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第63話:俺は初心な乙女なのか!?

 目前に迫る巨大な破滅光。




 だが、特に焦ることもなく俺は瞬時に〈聖剣〉を虚空より引き抜き、通常の知覚反応速度であれば光が見えた瞬間消し炭になっているであろう閃光を真正面から叩き斬った。




 刹那、二つに分かたれた閃光が左右に抜け背後で凶悪な破壊の爆音を奏でる。




 同時に飛び出したソフィアがその全身に『夜の光』を纏い、小さな首飾りとなっていた〈魔王剣〉が瞬時にその姿を『ガントレット』と『グリーブ』に変え、ソフィアの腕と足を覆った。




 夜の闇を閉じ込めたかの様な輝きを放つそれらの武具は一見、凶悪にも見えるフォルムをしているが、可憐に宙を舞うソフィアが装着すればその形状もどこか美しく思えてくる。




 空中を一足飛びで駆け抜け、巨大で醜悪な口の前までたどり着いたソフィア。




 大きく後方に振りかぶったスラリと長い足で巨大な下顎を蹴り上げた。




『————!?』




 家一つ丸呑みに出来そうな大顎を華奢な足一本でかち上げ、強制的にその醜悪な口を閉じさせる。




 凄まじい威力だ。


【物理障壁】全開の俺でも喰らえば無事では済まない一撃に大きくのけ反った巨体。




 次の瞬間には宙を蹴ってその後方に降り立ったソフィアは仰け反った後頭部を迎え打つ様に、しっかりと腰だめに構えた拳を真っ直ぐに打ち出す。




 今度は大きく前に巨大な頭部が揺らいだ。




 そこからはその繰り返し、一方的な拳と蹴りの蹂躙撃によって前後左右に巨大な頭部が揺さぶられる。




 その堂々たる戦いぶりはまさに『魔王ソフィア』の誕生を感じさせる力強さがあった。




 あれでは『神話災害級ユニークモンスター』も形無しだな。




 たしか、デーモン系統の最上位種で、名前が、アビ、いや、デ? ……デバガメ?




 細かいことはこの際抜きだ。




〈魔王剣〉ブライトを偶然か必然か、手にしてしまった『デバガメ』は一時的にその姿を『ベリアル』に変え、記憶と共に力を取り込もうとした。




 俺が〈魔王剣〉ブライトを奪った事でベリアルの力と形を留めておくことが出来なくなり、遂には取り込んだ『魔王』の力が暴走——醜く肥大化した『化け物』に成り下がった訳だ。




 元が『モンスター』なので最初から『化け物』であることに変わりはないが。




 一頻りデカ過ぎる頭部を文字通りタコ殴りにしたソフィアは気が済んだのか、真上に向けて手を翳す。




「お父様の姿に成り変わった罪は万死程度では贖えない——【第十一階梯魔法:イグニス・ミリアド】」




 吹き抜けになったダンジョンの天井高くに生成されたのは巨大な魔法陣。




「おいおい、マジかよ——コレ、もう俺の出番終わっちゃった感じ?」




 正しく『万』を超えていそうな『闇の剣』が、凶悪に過ぎる『闇色の雨』となって降り注ぐ。




『ォオ——ッ!?』




 抵抗する間もなく次々と降り注ぐ『闇の剣』によって巨大な頭部を削ぎ落とされ、次第にその姿は雨で滲み落ちていく絵の具のように溶け消えていく。




 以前とは比べるまでもなく力を増したソフィアの独壇場。




 俺としてはもう少しカッコ良い所をソフィアに見せたい気持ちがあったり、なかったり————っ。




 瞬間、俺は〈聖剣〉ルクスを手に駆ける。




 強大な【魔法】を行使した反動で僅かに反応の遅れたソフィアを両側から挟み込む様に真下から伸びた巨大な腕。




 その歪な手の平からは手当たり次第突き刺したように巨大な牙やツノ、大凡鋭利と思われる部位が数百と突き出しており、巨体とは思えない速度でソフィアへと両側から迫る。




「油断は大敵だぞっ、と」




 ソフィアを背に〈聖剣〉を一閃、二閃。




 最小限の動きで振り抜いた〈聖剣〉ルクスを緩やかに構え直す頃には切断された両腕が真下へと落ちていく。




「——。今のは、ちょっと危なかった。ありがとう、リョウマ」




 少し頬を染めながら恥ずかしそうに俯くソフィア。




 なんだ、かわいいかよ。




「いや、このくらいは、な。少しは俺もソフィアに見せ場ぐらい欲しかったし」




「ん? 見せ場って? なんのために?」




 そう言うことをストレートに聞くもんじゃないよ?


 そー言う所だよ? 




 あ、ダメだ。彼女の好意を受け入れてから、なんというか、可愛いが留まる所をしらない。




「——そりゃ、さっきは絶妙に恥ずかしい瞬間を見られたばっかだしな」




 出来れば生涯思い出したくはない『黒歴史』だが。




「年上の男として、ちょっとはカッコ良い場面の一つや二つ」




「? リョウマは前からカッコ良いよ?」


「————っ!」




 この子は、本当にっ!


 親の顔が見たいわ! よく知っているけども!




「リョウマ? 顔がすごく赤いみたいだけど」


「俺は初心な乙女かっ!」


「え?」




「あ、いや、なんでもない! それより、第二ラウンドが始まりそうだぞ」




 慣れない『褒め言葉』と恥ずかしさに思わず心の声が漏れ出てしまった。




 本当にらしくないぞ、俺! 大人の余裕を持て!


 ないのか!? 【大人の余裕】という〈スキル〉は!!




「うん。『神話災害級ユニークモンスター:アビス・デヴォラー』、驚異的な再生能力と膨大な魔力を持つデーモン系統のモンスターだったけど、お父様の『魔力』を取り込んだせいで、その再生力も私の想像を遥かに超えてしまっている」




 そんな名前だったんだ。




 流石ソフィア! 俺はもう『デバガメ』で通すけどな!




『ォォオオオオオォオオォッ————‼︎』




 消失した頭部を再生させた『デバガメ』は先ほどよりも明らかに凶悪な雄叫びを上げ、再び俺とソフィアに向けてその怒りに満ちた眼光を光らせるのだった。

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