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第62話:だまらっしゃい!!

 俺は、年若い女性二人を前になんたる失態を——。




 人生史上最高に恥ずかしい黒歴史を刻んでしまったようだ。




正直なところ【五行絶剣技・エレメンタル・アルティメット・ノヴァ】は、絶対かっこいいと思っていた。




 これは、間違いなく週刊少年誌の主人公が使ったとしても何ら違和感のない『技名』だと。




 だが、やはり、自分で考えた技名だ。




 多少の羞恥はある。




 普通に考えて三十五歳の男が年甲斐もなく必殺技の名前考えている、と言う事実はちょっと、胸にグッと来るものがある。




 だが、俺から言わせればだ。




 確かに『技名』だけ考えて、この年齢でポージングなど決めていれば世間的に見ても重症なのは間違いない。




 ポージングは決めたし技名を繰り返し発声もしたが!


 だとしてもだ。




 考えてもみろ。


 俺は実際にその『技』を現実に繰り出すことができるんだぞ?




 妄想でも憧れでもなく現実に事象として引き起こせる。




 これに『名前』をつけて何が悪い。




 世の創造物は必ず製作者が『名付ける』じゃないか。




 ならば、俺も、自分の編み出した技に名前をつけて、それを、叫ぶことに何の躊躇いを、恥を持つことがあるだろうか?




 だから、俺はあの時、ちょっと物語的にクライマックスっぽい感じも出ていたあのタイミングで、




 ずっと温めていたけど中々使うタイミングのなかった【五行絶剣技・エレメンタル・アルティメット・ノヴァ】を物語の主人公のようにカッコよく『技』を決めようと、心に決めた。




 だが、その途中、技名を言い終える前に現れたソフィアと舞衣、あとは舞衣の同僚らしき女性と——メガネ。




 いや、インテリジェンスメガネ。




 あれは、喋れるメガネであって人型の置物を使役しているメガネだ。




 本体はメガネ、故にメガネ以外の生き物ではない。




 そんなことはどうでもいいんだ。




 突然現れたソフィア達を前に、俺は思わず躊躇し技名を叫ぶことを諦めてしまった。




 だが、わずかに恥ずかしさを拭いきれていなかった未熟な俺は、内心安堵していたんだ。




 聞かれなくて、よかったと。






「「五行絶剣技・エレメンタル・アルティメット・ノヴァ、はちょっとね」」






 俺の『心』は完全にブラックアウトした。




 初対面で妹の同僚らしき若い女性に加え、いい歳してセンチな思いを自覚してしまったばかりのソフィアにまで痴態を晒してしまったのだ。




 羞恥で死ぬ。




 いや、むしろ誰かこの居た堪れない空気ごと俺にトドメを刺してくれ。




 俺の精神が二人の如何ともし難い視線に押しつぶされるのと、ほぼ同じタイミング。






『ォオオオォオオ————』






 崩壊を繰り返し、床は底が抜け、壁面は跡形もなく崩れ去った〈ダンジョン〉の地下深くから身の毛をよだたせる重低音の咆哮が響く。




「舞衣! その子を連れて離れろ!お前達には俺とソフィアで【結界】を張る!! ソフィア、来るぞ!」




 今は真剣な時間なんだぞ、という気持ちをちょっと強めに乗せて声を張り上げた俺の言葉に、




「わ、わかった! ほら、行くわよ! エミちゃん!」




「む〜、ルックスはアリ、むしろアリアリ。強さは間違いなくパーフェクト。ネーミングセンスが残念なのは……この際目を瞑るとして、先輩! 例の件! 絶対お願いしますね!」




「もう! こんな時にまでバカな事言わないで! ほら、行くわよ」




 なんか不穏な会話を残して、【風】の浮遊に慣れないながらも必死に遠ざかっていく二人と『インテリメガネ』。




 俺は十分に距離をとった三人に【神聖魔法】で【結界】を施した。




「——私は、そんなリョウマも、いいと思う。改めて考えてみれば、五行絶剣技——」




「ああ〜! 大丈夫! そこのフォローは大丈夫だ! 心配ない!」




 どこか神妙な面持ちで真面目に『技名』のフォローを入れてくれようとする、半分以上が優しさ成分のソフィアの言葉を、流石に気恥ずかしいので声を上げて塗りつぶした。




「そ、そう?」と若干心配そうな上目遣いは可愛いが、ちょっとだけソッとして置いて欲しい。




 俺の【結界】に重ねるように舞衣達を【結界】で保護したソフィア。




 改めて俺の隣に並び立ったその横顔を見れば、全身から溢れる魔力とこの場所に現れた時彼女が使用していた【魔法】、【ゲート】を見て確信した事実をそのまま問いかける。




「それより、ソフィア。アルバ経由で受け取ったんだな——ベリアルの〈魔王剣〉ブライトを」




 本当は俺から、渡したかった。




 あいつらは俺の【アイテムボックス】を好き勝手しすぎじゃないだろうか?




 プライバシーもなにもあったもんじゃない。




 ただ、状況が状況だったのだろうし、結果的にソフィアの手に渡ってくれたのならそれでいい。




 俺は主人の意向を一才鑑みない契約精霊達にも基本的に寛容だからな。






『ちっさいなーマスター』


『ボクもそこは同意かな』


『御方様のチャームポイントでありんす』


『あ、悪いのオジキィ、緊急じゃったけぇ』


『妾の方が主人殿より大きいぞ!!』






 だまらっしゃい!!




 だいたいお前達はっ——と、そんな不毛なやり取りをしている場合ではないので、喧しい声はシャットダウンする。




 隣のソフィアに視線を向けてみれば、その表情はどこか自信に溢れ、暖かい思いを抱くように首から掛けられた『剣のネックレス』を握り締めていた。




 ん? それ〈魔王剣〉? なんか小さくなってない?




「受け取った。お父様の思いも、力も。リョウマ、あの『偽物』——いえ、〈魔王剣〉を媒介に()()()()()()()()()()()()『アレ』から、お父様を取り戻してくれて、ありがとう」




 一瞬とても鋭く怖気が走るような眼光を真下に向けたソフィア。


 


 一変して天使といって差し支えない、いや『天使』という単語では表現しきれない愛らしさと美しさを湛えた笑みで俺を見据え、




「あ、いや、もともとは、俺が無くさなければ——」




 うぉお、急に恥ずかしくなってきたぁああっ!


 落ち着け、俺。三十五歳だろ。




 いい歳して年下相手に赤面とか。




 大人の余裕だ、大人の余裕!




「リョウマ、お父様から伝言。リョウマはちゃんと、『私』の事もお父様から正々堂々奪ってくれた」




 狼狽まくる俺と対照的に穏やかな余裕で満たされているソフィアがスッと俺の横顔に手を伸ばす。




 ドッキドキと弾け飛びそうな鼓動を抑え、瞬間、ソフィアの手を通して流れ込んで、俺の胸に刻まれる『声』と『思い』。




「——っ、は! 勝手な事ばっか、言ってくれんじゃねぇか。バカ野郎が」




 堪えたつもりだったが、溢れてしまった一雫をソフィアがそっと拭ってくれた。




「リョウマ、『歳』とか、『お父様』とか、言い訳しないで、『私』を見てほしい」




「——ソフィア」




 俺の横顔に手を添えたまま、俺なんかよりも余程大人びた瞳と少しだけ赤面した顔つきでしっかりと『俺』に向き合おうとしてくれているソフィア。




 これ以上、ウダウダ言うのは多分最高に格好悪いな。




 静かに見つめ返した俺は、そのアメジストよりも遥かに魅力的な紫の瞳に吸い込まれ、






『オオオォオオオオオォオオオォオオオオッ!』






 最高に無粋な雄叫びを上げながら割り込んできたのは『魔王』の原型も最早無くなった巨大な頭部。




 見つめ合う俺とソフィアを丸呑みできそうな程に顔の半分以上はある歪で醜い大口を開き、複数の醜悪な眼光が射殺すように俺たちを睨んでいる。




 地下の底から続く巨躯は目算で全長二十メートルと言ったところか。




 爛れた表皮からはおそらく吸収出来なかったであろう澱んでしまった『魔力』の残滓が吹き出し、一応保っている人形の肩や腕からは、異形の触手や手足だけが生えていた。




 俺とソフィアの目前で開かれた巨大な口は瞬時に高濃度の魔力をその口内に収束。




 僅か数秒に満たない間に、俺が先ほどお見舞いした【五行絶——】、強力な【魔法剣技】を遥かに凌ぐ、黒く強大な『レーザーブレス』を目と鼻の先にいる俺とソフィアに放った。

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こんばんは。 じ、自分はカッコいいと思うッスよ?え、エレメンタル何ちゃら?(精一杯のフォロー
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