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第72話:所謂『自宅警備員』

 ドタバタと玄関を後にする妹と——彼女? 想い……人? の後ろ姿を見送った俺は着替えを終えて、改めてソフィアが出ていった後の玄関を見つめ、ほんのりとセンチな気分に浸る。




 怒涛の帰還からダンジョンにスタンピード騒動の最中にあって自覚した良い歳こいたおっさんの恋心と超絶的な美少女の真っ直ぐな恋慕。




 所謂『両思い』だと言う事に恐らく間違いはない……はず。




 特に『付き合ってください』的なイベントを経たわけではないが、ソフィアは『お嫁さん』を自称し、俺はそれを受け入れた。




 結果的に『彼女』という立ち位置にソフィアが立っていると考えても可笑しくは、ない、はずなのだが。




 アレから特に何もない。




 というか、妙に気恥ずかしくて『恋人』のような雰囲気になどなれないし、向こうからも特にそんな雰囲気は感じない。




 至って平穏。




 強いて言えば、ソフィアもコチラの生活に慣れ今朝の様な出来事が増えたくらいだろうか。




 正直に言おう。




 ぶっちゃけ、俺は、ビビっている。






 もし……万が一にだ、俺が一人で舞い上がって素敵な勘違いを引き起こしているだけだったら、どうする?






 三十路も折り返しに入った大人が、年下の美少女に両思い的な恋心を抱いた挙句、独りよがりの勘違いだったら?




 これほど醜い惨劇があるだろうか?




 俺はそんな惨状を客観的に直視できる自信がない。




 事はこれからの人生を左右しかねない程に重大なのだ。




 慎重に行動しなければ、死ぬ。




「はぁ〜、リョウマちんヘタレ〜」




「それな〜、アタイ的にはフィアちゃあんの健気さに胸打たれまくりぃ〜、マスターは本気で数回は自死した方がいいよネ」




「本当に、ソフィアちゃん一生懸命なのに可哀想。鈍感で女心に鈍い所はきっとお父さんに似ちゃったのねぇ」




「「「はぁ〜」」」




 息をぴたりと合わせて人の気も知らずに言いたい放題言ってくれている『水猫』と『雷鳥』と当然の様に並ぶ『母』。




 何だかんだ騒動が落ち着いてからコイツらは普通に俺の実家へと帰ってきて、最初は『話題のライバー』だとか『異色の地下組織アイドル』がやってきたとか騒ぎになった我が家だったが母と父は『娘が増えた』とすぐ様順応。




 意外と『流行り物好き』だった妹もテンション高めに受け入れていた。




 うちの家族ってこんなに適応力高かったのか、と驚かされたものだ。




「俺だって、ちゃんと考えた上でだな——」




「っちぃ、あからさまな圧力でアカウントBANはされてないけど、明らかに作為的なアンチとかキャラ被せにきてる輩が増えすぎっしょ。アタイが強硬手段を取り辛い微妙な立ち回りしてくれちゃってさ! ノン! シャロたんを本気にさせたら世界がどうなるか、わからせ必須?」




「ボクもアンチがずっと張り付いて動画アップ直後にコメ欄埋められるっ! おかげで登録剥がれまくりだよもうっ!


 一旦全部『流して』リセットするかな」




 朝っぱらから言いたい放題なシャロシュとシュナイムへの怒りを母の手前、冷静に大人として一旦収め平常心で返そうとした俺の良心。




 だったが〈デバフォン〉を弄りながら完全にシカトする一応契約精霊の二柱に荒れ狂う魔力を立ち上らせていると。




「二人とも〜、食後のおやつよ〜『携帯』やめてコッチにいらっしゃい」 




「「はぁ〜い♪」」




 まるで本当の子供の様にキラキラと純真無垢な笑顔でダイニングへと小走りで向かう『史上最悪の天変地異』と畏れられる『神域の精霊』二柱。




「あらあら、本当に可愛いわね二人とも。もう娘も同然なんだから、遠慮しないでたくさん食べてね」




 それを当然の様に懐かせ従えている俺の母が大物なのか、尊敬のカケラも無く好き放題言われている契約主なはずの俺がダメなのか。




 どちらにせよ、アイツらが本心で笑っている事は事実なわけで、すっかり毒気を抜かれた俺はそんな穏やかな光景にほっこりと気持ちを落ち着かせ——。




 腕に振動、〈デバフォン〉に、通知?




「なんだ? 『お客様のお支払い情報は使用できません』——ん?」




「あ、ごめんリョウマちん!


 渡してた『カード』だけど、ボクのファンになっちゃった『アウトロー軍団』さ、なんか『慈善活動』的なやつに目覚めちゃって、なんだっけ、しのぎ? は卒業するんだって。




 ボクもいま活動維持に結構資金回しちゃってるから、その『カード』もう使えないんだよね〜、あと今月からソフィアちゃんに渡した〈デバフォン〉の使用料もリョウマちんに請求いくから、ヨロ〜」




 なん、だと——。




 この、魔法より便利な『漆黒のカード』が? 




 つ、つか、えない?




 足元にフラつきを覚えた俺は何とか壁に寄りかかり、救いを求めるような眼差しをプラチナブロンドの長い髪を揺らすシャロシュへと向け。




「あははぁ〜、マスターに援助? 『高評価』の恩恵を頼っちゃノンノン! 『シャロシュシュチャンネル』は頂いた高評価の恩恵は全て『課金』でブッコむと操を立ててるからぁ〜むりぃ〜」




「やだわぁこの子ったら——。


 仕方がない事情があったとは言え、いい歳してこんな可愛い女の子に養ってもらおうだなんて! 恥を知りなさい!


 今後は涼真がきちんと働いてお家にお金を入れられる様になるまでご飯は半分! おかずは一品抜きですからね」




「うっ——それは」




 視線を静かに動かせばニチャァっとした笑顔で並ぶ契約精霊ズ。




 俺から言わせてもらえればコイツらは究極俺の『力』であり、対等な『仲間』でもある。




 故に彼女らが能力を活用して稼げばあやかる事に躊躇いはない——というか俺の魔力供給受けながら能力使いまくっているのでその位の権利はあると考えたい、が。




 側から見れば確かに見た目十代の控えめに言っても『美少女』を働かせて貢がせる『大人』という構図に見えなくもない。




 いや、見えるだろう。




 つまり現時点で母の目に映る俺は、年端も行かない『少女』の稼ぎを当てにするどうしようもないドラ息子という風になる。




 世間的に見ればどう頑張っても『クズ』だな。




「働く、か……やはり〈探索者(シーカー)〉しかないよな」




 正直『王家』の人間がこれだけ現代に関わりを持っている時点で〈探索者(シーカー)〉という制度や『ダンジョン協会』など最早信用に値しないし、できれば関わりたくもない。




 奴らのやり口も今回の『ダンジョン騒動』の収め方も腹ワタが煮えくりかえる思いを必死に抑えているくらいだ。




 何が狙いなのか精霊達に接触して以来不気味なほどに動きがない、というより相手側も俺から距離をとっているようにも見える現状がある。




 家族やソフィアの未来を考えればここで俺が短慮を起こすべきではないのは明白。




 だから今後の身の振り方をアニメとか漫画とかネットショッピングに浸って考えていた訳だが。




「ノン、『郷に入っては郷に従え』だっけぇ?


 アタイらもネチネチ攻撃エ〜ンド、ネット上で監視はされてるけどさ、短気起こさずステイ・ザ・セイムっ! 平和に生きたいなら多少はフリーダムレスんなきゃだよねぇ」




「それにさ、リョウマちん!『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言うんでしょ? 〈探索者(シーカー)〉として働いてたら〈ダンジョン〉にも堂々と入れるわけだし? 相手もリョウマちんを監視しやすくなるんだからアリだと思うけど」




 呑気に母の淹れた紅茶を啜りながら他人事の様につらつらと……愚の音も出ないじゃないか。




 だいたい何でお前らが『現代語』で俺に説教するんだよ。




 こういうのは普通逆の、多分俺のセリフなはず!




「はぁ。見た目は大人になっても中身はあの頃のままね。


 それはそれで微笑ましくもあるけれど、涼真の社会性が抜け落ちちゃってるのはお母さんとても心配だわ……、それより舞衣に何か頼まれているんでしょ? 行かなくていいの?」




【精神干渉系】の【魔法】をほぼ無効化する俺の耐性を突き破ってくる母の小言が痛い。




 十五歳で現代とはまるで文化水準の違う『異世界』で二十年も『戦い』しかしてこなかった俺だぞ?




 ただ、言わんとせんことはとても痛いが理解できるので大人しく苦笑いで誤魔化しておく。




「舞衣を怒らせるのも面倒だし、『厄介ごと』でも行かなきゃな」




 母以上に小言が喧しい妹の顔を浮かべるだけで辟易としてしまう。




 ソフィアとの進展が皆無なのも『慰労特別休暇』とやらで家に居る舞衣がソフィアとベッタリな事も原因の一つ、というか八割方アイツが原因だろ。




 俺の意気地のなさはきっと残りの二割くらい、なはずだ!




 どうにもやりきれない気持ちを抱えたまま俺は舞衣に指定された場所へと向かうため一週間ぶりに玄関の扉を開いた。

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