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第68話:友達ゼロ宣言

 体が浮遊感に包まれ、心地よい暗闇が明ける。




「ふぅ〜、無事に戻ってこれたか——」




 視界が開け、尻餅をついた状態で手を這わせれば現代感あふれる床の感触に人工的な照明。




 ホッと胸を撫で下ろし、危機を乗り越えた余韻に浸りながら視線を上げた瞬間、俺は硬直する。




「「「「「……」」」」」




 ソフィアを筆頭に仁王立ちでぐるりと俺を取り囲む視線。




「あ〜、お兄ちゃん——無事で良かった、今から無事なのかはわかんないけど」




「お兄さん、客観的にはカッコよさげな判断でしたけどぉ〜待たされる方はたまんないですよね〜、あ、でも、ウチは嫌いじゃないですよ! 副マスと違って男らしい!」




「——、愚の音もでないとはこの事か、だが緋獅子君?キミはちょっと上司に対する態度が」




「あーはいはい二人ともストップ! 色々積もる話もあるだろうし、アタシ達も〈クラン〉で報告とかあるから、一旦これで! みんなの事はこの三人の秘密にするから、大丈夫! 無事に帰ってくることを祈ってるよ! お兄ちゃん!」




 目の前の光景が悍まし過ぎて気がつくのが遅れたが、どうやら此処は初めて〈ダンジョンゲート〉を潜った『役所の様な建物』らしい。




 モンスターに破壊されてメチャクチャだが既視感のある階段を場の空気に耐えられなくなった舞衣が二人を連れて逃げるように走り去っていく。




 薄情だぞ、妹よ。




 さて、俺はこの怒れる愛すべき仲間達になんと弁明をしようか。




「リョウマ」


「はい!」




 慌てて逃げ出した舞衣達になど目もくれずジッと俺を見据えていたアメジストの瞳が僅かに揺れ、静かに俺の名を呼んだ——。




「二度と、あんな真似、しないで。


 この世界で、リョウマがいなくなったら、私は——、お父様から託されたんでしょ……? 一人に、しないで」




 ふわりと柔らかい感触が胸の中に飛び込み、受け止めた側から俺の胸に顔を埋めたソフィア。




 普段からは想像もできないほど弱々しく、まるで幼い子供のように小さく啜り泣いていた。




「——、悪かった。ああ、本当にバカな判断だったよ。皆も、あんなやり方をしてすまない」




 ソフィアの頭を落ち着かせる様に撫で、再び顔を上げて『契約精霊』達を見る。




「はぁ〜、まあリョウマちんの考えなんて最初からわかってたけどね〜」




「フィアちゃあんに、今回この感情はゆずっとくっす〜」




「「ケジメの罰は別の話だけどねぇ〜」」




 肩をすくめながらやれやれと首を振ったシャロシュとシュナイムは珍しく声を合わせて悪い顔をしている。




 俺としてはコイツらの気が済むなら、と甘んじて罰も受けるつもりだったが、なんか湛えている笑みが別のベクトルで怖い。




「わっちは、御方様のなされる事に否応などありんせん。ただ、寂しゅうござんした」




「——ハメシュ。悪かった」




 常に冷静沈着なハメシュが珍しくその表情に陰りを見せて俯く。




 なんというか、申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだ。




「罰はわっちと『温泉二人旅。どきどき混浴、ポロリもあるかも?』というイベントを強制的に発生させたいでありんす」




「俺の申し訳なさを今すぐに返せ」




 コイツ、こんなキャラだったか?


 いや、こんなキャラか。




 温泉、はまぁ、ありだが、そもそもお前は『男』だろ! 




 最初から混浴ではなく男湯だし、ポロリどころかマッパだろうが。




「……オジキィ、ワシは一先ずマイのとこに戻るけぇ、そん前に小娘が抱えとる嬢ちゃんは、それこそこのまま『ケジメ』つけんでえぇんかいのぉ」




 話の流れを渋い表情で見守っていた唯一『常識精霊』枠のアルバがギロリと俺の後ろで気を失ってしまった『ユキナ・ブラン』を大切そうに抱えているエハドを見やる。




 その言葉に反応したソフィアと他の精霊達も一斉に視線を向け、




「……ユキは、『エハ』の、友……手を……出したら、魂まで燃やし尽くす」




 ゴッ、と周囲に熱気が渦巻き途轍もないプレッシャーがその場にいた全員の肌を粟立たせる。




 まずいな、エハドが『キャラ』を作っていない——。




 つまり、本気だ。




 ユキナとエハドが出会った頃、孤独感が強い似た者同士、歳格好が近いこともあって二人はぎこちなくも遊んだりしていたっけか。




 思えばエハドが『キャラ』を作らないと表に出てこれなくなったのも、ユキナが俺に刃を向けて以降だった気がするな。




「エハド、待て。アルバ、ソフィアも聞いてくれ。


 誤解があったかもしれないがユキナは俺を助けてくれただけだ。


 正直、エハドがあのタイミングで戻らず、ユキナもいなかったら俺は——」




 考えれば結構ギリギリだったな。




 今更嫌な汗が出てきた。




 俺は、一先ずこの場を収めようと立ち上がりユキナとエハドを庇うような位置取りをして、




「勇者、様——、いえ、涼真様。エハちゃんも、大丈夫……ありがとう。わたくしは、平気です」




 よろよろとふらつく足取りで目を覚ましたユキナが自力で立ち上がる。




「一度は死に焦がれたこの身。涼真様の『お力そのもの』であるあなた方に死を与えられるのであれば、寧ろ、本望」




 とつとつ語るユキナ、しかし、させじと前に出て威圧するエハド。




 突然訪れた一触即発の空気を、落ち着きを取り戻したソフィアの声が破った。




「エハド、なにもしないから一旦引いて。私も、あなたの友達なはず」




「——っう、で、でも……ソフィは、友達、沢山……ユキ、には、エハ、しか……いない」




 過去しか知らないエハドに自分以外友達ゼロ宣言を強要されたユキナ、それは流石にと思ったがめっちゃ頷いてる。




 現代にもいないのか、友達。




「エハちゃん、大丈夫。わたくしも彼女には話があります」




 エハドの手を大切そうに握り返し落ち着かせたユキナは、改めてソフィアへと向き合い二人は互いに見つめ合う。




「……」


「……」




 両者無言のまま、立ち尽くすこの時間。




 なんか、気まずいんだが? お前らもなんとか——。




 振り返ったそこには言い出しっぺのアルバを含め、ハメシュ以外いなくなっていた。




「あの子らは『時間かかりそうだから』と言って帰りんした」




「アイツら——、自由精霊すぎるだろっ!?」

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