ道は、恋として交わることはありませんが『別れ』もまた存在しない、生涯をかけた片思いなのです。
勿論、手を出してくださるなら全力でこの身を余すことなくお捧げいたしますが」
母は静かにユキナの言葉を聞き、噛み締めるように頷いて優しくユキナを見つめ返した。
「まずは、ありがとう。涼真をそんなにも思ってくれて……母としてこれ以上ない幸せだわ。
決めた——ユキナさん、あなた私の娘になりなさい。
戸籍上も本当の娘として、だから涼真とは義理の兄妹ということになるのかしら?」
「——っ!? お母様!?」
「母さん!? それは幾らなんでも」
「ほぇ〜、雪乃さんが娘か〜、悪くない、いや、むしろ最高だよ母さん」
父の、のほほ〜んとした言葉で流される母のとんでも発言に俺たちは硬直して動けなかった。




