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第47話:闇と白銀

 古い遺跡のような造りの〈ダンジョン〉は迷路みたいに入り組んだ仕様となっており、通常であればマッピングを行いながら地図を完成させ正規のルートを探し出す必要がある。




「【スキル:索敵】——っうし! 道が分かった。こっちだ」




 俺は異世界で手に入れた【スキル】を用いてダンジョンの構造を把握、迷う事なく迷路のような通路を攻略していく。




「……【スキル】の乱用は魔法の技能を鈍らせる、あまり私は好きじゃない」




 魔法に関して並々ならぬこだわりを持つ彼女らしい発想に思わず苦笑いが浮かぶ。




 俺は基本的に『便利なほうが楽』という考えなのでソフィアのような『技術や技能』にある種の趣きを求める感性は持ち合わせていない。




 理解はできるんだが、やっぱり便利なものは使いたい。




「確かに【魔法】でも同じことは出来るが、【スキル】も魔法みたいなものだろう?」




 目的地に向かい走る俺と並走していたソフィアの瞳がグリっと俺の方を向いた。




 やべぇ、失言だ。




「全然、全く、これっぽっちも同じじゃない!!




【スキル】は魔法での繊細で美しい工程を一切無視した『結果』と『対価』だけを生み出す、無粋の極み。


 事象の精度は甘いし消費する魔力も多い! なにより気に入らないのは『魔族』の【魔法】に対抗するため、『人間』が求めた『概念』を世界に定着させた『女神』!




 それどころか『魔族』にまでその【スキル】が広がり、魔法の質は明らかに低下した!


 【魔法】で秀でていた種族がわざわざ人間の作り出した技術に縋って負ける! 私はこの矛盾した関係性が本当に嘆かわしい! と、思ってる!!」




 鼻息荒く詰め寄ってくるソフィアの圧に引き攣った笑顔を向けながら——。




 俺は全身で感じ取った経験による本能的な『勘』が打ち鳴らす警鐘に従い、蹴り足を強めソフィアの手を思い切り引いて前方に飛んだ。




 瞬間、タイミング的にソフィアが通る予定だった位置に真下から長大な氷柱が立ち上った。




「未来の主人様がおっしゃる通り、【スキル】は有用です。下賎な種族に悟られることなく奇襲をかけられる」




 澄み渡る銀色の声。




 間一髪のところで奇襲を躱わした俺は静かに氷柱の頂上に立っている人物を見上げた。




 雪のように透き通った白い肌、白銀の髪を靡かせるその姿は以前のような『メイド服』ではなく白金のフルプレートにドレスを融合させたような気品ある装備。




 手には白く光る細剣を持ち、無機質な水色の瞳が捉えているのは俺ではなく、




「我々はこの世界で【スキル】を身に宿す奇跡をなし得たのです。


【スキル】は正しく奇跡の御技、そんなことも理解できないあなたはやはり、忌まわしき『魔王』の——」




 会話の拒絶を言葉よりも先に『謎のはぐれメイド』——『白銀の勇者』雪乃真白の足元から闇色をした『龍』の頭がその凶悪な顎を広げ、氷柱ごと雪乃真白を呑み込まんと迫る。




「——話の腰を折るとは、所詮、魔族」




 真下に振るわれた剣閃が氷柱ごと闇色の龍諸共真っ二つに切り裂いた。




「想定済み! 畳み掛ける!」




 足場を一時的に失い自由落下する一瞬の隙、真上、両側と再び真下から生み出された『闇龍』が自らを闇色の砲弾と化し空中で身動きの取れない雪乃に襲いかかる。




「これでもダメなのは、わかってる!」




 異世界レベルで見ても今の攻撃を凌ぎ切るにはそれこそ冒険者等級で最上位のランクレベルが必要だろう。




 俺でもアレは正直しんどい、にも関わらず一才の油断を捨てたソフィアがその両手に闇色の双剣を【魔法】によって生み出し、周囲に展開した数百を超える闇色の槍を一斉に放ったその後を追うようにソフィアは空中を駆け出した。




『闇龍』による砲撃の余波により視界が悪いにも関わらず正確に一点を目掛け殺到する闇色の槍。




 それらが全弾注ぎ込まれた場所に躊躇なく飛び込んだソフィアが双剣を振り抜き、硬質な物体がぶつかり合った甲高い音と双方の魔力がせめぎ合い、衝撃が舞い上がった土埃を吹き飛ばす。




「魔王の娘は主人様の隣に不要。排除させていただきます」




「——っつ、あなた、何者? 本当にこの世界の人間?」




 一瞬の問答、どちらも返答はせず代わりとばかりに凄まじい技量の応酬が始まる。




 振るうたびに冷気を纏った細剣が閃き、それを宙で舞い踊るかのように躱し打ち返し、瞬間【魔法】であるにも関わらず凍りつく闇色の双剣を造り変えては体術なども織り混ぜながら拮抗したせめぎ合いを繰り広げる。




 刹那の攻防、最早世人には介入の余地も許されない氷剣と闇の双剣が入り乱れる剣技と魔法の応酬。




 俺は、いつでも隙をつけるように〈聖剣〉ルクスを構え二人の戦いを注視している、しているが。




「あの女——っ、ソフィアを盾にするように立ち回ってやがる」




 巧みにソフィアの猛攻を捌きながら、その立ち位置は常に俺の射線上にソフィアが重なる位置を保持している。力量は文字通り『勇者』クラスと言って差し支えない。




 互いの剣が交わり爆散する魔力の余波を利用して一旦距離を置くソフィア。




 肩でしていた呼吸を僅かに整え、その眼光を雪乃に叩きつける。




「あなたの目的はなに? 私たちに剣を向ける理由くらい聞かせなさい」


「……」




 一応聞く耳はあるのかソフィアの言葉に沈黙で返す雪乃、一拍の静寂。




 この会話がソフィアの時間稼ぎだと、瞬時に悟った俺はこの仕切り直しに乗じるつもりで〈聖剣〉を構えながらソフィアの隣に並び立った。




「悪いが、卑怯だとかなんだとか、そういう感情は向こうに置いてきちまっててな。剣を向けたからには相手が誰でも容赦しないのが俺の流儀だ」




 足裏に魔力を集中。一足で相手の懐に飛び込む瞬間を見極め、




「ふふ、何を仰いますか未来の主人様。




 わたくしは、一度あなたに拾われた身——。




 あなたの剣にかかるならいつでもこの首、『愛』を持って差し出さします」




 無防備、無警戒、その仕草が、視線が、表情が、この緊迫した戦闘の最中であったからこそ、嘘偽りのない言葉だと俺には、理解できてしまった。




「お前は——、一体」




 見覚えのない少女の口走った、身に覚えのない出来事。




「ふふ、わたくしは二十と数年前の雪降り積もるあの日、身も心も凍えていたあの瞬間に見た主人様の陽光を今も鮮明に覚えています。




 あなた様の役に立ちたくて、生涯をかけて恩を尽くし仕えようと幼心に誓ったあの日のことを」

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