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第77話:The修羅場

「りょうまさ〜んっ! どこにいるんですかぁ〜!!


 ってぇえ! 人の『獲物』にちょっかいかけてる泥棒猫がいるっ!?」




 後方から聞こえたエミの声に霞がかかったような思考が晴れ、直後背中に軽い衝撃と人肌。




「どこの誰だか知りませんけど! 今はウチのターンです! りょうまさんから離れろオバハン!」




「あら、いつのまにこんな若い、いえ子供っぽい女の子が趣味になったのかしら?


 せめて年齢相応の相手じゃなきゃ? 彼女みたいに顔だけじゃなく『体も幼い』とパパ活〜なんて疑われちゃうかもしれないわ?」




「——っ!? 言ってはならないことを言ってくれちゃったね、この年増女」




「うふふ、あなたこそ? いい加減リョウマから離れたらどうかしら?」




 俺は正面と背後から抱きつかれている状態にようやく理解が追いつく。




 この状況は、色々とまずいだろ。


 行き交う周囲の人々から向けられる奇異の視線が痛すぎる。




 一先ず複雑な感情やら混乱を棚に上げたくなる気恥ずかしさと、不覚ながらも女性遍歴を拗らせている自覚がありすぎる俺にとって、冷静を保てそうにない温もりと感触が前と後ろ同時に——。




「っ!! この魔力は、ヤバい!?」




 最近では身近すぎる魔力の波長。




【ゲート】が開く予兆に俺は身悶えるが、がっちりと抱きついたままお互いに俺を取り合うように力を込めている二人を振り解けない。




「ん? あれ? ソフィアちゃん? 急にどうし……ぁ、あぁ〜成る程そういう……これは先輩言ってくれなきゃ」




「ふふ、まだ『魔の血』に魅了されてしまっていたのね、可哀想なリョウマ」




 元々表情の揺れが掴みにくいソフィアの顔から完全に感情という色が抜け、俺と俺に抱きついたままの二人を静かに、俯瞰。




「……【十三階梯魔法:ヴェルミル・ドラグエクリプシオン】」




 無感情な声色が紡いだ、紡いでしまった【魔法】に俺は思わず耳を疑った。




「光を喰らう【闇龍召喚】っ!? ソフィアっ! 落ち着け、そんな【大魔法】をこんな場所で放ったら!」




 俺は咄嗟に前後の二人を庇うように前へ出て【闇属性】の極致たる【神域級の魔法】を迎えるべく〈聖剣〉の柄を虚空から呼びだし、




「無粋ね……これだから『魔族』って嫌いだわ?


 それとも、会話と言う概念が存在しないのかしら? 【十三階梯魔法:ルナティア・セラフィムルーメア】」




 世界から光を喰らい尽くす龍の黒蝕に対し、顕現したのはまさしく『大天使』。




 神々しい月光のような淡い光が黒に世界を染める闇色の龍とぶつかり、相殺。




 周囲の人々が唖然、騒然とする中、光と闇の極致がぶつかり合った後に『光が』黒く貪られた空間を全て包みこむ。




 幻想的な彩りと降り注ぐ光は人々の注目を一点に集める。




 まるでイルミネーションのサプライズ演出にでも見えているのか最後には聖光の彩る煌びやかな雨にそこかしこでささやかな拍手が巻き起こった。




「——っ、私の【魔法】を塗り替えた?あなた、何者!?」




「わたしは『本物』よ、短気な魔族のお嬢さん?


 『雪乃真白』のような使い回しのハリボテとは違う、本物の『聖女』。




 ちょっと目立ち過ぎちゃったわね? 騒がれると面倒だから今日はもういくわね? また会いましょうリョウマ」




「っ! ——ツクヨ」




 片手間でソフィアの魔法を相殺しただけでなく周囲の混乱を抑え魅了さえしてしまった元、勇者パーティーの『ヒーラー』にして『聖公国』が掲げていた『聖女』ツクヨ・ルミナリア。




 彼女は悔しげに下唇を噛んで俯くソフィアを流し見たあと俺の頬に後ろ髪を引かれるような面持ちで手を触れ、静かにその場から離れていく。




「お前は、お前はあの時! 本当に俺をっ——」




 何を馬鹿なこと、と思ってはいても衝動的に口をついて出てしまった心の澱。




 俺の声にピクリと動きを止めたツクヨ・ルミナリアは薄桃色の長い髪を揺らして小さく振り返ると唇に人差し指を当て、声を出さずに告げた。




『次は、二人きりで』




 俺は遠のいていく彼女の背中をしばらく見つめ、急速に取り戻した現実感に慌ててソフィアへと意識を戻す。




 まずはソフィアを落ち着かせて誤解を解かなければと働き始めた思考が、重要参考人を視界の端に捉えた。




「ウチ! 先輩から何にも聞いてなかったんで! そういう昼ドラ的な奴は望んでないので! じゃっ! 失礼しまーすっ!」




 いつの間にか大分距離を取っていたエミは文字通り脱兎の如くその場から逃げ出していった。




 誤解を解くための証人兼重要参考人の逃走に歯噛みしながらも俺は俯いたままのソフィアを宥めるように声をかける。




「ソフィア? あ、あのな? この状況にはちゃんと訳があってだな?」




「……ィ」




「? とにかく誤解だからな? あと、流石にこんな場所で人智を越えた【闇魔法】をぶっ放すのは流石にやり過ぎ——」




 パチ、と頬に軽い衝撃、乾いた破裂音は普段から受けている何気ない拳や魔法に比べるまでもなく何の痛痒も与えない程に弱々しく——。




 なのに、とても『痛く重い』と感じた。




「……キライ、大っ嫌い」


「——っ!?  ソフィアっ」




 真正面から見つめたアメジストの瞳は溢れる涙で満たされ、こぼれ落ちる雫に思わず伸びた俺の手を弾いたソフィアは瞬時に作り出した【ゲート】へとその姿を消す。




「——、なにを、やってんだよ、俺は!」




 まるで止まっていた時が動き出したかのようにザワザワと喚き立つ周囲の喧騒も今は忘れ、俺は届かなかった自分の愚かな手と『闇の穴』に消えていった少女の後ろ姿を未だに追いかけながら、ただ立ち尽くす事しかできなかった。




「キライ、か。真っ直ぐ言われると痛たいな……結構」




 異世界では散々罵り、嘲り、謂れのない誹謗中傷は散々浴び続けてきた。




 そんなものはとっくに慣れていた筈、なのに自分が『言葉』で刺し傷のような痛みを未だに覚える『心』があることに寧ろ驚き、同時に落胆する。




「あー、クソっ! とんだ大馬鹿野郎だよ、俺は」




 どこに『飛んだ』のかわからないソフィアを追う、べきなのか、今追いかけて、何を話すべきなのか。




 余計に傷つけるだけなんじゃないか……。




 答えの見つからない自問自答に混乱する頭を掻きむしりながら俺の足はどこへともなく歩き出すのだった。

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