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第74話:大人な『姉』

 あれから買い物巡りは終始舞衣のペースに振り回され続け、




「……」




 ソフィアは露骨に不貞腐れていた。




「ゴメン、ゴメン。アタシも久しぶりの買い物でテンション上がっちゃってさ〜、それにソフィアちゃんという至高の素材があるのに着せ替えしないなんて有り得ないし!




 まさかEすら超えてFだなんて思わなかったけどね……。




 サイズ違いってそっちかーい、ってなるし。


 可愛い、小顔、華奢で巨乳とか属性盛りすぎでエグい」




「え、と、お姉様? お姉様〜?」




 気がつけば自分以上に陰鬱とした雰囲気を漂わせていた舞衣に慌てて声をかけるソフィア。






「お待たせしました〜、こちらご注文の『宇治抹茶のフラッペ』でございます」






 ハッと我に返った舞衣は、同時に運ばれてきた商品。


 ソフィアも注文した——、いや、させられた。




 抹茶?のフラッペなるものを一口含むと幸せそうな笑みに切り替わる。




 現在ソフィアたちの居る場所は休憩に立ち寄ったテラス席がなんとも小洒落た街角のカフェ。




 異世界の『人族』でも貴族階級しか出入りしないような外観に最初は僅かばかり躊躇してしまったソフィアだったが、店員にしろ客層にしろ極々庶民的な雰囲気であることに内心ホッと息をついた。




 現代の知識を学び、この国についても理解を日々追いつかせているソフィアではあるが、やはり元の世界では考えられなかった国全体での生活水準の豊かさを直接目にする度内心ではドキドキと胸をならせている。




 魔王である父からは『もっと感情を表現する術を身につけろ』などと無表情に言われ一週間程無視し続けた記憶が一瞬過ぎる程にはソフィアの感情を読み解くのは至難。




 涼真からは『大人な反応』などと過分な評価を受けているが実際のところは単に怠惰な表情筋によるところが大きいとソフィアは常々感じていた。




「あれ? 抹茶嫌いだった? 飲んでみてよ、ここの抹茶フラッペは本当に美味しいんだから」




「あ、あー、はい。飲んでみます」




 魔族にも『魔王』がいるように当然『国』があり、『民』があった。




 貴族階級も【魔法】に血統を重んじていた魔族たちには当然のように存在していたが、人族ほど『数』を増やせない魔族はどの時代にあっても『豊か』とは言い難い国営を強いられていた。




 ソフィアに至っては『姫』であるにも関わらずそんな時代すらも経験したことがない。




 正直、元の世界で口にしたことがある『飲料』など『水』くらいのもので、時折涼真が持ってくる『果実水』はソフィアの胸を内心では飛び上がる程にトキメかせたものだ。




 そんなソフィアだからこそ、いや、ソフィアですら、わかる。






 抹茶——『濃い真緑色の飲み物』はどう考えてもヤバい、と。






「……っ」




 父譲りである表情筋の体たらくに歯噛みするソフィア。




 豊富すぎるメニューと『単語』の難解さに内心では滝汗を吹き出していたソフィアの視線が固定されていた先に偶然あったメニュー『抹茶フラッペ』。




 それを舞衣は『抹茶フラッペ興味ある? ここのめっちゃ美味しいから一緒に飲もうっ』と勢いで頼まれ、うまく表情に出せないソフィアは思わずクールに承諾。




 最初は、舞衣がオススメする物に間違いはないだろうと高を括っていたが目の前に運ばれてきた商品を見て絶句。




 『魔の森』に生い茂る木々の葉と同じような濃い真緑だった。




 圧倒的に緑な液体にあろうことかクリームを浮かべた、コレは。




「お姉様は、その、この緑の……抹茶? を飲んでも平気?」




「ん? 平気? というよりむしろ好き? まあ、外人さんがたまに『緑色』の衝撃にびっくりしちゃうみたいだけど——、てソフィアちゃん『メロンクリームソーダ』好きじゃなかった? アレも緑じゃ」




「クリームソーダの緑は透き通っていて、キラキラして、綺麗。昔……リョウマが持ってきてくれた『果実水』も色々な色があって、綺麗だったから——。でもこの『緑』は、なんか、違う」




 確かに言われてみればソフィアの至高である『メロンクリームソーダ』も緑ではある。




 だがあのメロンクリームソーダは緑であって『緑』ではないのだ。




 この抹茶の『緑』はなんというか、ソフィア的に許容できない緑、いや、『ミドリ』だ。




「お兄ちゃん、ねぇ……。あのさ、ソフィアちゃん」




 ジッと目の前の『抹茶』を威嚇するように睨んでいたソフィアは不意に名前を呼ばれ、




「えい」


「はい——むっ! むぅう!?」




 クリームを溶かし飲むために添えられていたスプーンに掬い乗せられた『ミドリ』を口の中に突っ込まれたソフィア。




「どう? 美味しいでしょ?」


「——っ! お、美味しい! です」




 爽やかな苦味と甘みが絶妙にマッチした、なんとも表現しづらいが深みのある味わいに思わず目を開いたソフィアは、無言で自分の『抹茶フラッペ』を飲み始める。




「まぁ、なんとなくは察してたんだけどさ……ソフィアちゃんって、お兄ちゃんの事、好き?」




「! す、すき? 好き……、私は、リョウマのお嫁さん、になりたいです」




 いつの間にか夢中になっていた『抹茶フラッペ』の感動を突然舞衣から投げかけられた質問が打ち砕く。




 ソフィアは上手く咀嚼できない舞衣の問いかけに数瞬、思考を停止させ、恥じらいの気持ちを込めながらも自分の思い描く『理想』を口にした。




「ん〜、それは前も聞いたし、基本的には反対なんだけど……そう言うのじゃなくて『男性』としてお兄ちゃんの事、ちゃんと『好き』って思ってる?」




 現状、『涼真のお嫁さん』になりたいと言う気持ちは実のところ、涼真の父にも母にも、勿論舞衣にも涼真の居ないところでしっかりと打ち明けていたソフィア。




 涼真の父と母に関しては『ソフィアちゃんが本当の娘になるっ』と大賛成の意を表明してくれた。




 しかし、舞衣に限っては至って冷静に、




『——アタシは反対。


 話を聞く限りソフィアちゃんの見てきた『世界』は狭すぎる。ソフィアちゃんはもっと色々な経験をして色々な『世界』を見るべきよ。未来を定めるには早すぎるし、若すぎる』




 と、最もすぎる反対を押し付けられた。




 その後もソフィアの口から出てくる『感情論』では舞衣の首を縦に振らせる事は出来なかった。




 そんな舞衣の言う『世界を知る』第一歩が今日、舞衣と一日買い物デートをする、という日。




 確かに今日舞衣と過ごしたわずかな時間でソフィアの『世界』は大きく広がったと言えるだろう。




 それでも、ソフィアの気持ちは。

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