第56話:クソゲーですよこんなの!?
ソフィアは今一度状況を俯瞰。
取るべき行動の最善手を導き出そうと頭を回転させる。
三人掛かりで一体を倒すのがやっとの舞衣達を守りながら増え続けるアークデーモンを倒し、守り切った上で三人を無事な場所まで避難させた後、リョウマの所へ舞い戻る。
それがこの現状に許された最善の解決策。
最早選択の余地は、
「無理!」
ソフィアはこの選択を早々に諦めた。
「じゃけんどっ! どないしよう言うんじゃお嬢!」
百倒せば、数分後には二百増えている。異常な発生率のアークデーモンを屠りながらアルバが叫ぶ。
元々白兵戦と大群に対する広範囲の奇襲を得意とするアルバにとってこの中途半端な空間と守るべき対象がいて大規模な攻撃が行えない現状は相当にやり難い様子だ。
「一先ず押し通る! 道は任せた!」
ソフィアは『闇色の長槍』を構えると地面を抉るように縦一閃の衝撃波を放つ。
その後地面に突き刺した長槍の石突を足場にふわりと跳躍、一時的に開けた舞衣達までの道が地面ごとせり上がり足場を形成する。
そこへ舞い降りたソフィアは真っ直ぐに舞衣達のいる場所へと駆けつけ、
「お姉様、しゃがんで!」
「ソフィアちゃん!? 了解よ!」
「ふぇぁっ! めっちゃ可愛い子キタ!?」
「バカ言ってないで頭下げる!」
舞衣とその同僚が頭を押さえつけられるように囲いの中へ身を隠す。
そこへ両脇から『眷属の獣』を破壊し囲いの中へ強襲しようとしていたアークデーモンが二体。
ソフィアは宙で逆立ちするように回転を加え、白く細長い脚が美しく開脚。
美しさとはかけ離れた鈍い音を奏で二体の首をへし折った。
「舞衣お姉様! 無事?」
「きゃぁ〜っ!! ソフィアちゃんっ!最高っ! カッコよすぎ!?」
「わ、あ、ちょ……」
思わずと言った様子で返答よりも先に囲いの中へ降り立ったソフィアへと抱きついてきた舞衣。
ソフィアは一瞬戸惑い、ただ見るからに元気そうな舞衣とその温もりに気恥ずかしさを覚えるも、意外に心地よいと感じてしまった自分の感覚にその身を委ねた。
「ぇ、先輩! エミちゃんという可愛い後輩を差し置いて、別のベクトルでめちゃカワ激ツヨな女の子を誑かしてたんですかぁ!? あとで絶対紹介してくださいね!」
「あなた、もう男とか女とか関係ないのね……」
「え? 美男子と可愛い女の子は同種の食べ物ですよ?」
深くため息を漏らして頭を抱える舞衣の前で可愛らしく応えた女性の返答にソフィアは困惑を極め、
「た、たべ? あ、あの、私は」
「ああ、気にしなくていいわよソフィアちゃん、それよりどうしてここに——」
引き続きため息をコレでもかと吐いた舞衣に話を切り替えられたところで。
「強力な助っ人が来てくれたことはありがたいが!
今はまだ談笑している場合じゃないかもしれないぞ!?」
『眷属』の守りを失った岩石の囲いに大量のアークデーモンが飛び着こうとするのを、メガネをかけた男性が珍しい杖型の小ぶりな戦鎚を振るいがむしゃらに追い払おうとしている。
「——メガネ。アルバっ、こっちは任せて!思い切りやって!!」
「オゥ!任せるけぇの!! おどれら、まとめて土にかえれぇやっ!」
ソフィアは自分を中心に舞衣達を守る、【対物理・魔法結界】を発動。
アルバは片方の手で地面を力強く掬い上げるような仕草と共にここ短時間で溜まったストレスをぶつけるかの如く叫ぶ。
同時に地面が波打ち、放射状に剣山の如く地面から突き出した岩石がモンスターを串刺し、続いて訪れた衝撃波が一斉に全ての敵を爆散させた。
「今のうちに、この場所から——」
「おいおい、流石にたいぎいどころの話じゃないでこりゃ」
モンスターが一時的に全滅した隙をついてこの場を離れようと考えたソフィアだったが、一瞬で言葉に詰まる。
それは目の前の光景が流石に理解の範疇を超えていたからだ。
「そんな、さっきよりも強そうな個体がこんなに……」
「無理、無理!むりですぅううっ! あんなラスボスっぽい奴がこんな沢山っ! クソゲーですよこんなの!」
「この存在感、一体一体が先ほどの上級モンスターの比じゃないぞ——」
ソフィアと同じ光景を目の当たりにした舞衣達もその顔を絶望に染めていた。