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第60話:頑張るお姉さん

「ノン。……エハちゃあん張り切りすぎ、直撃したらマジで『都内』壊滅じゃね?」




「ほぉか……ダンジョンのゲートに影響出たら、最悪オジキらぁ現世に出て来れんようになるけぇのぉ」




「そないな結果、認められんすえ。わっちらで少しでも威力を抑えんしょう」




「問題は、誰が真正面で威力を抑えるかっていう……。バカ猫も少しは考え——」






 三柱が何やらエハドの【魔法】をどうするかで揉めている。




 確かに毎回すごい威力だが、エハドもバカではない。




 少しは『加減』しているはずだとシュナイムは末妹的なエハドを信じてやれない愚かな精霊ズに憐憫の視線を向けながらも、チラリと真上を見上げる。




「まぁ、確かにでっかいけどねぇ」




 天空から降り注ぐ超巨大な『絶死極熱の火球(ファイヤーボール)』。




 文章だけ見ても悪夢でしかない光景が今、現実にシュナイム率いる愉快な精霊ズ目掛けて真っ直ぐに落ちてくる。




 五柱の中でも飛び抜けた火力を誇る、最早『決戦兵器』というあだ名以外浮かばない末妹的なポジションのエハドが『趣味』で投下した【超殲滅級軍事規模魔法】。




 人間の【魔法階位】に当て嵌めるなら【第()()()()魔法】とでも言ったところだろうか。




 勿論そんな階位は存在しないが、威力を表現するなら人間基準で人知を遥かに超えると謂われる最高位の【第十八階梯魔法】を軽く凌駕する規模。




「……ノン! エハちゃあんがあっつい思いをぶっ放したよ! これは姉的役割のアタイが——」


「これはシュナイムおねェちゃんが、張り切って受け止めないとだねぇ〜」




「いやいや、エハちゃあんはシャロ姉を頼ったんだしぃ? 雑魚は引っ込んでろ、的な?」




 いつもの如く知恵の足りない鳥頭が何事かを囀っているが、真の姉とはその程度の妄言に振り回されたりしないものだ、とシュナイムは余裕の微笑を持って返す。




「ふふ、ボクはエハドにシュナイム姉さんって呼ばれてるんだけど? あれ? そちらさんは? 本当はなんてよばれてたっけぇ〜?」




「……シャロちゃん」


「だよねぇ〜、そぅだよねぇ? 珍しく正直に言えたことは褒めてあげてもいいよぉ?


 シャロちゃんも、シュナイム姉さんが撫で撫でしてあげようか? んん?」




「——別に、気にしてないからいい」




 スッと、いつもならここで更に反論を返してくるイケすかない鳥女、が真顔でスルーした。




「え、なに、何なのその訳ありみたいな反応っ!」




「別に? ほら、早く妹エハちゃんのあっつう〜い思いを受け止めるんだよね? お姉さん」




 なんだか釈然としない気持ちと、もしかして、少し言い過ぎた?とモヤモヤする気持ちを抱えながら背中を押され、丁度五角形の上空に来るよう配置された。




「なんだってのよ……」




 歯切れの悪い対応に拭いきれない違和感を抱いたまま五角形の中心あたりで浮かせた『水』の上に立って上空を見上げるシュナイム。




 四柱で話した結果、できる限り都心への被害は抑えないとエハドの攻撃で都内全域が壊滅しかねないと、誰かが言っていた。




 それを防ぐために中心で『誰か』が攻撃を加えて威力を削ぐ必要があるから、それを『誰が』担うかで一瞬揉めてしまった時に丁度エハドが攻撃を放ち、シャロシュが『姉』的な発言をしたのに被せたシュナイムが自然と中央に配置され、




「——あ、やられた」




 今、シュナイムは性悪鳥頭の思惑に気がつき、ハッとその顔を見ればニマニマと顔面を陥没させたくなるような笑みを湛えている。




「ぷくく、がんばれザコお姉さあんっ」




 ハメられた!? とシュナイムが気づいた時にはもう目前に極大の炎塊。




「ちょっとまって、デカすぎ、デカすぎぃ! でかぁすぎぃいいい!?」




 遠くに輝いていた時は「それなりにデカい」くらいの感覚だったシュナイム。




 エハドがどれほどの高度にいて、そこから見える『炎球』のサイズから接近した場合の大きさなど考えもしていなかった。




「なにコレ!? あの子、たかがモンスターの大群如きにどんだけ『魔力』込めてっ!」




 文句を言っている暇はないのだが叫ばずにはいられないシュナイムは瞬時にできうる限り最大限の魔力を込めて【水の障壁】を多重展開——接触前に全て蒸発した。




「——無理! ムリムリムリっ! ムリだよ!? ボク一人であんなの止められないからね!?」




 絶級に分類される『エンシェント・クリムゾン・ドラゴン』数十体のブレスですら一枚で防ぐシュナイムの障壁を多重に重ねたものが触れもせず一瞬で消滅してしまった事実に青ざめ、ブンブンと周囲を見回しながら助けを求める。




「え〜、お姉さんがあっつい思いをうけとめるぅとか? なになに? 妹の愛はヘビィだった?」


「こんのクソ鳥っ! ハメやがった——」




 そんな間にも迫り来る熱気を肌で感じ全身の毛穴が開くのを感じたシュナイムは先ほどよりも大量の魔力を込め、文字通り全力で圧縮された極太の水柱を『炎塊』へとぶつける。




「ボクを、お姉さんの、実力を、舐めるなぁあああ———、うわちぃっ!?


 やっぱムリかもぉおおっ!?」




 巨大な『炎塊』に水の柱を放ち続けた結果、徐々に『熱湯』へと変わった自分の『水』に耐えきれず悲鳴をあげてシュナイムは逃げ出す。




「お遊びはもう十分でありんしょう?」




「ワシが一先ず表面を覆うけぇ、あとは威力を削りながら『監獄』に落とすどぉ」




「はぁ〜。しゃーなし、シャロシュちゃあんもノン、トライっ! ノン、サクセスっ!」




 巻き起こる暴風が『炎塊』の勢いを留め、岩石はその表面を覆うように生成され『炎塊』をすっぽりと包み込む。




 雷鳴と共に走る一条の閃光が岩石で覆われた『炎塊』を更に覆い、電磁力によってシャロシュがコントロールを奪おうと魔力を込めた。




「——みんなぁ」




 全員の助力で勢いが明らかに減衰した『炎塊』を前にちょっと感動したシュナイムはほろりと涙を溢し、




「ふむふむ——きゅぴ〜ん! アタイ、いいこと思いついた! 作戦変更っ! マスターへの援護も兼ねた一石二鳥『超絶凶悪メテオ』作戦っ! ノン、ファンタスティック、ノン、ライフっ!」




 なにやら思いついた様子でいい笑顔を浮かべ始めた『雷鳥』シャロシュの姿に珍しく冷や汗の止まらなくなるシュナイムだった。

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