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第66話:雪

「お約束の開幕ブッパ!


 びかびかっゴロゴロ!シャロシュシュたんの爆盛り砲台ッ!」




 真っ白な視界から躍り出てくる歪なモンスターの群れ。




 そこへ鳴り響く雷鳴。




 単身でモンスターの軍勢の上空に舞い上がったシャロシュを中心に発生する雷の乱舞。




 極大の雷光が頭上から数百と降り注ぐ光景は悪夢でしかない。




「はぁ、女はもっと優美に、でありんす」




 しゃんなりとした所作で手にした扇を振れば、猛進してきたモンスターの軍勢が揃って縦に裂け黒い塵となって消え去っていく。




「再生を捨てた物量作戦か、相手もこれで決めるつもりだな」


「望むところ!」




 要は『デバガメ』の『分体』とも言うべきモンスターの軍勢はシャロシュやハメシュの攻撃を受けて、再生する事なくその数を減らしていく。




 だがその軍勢は数えるのも億劫な程次から次へと溢れ、一体一体の強度も異世界基準で『上級』もしくはそれを超える個体もちらほらと見える。




「案外有効な手段かもなっ」




 俺は両手に持った〈聖剣〉ルクスと『炎剣』でモンスターを薙ぎ払い、同時に飛ばした炎と光の斬撃が一直線に走りモンスターの波を割る。




 巨大だった『デバガメ』との派手な激闘から一変、只管数を打ち倒す終わりの見えない殲滅戦。




 疲労の蓄積を考えれば、普通にやってもジリ貧だ。




 俺が割ったモンスターの波に飛び出したソフィア。




「とにかく、一気に叩く!」




 長槍を振り回し近寄るモンスターを一撃の下に屠りながら、上空から『闇色の龍』を呼び、その顎門がモンスターの群れを手当たり次第に食い散らかしていく。




「ソフィアが【ゲート】を開く時間を確保する為にモンスターをある程度削るとして、この〈ダンジョン〉が持つか?」




「リョウマちーん! 空見てっ! ちょっと本当にヤバいかもっ!」




 俺たちの攻撃の隙間を抜けて舞衣達の所までたどり着いた数匹のモンスターをまとめて巨大な『水の肉球』を纏った腕を振り弾き飛ばしたシュナイムが真上を指差して叫ぶ。




 周囲のモンスターを斬り伏せながら言われるままにチラリと視線を空に向けて見れば、月と太陽、白い光と黒い闇、混沌としていた空の景色が渦を巻き更に混ざり合い、まるで空間ごと何かに呑み込まれていくような光景が広がっていた。




「オジキィ! こりゃあ『本体』叩いた方が早いかもしれんどぉ! ワシが道ぃつくるけぇ! 頼むでぇ!」




 シュナイムと同様に近づくモンスターを隆起した鋭利な大地で貫いたアルバの声に俺は頷き、一直線に走り始める。




「ハメシュ、シャロシュ!ソフィアを頼む! 俺は本体を叩く!」




 駆け出した俺の前にモンスターを越え『デバガメ』へと続くアーチ状の橋が伸びる。




「アイアイきゃぷてぇ〜ん!」


「承知でありんす」




「リョウマ! 必ず戻って! もし戻らなかったら、穿つ」




 岩石の橋に群がり始めたモンスターを雷の柱が焼き、上空を飛んで狙いをつけてきたモンスターの首が不可視の風刃により一斉に落ちる。




 ソフィアは言いながら長槍となった〈魔王剣〉でモンスターをまとめて三体ほど刺し貫いた。




「お、おう! 絶対に戻る」




 そのフレーズを言われながら実際にモンスターを『穿たれている』と、笑えないんだが。




 うん、目は全然笑ってないな。




 戻らなかったら、そもそも『穿てない』とは思うけども。




 あ、【ゲート】で行けるのか、え、俺、戻り損ねた結果あとから奇跡の生還〜とかってやらせてもらえない感じなのだろうか?




 などと背中に冷たい汗を流しながら俺は全身に【風】を纏い、【雷速】を併用してトップスピードまで一瞬で持っていき、『炎剣』を天高く放り投げた。




 急速に過ぎ去る視界の中、俺は〈聖剣〉ルクスを両腕で横薙ぎの姿勢に構える。




「逆に普通のサイズの人型ってのが、気色悪りぃんだよ!」




 眼前に迫るのは、顔の半分を覆う醜悪な口と、双眸のない爛れた黒い顔。




 俺の姿を『無い目』で視認した『デバガメ』は構えた盾のごとき『皇地竜』の左腕、迎え撃とうと振り上げたのは『皇刃竜』の右腕。




 どちらも『神災害級』の竜の腕——を模したものだな。




 本物にしちゃ圧がなさすぎる。




 俺は見掛け倒しの『皇地竜の盾』ごと斬り飛ばす勢いで〈聖剣〉を振り。




『——⁉︎』




「短距離なら俺も【転移】くらいできるぜ?」




 瞬間背後へと【転移移動】した俺はガラ空きの首を遠慮なく斬り飛ばした。




 ボトリ、と首が落ち立ち尽くす『デバガメ』は、即こちらへと振り返り刀のような『皇刃竜の爪』を真下から掬い抉るように放つ——。




「ド派手な怪獣バトルならまだしも、白兵戦だぞ? 余裕なんだよ」




 振り上げようとした『皇刃竜の右腕』に真上から飛来した『炎剣』が突き刺さり一瞬で灰に変える。




 無防備な全身に瞬間走る無数の軌跡。




 『神聖力』に満たされた剣閃が『デバガメ』の全身を細切れに刻んでいた。




『ォ————』




 呆気なく『黒い塵』へと変わり果てていく『デバガメ』を見下げながら周囲に目を向ければ同時にモンスターの軍勢も『黒い塵』へと変わっていった。




「リョウマ! 【ゲート】を開く! 早く戻って!」




 少し距離はあるがよく通る凛とした声に振り返れば、【ゲート】を開くソフィアの姿。




「ノンっ! マスターっ! 〈ダンジョン〉がヤバさマックスっ!」




「御方様! 急ぐでありんす!」




 珍しく緊張感のある叫びに上を見上げれば空の『景色』を呑み込んだ渦が巨大なうねりとなって、地上に迫っていた。




「これは流石にヤベーなっ! 穿たれたくはない——っ」




「リョウマっ!?」




 ソフィアが【ゲート】を開き待ち構える、そちらへ急ごうと踏み出した瞬間、足が動かない。




「っち! 往生際が悪すぎるだろうっ!?」




『黒い塵』となった『デバガメ』がその一部を『無数の腕』へと再生させ俺の足、腕、肩へと執念で追い縋る。




 すぐに斬り飛ばす、だが、瞬時に再生し執拗に俺へと絡みつく。




 ——これは、マジで間に合わない。




「俺はいいから、先にっ」




 こんな時に『言ってみたかった台詞』を口にできた感動なんて呑気な考えを抱きながら、涙目で叫ぶソフィアに笑顔を向けた。




 ——瞬間、俺の視界に『雪』がチラついた。

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