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第49話:魔王の娘ソフィア

 飛び交う岩石の弾丸と氷の槍。




 闇色の双剣を手に、隙を見て攻撃を加えては一進一退の攻防をアルバと共闘するソフィア相手にたった一人で迎え打つ雪乃真白という少女。




 その想定外の実力に内心冷や汗をかきつつソフィアの思考はまた別の方向を向いていた。




(やってしまった! やってしまった!? 勢いだった、仕方なかった!


 この女が『わたくしの勇者様』なんて言うから! つい、調子にのって! き、きき、き——キス)




 瞬間、俯きながら苛烈に雪乃へ無造作とも思える闇色の矢の弾幕を放つソフィア。




「お嬢、ちぃと落ち着けぇや。接吻ぐらいじゃったらお嬢が子供の頃にオジキとは何回もっ」




 鏃が一部アルバへと向く。




「わ、ワシが悪かったけぇ、やめぇやっ! 今は揉めとる場合じゃないじゃろ!?」




 二人の連携が乱れた一瞬の隙をついて吹き荒ぶ氷風。




 礫一つ一つがライフル弾のような氷の嵐がソフィアとアルバに襲いかかる。




「よくも、よくも、よくも! わたくしの主人様に! わたくしだけの勇者様に! あなた方は親子そろって勇者様を苦しめ続けるおつもりですかっ!」




 魔力の籠った氷弾の嵐は【魔力障壁】だけで対処できるものではなく、ソフィアの全面に出現した岩石の壁に身を隠してやり過ごす。




「あの時! わたくしの言葉を勇者様が聞き入れて、魔王の首を取ってくださっていれば!


 今この世界でわたくしが得ている何もかも全て勇者様のモノだった!


 わたくしはただ、彼の方の側に侍り、使用人権『恋人』という王道の絶対的ポジションから『はぐれる』はずじゃ、なかったのです!」




 降り注ぐ氷の弾幕、反撃の隙を伺うべく意識を向けていればゾワリと肌の粟立つ感覚に従い本能的に闇色の双剣を背後に振り翳す。




 あと刹那、反応が遅れていればソフィアの首筋に到達していたであろう細剣の刃と闇の刃がぶつかる。




「——っ。さっきから聞いていれば都合の良い! あなたが何処の誰で、なぜこの世界にいるのか私は知らない。でも、あの人は、私が生まれた瞬間から私のモノ! それは世の理も同然!」




「どっちも当人の意思が入ってない暴論じゃけぇ。オジキもタイギィじゃろ」




 熾烈な剣撃と口論。




 遠目にアルバが何か呟いていたがソフィアには現状そんな些事を拾う余裕がない。




 ソフィアの双剣が舞い踊るようなステップで縦横無尽に空間を切り裂き、一瞬でも隙を晒せば空中に待機している闇の弓矢がその鏃が雪乃の急所目掛けて飛来する。




 それだけではない、直接的な援護はむしろ邪魔になると踏んだアルバが地形を操作、相手の足場を不安定にし、時には背中、頭上、足元から無造作に円錐状の鋭利な岩が飛び出しては雪乃へと不意打ちを繰り出していた、にも関わらず状況は拮抗。




 闇と氷の激しい剣の撃ち合いから互いに一旦距離を取り、氷の弾と闇の弓矢が数千を越えて飛び交い始めると、両者の間に一時的な弾幕の壁を生じさせた。




「! なんで、攻めきれないの」




 その技量は異常と言わざるを得ない。




 ソフィアの剣を数秒先の軌道でも見えているかのように、躱し、時には敢えて受けられた細剣に双剣が絡め取られ、突き出す氷柱のカウンターをまともに喰らってしまう始末。




 アルバの牽制に至っては掠りもしない。




 ソフィアは彼女の強さをただ単に『強い』という言葉では片付けられないと感じていた。




 剣の技量は確かに目を見張るものがある、だがそれはソフィアの技量を持って対応できるレベルであり圧倒的な差があるわけではない。




 その他にも魔法の生成速度や威力、規模、汎用性など彼女の操る氷はどれをとっても凄まじく、厄介な事この上ないがソフィアの感じる違和感とは違う。




 おそらく何かしらの【スキル】が働いている、のだとは思うが、理屈も力の正体も検討がつかない。


 ただ、ソフィアが今まで観察した限り『予見』もしくは『予知』に近いレベルでソフィアやアルバの攻撃を事前に察知していなければあのような動きが出来るはずもない。




「アルバ! 泥棒猫に慈悲はない! アレで行く!」




 ソフィアの意思にアルバは無言で頷く。




 幼い頃より武術の基礎はアルバに叩き込まれたソフィアである。


 何を言わずともソフィアのやりたいことをアルバは理解できる。




「泥棒? 勇者様と一時でも旅をしたわたくしは元々彼の方のパーティメンバーといっても過言ではない間柄!! 異世界に召喚された勇者がパーティーメンバーと恋仲になるのは世界の真理!!


 むしろ、邪道なポッと出はあなたの方でしょう!」




 ソフィアは闇の双剣を消し去り、代わりにその拳を闇色の魔力で覆う。




 雪乃は怒りの形相で礫ではなく氷の杭を夥しい数空中に浮かべ、細剣を正眼にソフィアを迎え撃つ構えをとった。




 ソフィアは足に力を溜める。




 同時にソフィアの周囲から土が盛り上がり、ソフィアと全く同じ構えを取った同じ色彩の、本物と分別つかない『土のソフィア』が無数に現れ、ソフィアが地面を蹴って疾走すると同時に同じ速度で走り出した。




「ふん、何かと思えば。ただの児戯ですか」




 細剣を素早く振るう雪乃。




 その軌道を辿るように空気が凍つき、氷の刃が形成されソフィアの集団を横一文字に切り裂く、寸前、突如競り上がった地面を蹴り、刃に崩れ落ちた『土のソフィア』さえも足場にしながら宙に舞い上がるソフィアの集団が氷の刃を躱した。




 そんな事など想定内とばかりに空中で身動きの取れないソフィアの集団に向かい、静止していた氷の杭が凄まじい速度で殺到。




「お父様からは、剣を覚えろと言われ続けたけど! 本来私はこっちが得意!」




 殺到する氷の杭にソフィアの集団が貫かれ、砕かれ、土塊に戻る。




 それを足場に拳で氷の杭を砕き、勢いのまま回転した踵で真下へと叩き落とすソフィア。




 更にその勢いも利用して空中で身を捻り遠心力を乗せた回し蹴りで氷の杭の嵐を蹴り砕きながら、飛散する氷を足場に、闇を纏った拳を握り締め一気に雪乃までの距離を食らい尽くす。




 魔力を最大限に込めた闇色の拳が、射程距離に入った。




 一瞬目を見張った雪乃が大きくその場から飛びのこうと下がるも、背中、だけではなく両脇に競り上がった大岩。




 擬似的な鼠小路に雪乃は苦々しく表情を歪ませていた。




「魔王の娘への不敬、その身を挺して悔い改めるべき!」




「あなたは——やはり、わたくしの勇者様には不釣り合いですね」




 拳は直撃した。




 闇の魔力が爆散しその衝撃を裏付けるように雪乃を囲む巨石の壁は粉々に砕け散っている。




 だが、その身で受ければ人間など跡形も残らない破壊の衝撃を受けたにも関わらず、その身体には傷一つ、どころか衣服に乱れ一つ見受けられない。




「——く、コホ」




 口元から滴る赤い雫。




 視線を下げれば腹部に中程までその剣身を刺し込んだ氷の細剣。




 瞬間、ソフィアは膝から崩れ落ちた。

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