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第58話:ぶち、たいぎい

 ソフィアが『魔王』の力を継承後、【ゲート】を使用してリョウマの下へと向かい、黒歴史が生まれる決定的瞬間を目撃していた頃。






 アルバは【ゲート】を潜り、同じく【ゲート】から溢れ出たモンスターが跋扈する中心地にその姿を現した。




「はぁ〜。ワシ、ずっとモンスターの相手ばっかりじゃ。ずぅ〜っと戦わされとる」




 柄にもなく愚痴が溢れ、




「「「グォオオオオオ!」」」




「たいぎいわい」




 気怠げに佇むアルバを三方向からハイオークが強襲。




 軽く踵を地面に打ちつけ、瞬間隆起した鋭利な岩石に勢いのまま貫かれたハイオークは黒い塵となって風に消えた。




 その光景に反応を示すかのように周囲から続々とモンスターが集まり始める。




「これ、さっきとワシの状況変わっとりゃぁせんのじゃないか?」




 あの半端な広さの洞窟と違い、敵の個体も弱く、開放感もある、守る対象もいない。




 圧倒的にやりやすい環境ではあるのだが、そういう問題ではない、そもそも、アルバは命令こそ充実に守るが出来れば率先して働きたくないのだ。




 むしろ拠点的なエリアの守護こそアルバの本領。




 こちらの世界風に言えば、おそらくは『自宅警備員』という役割こそアルバに相応しいのではないだろうか、と、知り得た情報から考えていた。




 最悪自宅でなくてもいい。




 マイの護衛として、マイの側に侍り、時折おやつを貰い、移動時以外は寝転がり、またおやつを貰う。




 これこそアルバの求めるライフスタイルだと強く思う。


 いや、強く願う、そんな日々がいいと。




 気がつけばアルバを取り囲む多種多様なモンスターの群れに辟易とした鋭い眼光を飛ばし、




「ぶち、たいぎぃのぉ」




 言いながら、特にアルバは攻撃する素振りも構えもしない。




「びりばり、ずどぉーん」


「ネコぱーんち、ざっぱーん」




「はぁ、風情の欠片もないでありんすな」




 突如天から降り注ぐ巨大な雷の杭が無数に降り注ぎモンスターを焼き。




 宙に浮いた巨大な水の塊が猫の前足のように変容し水圧でモンスターの群れを押しつぶす。




 雅にそよいだ一陣の風がモンスターの間を通り過ぎれば瞬時にその全身が斬り刻まれ、黒い塵の雨が降る。




 アルバは飛来する焼け焦げた塵の塊を避け、推しよせた津波を足元の地面ごと隆起させて躱し、降り注ぐ黒い塵の雨を傘がわりに浮かべた平たい岩で受け流す。




 周囲に群がっていたモンスターの大群は刹那の間に全て降り積もる塵と化していた。




「よっす、よっす! アル君お久じゃんっ!」


「たいぎぃ」




 相変わらずチカチカ喧しく騒ぐ『雷鳥』をすげなくあしらい。




「やっほ〜アルバちんっ! ボクの可愛いドレス姿に見惚れてくれてもいいんだよっ!」


「ぶちたいぎぃ」




 鬱陶しい愛嬌を振り撒き目の前に躍り出た『水猫』を押し除ける。




「御方様の妹様とソフィアは無事でありんすか?」


「あ? ああ、ハメシュかいや。無事じゃけんど、まだ万事解決とはいかんのぉ」




 続けてかけられた普通の質問にちょっとびっくりしたアルバは相手の顔を確認して納得したように返した。




「ちぇ〜相変わらずノリが悪いなぁアルバちんはっ」


「ノンノン、もっと上げていくべきじゃね!? ぶち上げじゃけぇえのぉお!!」




 なんか耳障りな雑音が聞こえるが全て無視してアルバは状況を俯瞰しながらハメシュに問いかけた。




「小娘はどこにおるんじゃぁ」


「上、でありんす」




 細い指が真上を指す。




 アルバが吊られて見上げれば空に輝く太陽が二つ。




 いや、明らかに片方が異常だ。




 赤黒く膨張した炎塊、正しく太陽と見紛うほどに巨大な灼熱の『死』そのもの。




「おぉい……。正味、モンスターの群れごとワシらがシバキ倒した方が、早えぇじゃろぉが?」




「ノン! それは言わないお約束的なやつ〜。


 てかあ、あの子にも見せ場作ってあげないとね? あの性格だから、人前に出てくることも少ないし、たまには発散させてあげるのも姉的なアタイらの役割っしょ、くぁわいいエハちゃんの為に、ね」




「……ほおじゃの」




 そう言われてしまうと頷く他ない。




 時折ぶつけてくるシャロシュの正論がアルバは意外と苦手なのだ。




「その辺りはボクもハメシュ姉も納得済みって感じかな? だからこうやってモンスターを一箇所に集めてぇ〜めんどくさいけど『人間』の避難をシャロシュが怪しい『電波』で誘導してる感じぃ」




「元々潜在的に魔力が多く『洗脳』がききんせん輩は、わっちが【風】で強制的に吹き飛ばしていんす」




 わざとらしく肩をすくめてため息を溢すシュナイムを横目にハメシュの言葉を聞き、アルバは自分の中で方針を勝手に定めた。




「どうせ、跡形もなくこの辺り一体消し飛ぶんじゃけぇ、まとめてカタぁつけたるわぁ」




 ズドンっ——。




 アルバが一際強めに片足を振り上げ地面に叩きつけた。




 その行動で何が起こるかを察知した三柱は一斉に空中へと飛び上がる。




「いぃねぇ〜、盛り上がってきたんじゃなあいっ! アタイもバリッとイっちゃうよ」




「可愛い末妹のフラストレーション、全力で受け止めるついでにモンスター全滅作戦かいし〜」




「わっちはさっき巻い上げた『水』で事後処理でもいたしんす」




 瞬間、強烈な揺れが中央区全域を襲う。




 次いで起こるのは広範囲に迫り上がってくる城壁のような岩石の壁。




 液状化でもしているかのように波打つ地面はモンスターを中心に集め、それ以外の『生き物』を『巨壁』の外へと放り出す。




 徐々に中心部へ向けて軒並み障害物を破壊しながら間隔を狭めるように移動する『巨壁』。




 やがて中心に集まった壁はそれぞれが組み合わさり、最終的にはアルバを中心に全てのモンスターを閉じ込めた五角形を形成した。




「んじゃいくよ〜!『しゃろしゅしゅフィールド展開っ』」


「ボクも〜、『シュナイムちゃんのぉ〜ぷるぷるアクアウォール』」




「いやダサ」


「は? 半端に『台詞』もじっただけの奴に言われたくないし」


「あ? そこは、あえて『AT』つけないんですぅ、リスペクトゆえですぅ」




「その辺にしなんし。【滅風障壁】、これで熱波も衝撃の余波も外には逃がしんせん」




 五角形の節目に降り注いだ巨雷の杭はその眩い形状を維持したまま互いに干渉し合い強力な電気の網を空中に張り巡らせ飛行可能なモンスターの逃走を防ぐ。




 岩石の内側に発生した弾性のある水の障壁が『巨壁』に対するあらゆる攻撃を弾き、よじ登ることも出来ない。




 周囲を囲むように吹き荒ぶ暴風は意思でもあるかのように回転を増し脱出不可避の大監獄を完成させた。




「やるどっ! 小娘ぇっ! はよぉぶっ放しんさいやぁ!」




 遥か上空に佇む赤と黒の巨大な『絶望』を携えた一柱に向かい叫び吠えたアルバは五角形の監獄に一時的に開かれた穴を潜って堂々と外に走りでたのだった。

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