第64話:バトルデート?
迫る巨大な腕を躱しざまに斬り落とし、瞬時に再生しただけでなく大小無数に増えた腕を片手に創り出した『炎剣』が一振りで焼き尽くす。
かと思えば別方向から大蛇のような触手が数百と俺を取り囲み、一斉に開いた口から有り余る魔力を利用した純粋な超高エネルギーのブレスが放たれ——、大蛇の顎を裂き貫く無数の『闇色の剣』。
不発に終わったエネルギーのブレスは行き場をなくし、その場で触手の大元である巨大な腕ごと爆散した。
「サンキュー、ソフィア」
「——うん。アレくらい、大したことない」
俺が素直に礼を言えば、若干恥じらうようにしながらも嬉しそうな笑みを小さく作るソフィア。
バカ可愛いんだが?
敵は、正直俺の経験から言っても『強大』と言わざるを得ない。
超が付くほど並外れた再生力に、無尽蔵とも思える膨大なエネルギー。
自在に形を変える腕や触手の攻撃はパターンを読みづらく、なにより厄介なのは醜悪で馬鹿でかい口から放たれる『光速のレーザーブレス』。
「また、アレが来る!」
「任せろっ!」
俺とソフィアの逃げ場を無くすように巨大な腕とそこから生成される竜の首や大蛇、鋭利な獣の爪などが襲い、ソフィアがそれらを空中に生み出した『闇の巨剣』の一薙ぎで消し飛ばす。
俺は背中を任せられる心強い存在に振り返ることはせず、醜悪な口からレーザーブレスが放たれるよりも早く手にした『炎剣』を投擲。
先ほどの大蛇と同じように暴発するエネルギーを逃すまいと生成した『岩石の巨盾』でその醜い顔を覆った。
くぐもった轟音が大気を揺らした。
頭部から肩あたりまで消し飛んだ『デバガメ』の胴体に『水剣』がその剣身を突き刺し、内側から大量の水によって膨張した胴体が腰部分まで水風船のように弾ける。
「ソフィア、大丈夫か」
一頻りダメージを与えたにも関わらず既に首元まで再生が追いついてきている様子に軽く舌を打ちつつ背後のソフィアに振り返る。
「うん、大丈夫。ありがとう、リョウマ」
「あ、ああ。俺のほうこそ、助かってる」
歯に噛む笑みに、トゥンクと胸が高鳴るのがわかった。
敵は強大、エネルギーの消費合戦はややこちらが劣勢ですらある。
この緊迫した状況で、俺とソフィアは、多分、ちょっとイチャイチャしている気がする!
これは、アレだ。
俺たちだけが共有できる二人の共同作業的な奴なのではないだろうか?
つまり、『バトルデート』と言ってしまっても過言ではないのでは?
『ォォオ——ッ!!』
再生した頭部が地響きの伴う雄叫びを上げる——同時に俺の『雷剣』とソフィアの『闇の巨剣』がその顔面に飛び風穴を開けた。
「こうやって二人でちゃんと戦うの、初めてなのに全然そんな感じがしない」
「俺も、なんとなく感じてたよ。まるで、昔からずっと一緒に戦ってきたみたいな感覚だ」
瞬時に再生した頭部がその瞬間に醜悪な大口から高エネルギーのブレスを即座に放ち、巨大な腕そのものが大蛇のような形状へと変わり両側から同質量のブレスが放たれた。
計三方向からの同時攻撃。
普通なら絶望に顔を染め崩れ落ちそうになるような光景を前に俺とソフィアは、互いに笑みを浮かべ、込み上げてくる感情を互いに口にする。
「楽しいね」
「楽しいな」
なんとも場違いで緊張感のないやり取り。
だが、俺自身、こんなに心から笑えたのは、いつぶりだろうか。
ソフィアの笑顔もまた負けないぐらい屈託なく、俺たちを呑み込むべく迫った『破滅の光』は、むしろ彼女の微笑みをより一層輝かせて見せた。
「けどこれ以上は邪魔だな」
〈聖剣〉を一時虚空に投げ入れ、広げた両腕から巻き起こる【暴風】が巨腕の大蛇から放たれたブレスを上空へと巻き上げ相殺させる。
同時に正面から迫った『ブレス』は俺たちの目の前に現れた『闇の穴』に吸い込まれていく。
「そろそろ調子に乗るのを辞めるべき——【ゲート】」
醜悪な大口から吐き出された『ブレス』はその頭上に開いた【ゲート】から一直線に降り注ぎ、その巨体を呑み込み再び身体半分ほど消失させた。
「——『うん、わかった、正確な位置も把握できた』リョウマ、少し距離を取ろう」
腕に装着している〈デバイスフォン〉を操作し何やら誰かと会話していたソフィアが振り向くと、自然に俺の腕を引いて一旦『デバガメ』から距離を取った。
にしても、もう殆ど現代テクノロジーを使いこなしていませんかね?俺なんて、まだ電話すらかけたことないのに?
というか、今のはどこの誰だ?
やけに親しげだったような気もするが?
『マスター、ちょっと落差が激しすぎてキモい。フィアちゃあんとの初テレはアタイでしたぁ〜ノン。今からぁ、そっちに超質量のアトミックエネルギー兵器を直送便でおっとどけ! 総員! 衝撃にそなえよぉお!』
やけにハイテンションなシャロシュが喧しく脳内に語りかけてくる。
落差って、ちょっと気になっただけだが?
俺はいつも通り平常運転なのだが?
え、本当にキモいだろうか。
「リョウマ?」
「うん可愛い」
「えっ、な、なに言って」
慌てた姿も可愛いな。
いや、自覚はある。
もう全然歯止めが効かなくなってきてるな、と。
今も心の声がナチュラルに漏れ出て、そんな自分の言動にも制御をかけなくなってきている。
これが、長年夢見て、逃亡生活の果てに擦り切れて忘れかけていた『リア充』の境地か。
「また再生した、けどさっきよりも少しだけ遅い?」
「ああ、シャロシュがあんなに張り切る程の攻撃だ、決まれば奴のエネルギーも相当削れるだろう」
このレベルの敵との戦闘は『致命傷』だの『核』だのと言う次元にはない。
只管に『エネルギー』を削り合い、先に使い切らせた方が勝ちという持久戦一択。
いかにこちらの消費を抑え、尚且つ敵に強力な攻撃を使わせ、また最小限の攻撃でより多くを削り取れるか。
俺一人だと不眠不休で十日くらいは継続戦闘を覚悟の上で戦い続けて勝てるかどうかと言う相手だが、シャロシュの言う『アトミックエネルギー兵器?』とやら次第では今日中に片がつくかもしれない。
「リョウマ、開くよ」
「おう、どんと来い!」
「——【ゲート】」
瞬間『闇色の穴』から現れた『彗星』のような物体が超高速で飛来。
瞬時に飛び退いたシュナイムの【巨猫】が俺とソフィア、舞衣達を瞬く間に回収し猛スピードで距離を取る。
「おい、ありゃ、何だ? というかシャロシュお前まさか、水蒸気爆発的な事——」
赤黒い地獄のような炎と混ざり合うようにうねる雷光、そんな悪夢のようなエネルギーを『核』に包み込む硬質な岩石とそれを更に覆う風と水。
多分俺の考えている原理通りなら、『圧力鍋にマグマと雷突っ込んで、氷水ぶっかけて爆発させる』的なことが起こってしまうのじゃないだろうか。
「フゥウ〜! いっけぇえええ【水蒸気臨界圧縮爆裂隕石】!!」
やり過ぎだ馬鹿野郎っ!
と、心からの叫びを声に出すことも出来ず、全身を襲う衝撃に視界が反転。
真っ白に染まる世界を見ながら俺たちは吹き飛ばされるしかなかった。