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第57話:魔王継承

「まさか『デーモンロード』が大量に出てくるなんて——」




 異世界レベルで言うなら先ほどの『カース・ドラゴン』に匹敵する上級個体。




 勿論ソフィアとアルバがそれぞれ一対一で相手をするなら危なげなく倒すことのできるレベルのモンスターではある。




 だが、『雪乃真白』からの連戦で流石に疲弊してきているソフィアとアルバ。




 数百に近い数を舞衣達を守りながら捌ききるのはどれだけ強がっても困難だと思われた。




「——、ほおじゃ、今ちょおどオジキの【アイテムボックス】に良えモンが入ったわ。お嬢、この際じゃけぇ『魔王』の継承、しときんさいや」


「え? 継承? って——」




 アルバ達契約精霊はリョウマと『魂の契約』で結ばれているため、リョウマの【アイテムボックス】もリョウマと同じように、同じ空間を使用することができる。




 アルバがそんな事を言い出す理由に思い当たるものはただ一つ。同時にそれは、リョウマが為すべき事を成したという確証でもある。




 違う意味で安堵に胸を撫で下ろしていたソフィアに向けてアルバが虚空から引き抜いたのは一振りの美しい長剣。




「これじゃ、これが魔王を魔王たらしめとる証じゃけぇ、お嬢が受け取るんが筋じゃろ」




 『夜』をそのまま閉じ込めたような不思議な輝きを放つ剣身はソフィアにとって見慣れすぎた輝きだった。




「お父様の、剣。〈魔王剣〉ブライト」




 ソフィアの口からこぼれ落ちた言葉に反応を示す〈魔王剣〉はアルバの手をひとりでに離れ、ソフィアの手の中へと収まった。




 瞬間、剣から『夜の光』が溢れ出す。




 宵闇の安らぎ、心静まる『夜』の光。




 ソフィアは夜光に包まれ、穏やかな心地に身を委ねた。




 今、周囲ではソフィアの様子に何かを感じた舞衣が他の二人を宥め、アルバが群がってくるモンスターを片っ端から殴殺していく。




 そんな喧騒も今のソフィアには届かない。




 ただ深い夜の静寂がソフィアの心を包み込んでいた。




(……静か。これは魔王剣の力?)




 目を閉じて、手にした剣から流れ込んでくる穏やかな力をゆっくりと受け入れる。






 力の流れに乗って剣の奥底から響くようにソフィアの中へ直接語りかけてくる声があった。






『我が最愛の娘に、幸あらんこと願う。


 


 最早朽ちた『魔王』の称号など気にせず、力だけを好きに、望むままに、生かせ。




 ——アレにも、言伝を頼まれて欲しい……。




 どうせくだらぬ些事に迷いあぐねているのだろう?


 いい加減、男になれ。




 貴様に打たれた事を、我は誇りに思う。




 貴様も、誇れ。




 友の願いを叶え、その最愛を託された信頼を、誇れ』






 あまりにも一方的で不器用な声。




 ソフィアはそんな優しくも厳しく、時に苛立ちもしたが、誰よりも自分を愛していてくれた『父』の声に、一筋だけ頬から雫を溢す。




 パチリと目を開き、〈魔王剣〉ブライトの柄を握って目の前に掲げた。




〈魔王剣〉は一時『夜』の輝きに覆われ、その形を双剣に、長槍、弓矢、細剣——。




「意外と優柔不断なところがお父様そっくり……。


 でも、そのままでいい、あなたは、私の望む時、望む形に、『自由』があなたの新しい形」




 ソフィアにとって最も相応しい武器へと変貌しかけたが、多様な武器を使用するソフィアに困惑でもしていたかのように不安定な変化を繰り返していた〈魔王剣〉ブライト。




 ソフィアのかけた言葉に『心得た』と言わんばかりの輝きを返すと、一先ずの形態として『剣の首飾り』としてソフィアの胸元に収まった。




「……うん、魔王という称号は消えたけどその『力』は私の中にある」




 ソフィアは自身の内側から漲る強大な魔力を深呼吸一つで沈め、あらためて周囲の状況を確認。




 流石に疲弊してきたのか気怠げな表情に余裕が消えているアルバと、いつのまにかソフィアの様子を心配そうに眺めていた舞衣と同僚二人。




「ソフィアちゃん? 大丈夫? というか、今の状況で大丈夫な人なんて多分誰もいないとは思うけど——」




「舞衣お姉様。大丈夫です、お姉様と……」




 アルバの戦闘を横目で見守りながら落ち着かない様子で声をかけてきた舞衣に柔らかく微笑み返した。




 その視線をソフィアは舞衣の隣にいる小動物のようにビクビクと震えている女性と、肩で息をしているメガネへ——。




「あ、そうよね、こんな状況だけど一応軽く紹介するわ。あたしの後輩のエミちゃんとこちらは」




 エミに続き、僅かに躊躇いながらも男性の方を紹介しようとした舞衣が声を発する前にソフィアはエミへと会釈した。




「よろしくお願いします、エミさん。ソフィアと申します。舞衣お姉様との関係などは後ほど落ち着いてからお話しします」




「え! あ、うん! よろしくって言える未来がウチに残されているかわからないけど、さっきは助けてくれてありがとう。ソフィア?ちゃん」




 折り目正しく礼を持って接するエミにソフィアも極力明るい声色で返していた所へ。




「先ほどの件は私も心からの謝意を。私は地神——」


「駄メガネ」




 先ほどまでの社交的な表情から一変。




 ゴミ屑でも見るような視線で持って地神を見据えたソフィアに本人は愕然、舞衣は驚愕の表情でソフィアを二度見した。




「え、な、すまない。今、なんと」


「そ、ソフィアちゃん?」




()()()()()()()()、駄メガネ。婚約相手の肉壁にもなれない精神も貧弱な駄メガネに名前なんていらない。駄目なメガネ、で十分」




「いいね! ソフィアちゃん! 仲良くなれそう!」




「ソフィアちゃん? あの、あたしを剛さんが泣かせたって——あ」




 絶対零度の目線と舞衣やエミと比べて対極な辛辣さに地神は思わず言葉をなくし、フォローしようとした舞衣も何かを思い出したように硬直。




 エミだけが悪い顔で元気を取り戻していた。




「とにかく、一先ずこの場を離れます。舞衣お姉様とエミさんは私の側に」




「あ、えっと、誤解や行き違いがあると思うのだ、えっと、ソフィア君? だったかな——」




「駄メガネ如きが私の名前を呼ばないでほしい。駄メガネはその辺にいればいい」




「ちょっと、辛辣がすぎるんじゃないだろうか……一応私は、氷室君の上司——」




「役職を盾にして矮小な身の丈を少しでもかさ増しする、器の小さな駄メガネ。部下も守れないなら上司なんて辞めればいい、それともここに残って一人で戦う?」




「——っ。いえ、ご同行させて頂ければ幸いです。


 私、駄メガネは黙っております!!」




 にべもなく言い捨てられた地神は、どこかさっぱりしたような雰囲気でソフィアにきっちり頭を下げると、辛辣な呼び名さえも全力で甘んじた。




「……剛さん」




「ぷははっ! もう、ソフィアちゃん本当、最高っ!」




 不憫な相手を見るように視線を送る舞衣とすっかり怯えも消え去った様子のエミが隣で大笑いしている。




「おどれらぁ、ええ加減にせぇえやぁっ!


 お嬢っ! きっちり継承できたんじゃろっ!?」




 群がるモンスターを気迫の籠った連打で一時的に全方位吹き飛ばしたアルバが、息も絶え絶えな様子で目を剥いてソフィアに叫んだ。




「うん! アルバは外に『飛ばす』! お姉様とエミさん、あと一応駄メガネも私と一緒にリョウマの所へ!」




「どっちにしろ、ワシは過重労働じゃのぉお! オジキのおる空間は足場がないけぇ、『飛ぶ』前に【風魔法】使っときぃや」




「わかった! アルバも、後で!!




【魔王固有闇魔法:ゲート】」




 瞬間、渦巻く闇がアルバとソフィア達を呑み込み、その場から姿を消したのだった。

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