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第78話:『聖王』

 某高級ホテル、都内が見渡せる高層階のスイートルーム。




「バルム・ノヴァルディア聖王様、『月影の聖女』朧月(おぼろづき)(つむぎ)様がお越しになりました」




 見るからに好々爺な面持ちの聖王バルム・ノヴァルディアはホテルのドア越しに声をかけてきた専属の従者に穏やかな声色で応える。




「ふむ、よいよ。通しなさい」




「畏まりました」




 従者の足音が遠のいていき入れ替わるように扉の前へと新しい気配が現れる。




「失礼いたします。聖王様、紡です」




「はい、お入りなさい」




 バルムはゆるりとした足取りで扉へと歩み寄り手ずから扉を開けて来客を招き入れた。




 純白の質素だが高級感のある生地のドレスは女性の豊満で魅惑的なボディーラインを強調し、素顔を覆い隠す薄いベールはどこか魔性を感じさせる。




『月影の聖女』朧月紡。




 聖王バルム・ノヴァルディアが実質的な支配権を持つ〈クラン〉ノヴァルディアのカリクスを任せている『現在』のクランマスターだ。




 朧月紡は品のある所作で礼を返し、バルムに促されるままリビングルームに設えてある重厚感のあるソファーへと腰を下ろした。




「ルームサービスはいるかね?」




「いえ、お気遣い感謝致します聖王様」




 朧月紡の『隣』へ腰を下ろしたバルムは、夕焼けの日差しが差し込み始めたバルコニーの窓を眩しそうに眺め、〈デバフォン〉の遠隔操作でカーテンを閉めた。




「……」




「これは、この世界で六〇年ほど熟成され四〇本しか瓶詰めされず一般市場には流通しなかった希少な『スコッチ』でね。どうだい?一杯付き合ってくれないか?」




 一本約四億円相当で落札された希少なウィスキーのボトルを躊躇なく開け、相手の返答を待たずにバルムは用意した二つのロックグラスへと注いでいく。




 聖王バルムが希少な酒を手ずから振る舞うのだ。




 元々相手に拒否権など存在しない。




「……光栄です。いただきます」




 極上の滑らかさと芳醇さの余韻が喉を焼きながら滑り、胸を熱く激らせる感覚に思わずバルムは唸り、腰を深くソファーへと落としながらグラスを回す。




「……っ」




 あまり強い酒を飲み慣れていないのかグラスを唇をグラスにつけた瞬間顔を顰める女性の様子を流し見ながらバルムも再び極上のスコッチを舐める。




「勇者の子とは接触できたかね?」




「——コホっ、失礼しました。はい、ですが相変わらず掴みどころがなくお望みのような進展は得られませんでした」




 若干涙目になりながら咽せる様子に好々爺然とした柔和な笑みを浮かべたバルムが自然な所作で女性の背中に手を回してそっと労わるように撫で、




「それは残念、まあ良いでしょう。今は美女を肴に頂く極上のお酒を楽しむ時間です」




 撫で続けているバルムの手つきが次第に背中から腰、臀部へと降りてきた所で女性が肩をピクリと震わせた。




「聖王様……お戯を。四大〈クラン〉会議がこの後入っておりますので、ワタシはそろそろ」




 そっと包み込むように手を握られ、上品にその手を引き剥がされるバルムは逆に相手の手首を掴み、豊満な女性の身体を強引にソファーへと押し付けた。




「誰のお陰でお前のような端女が国を代表する〈クラン〉のマスターで『月影の聖女』などと二つ名を名乗れているか——理解できない貴女ではないでしょう?」




「……っ、はい」




 思わず曝け出してしまった素顔を取り繕うように再び柔和な笑顔を浮かべる『聖王』バルム。




 諭すようにベールの剥がれた朧月紡の瞳を覗き込めば、ふとその身体から力が抜け震える唇が静かに頷いた。




「素直で大変よろしい。心配しなくても貴女の地位は今後も盤石。『趣味で飼っている若者』も好きなだけ囲うとよろしい、だけどね、儂の命令は絶対だ。次は『勇者』を儂の前に必ず連れてきなさい」




「——、畏まり、っ!?、ました……ッ」




 ソファーに広がった桃色の髪を弄びながら、バルムは自身でも自覚し理解している爛れた妄想に心昂らせる。




 ただ、今は己の手の中で悶える美女の表情に愉悦を感じ満足げに微笑むのだった。

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