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第45話:それ以上変な事考えたら、穿つ

「す、すいません! あなた方は? というか、今の物凄い爆発? 魔法? アレはいったい」




 モンスターがひしめき合っていた事実など無かった事の様に閑散としたダンジョン内で、我に返った集団の中の一人が声をかけてきた。




「……アレはモンスター同士が以上なほどの密度で集まった結果、こちらの放った【魔力の斬撃】をきっかけに一体のモンスターが『魔力暴走』を引き起こし、誘爆。連鎖的な魔力暴走爆破が引き起こされた、スタンピードという特殊な状態だからこそ起き得た奇跡的現象。


 私はソフィア、こっちはリョウマ、あなたは?」




 よくわからない暴論を平然と通すソフィアが淡々と説明。




 相手に疑問を挟ませる余地など与えず話題を逸らす。




 俺の説明力じゃあんなに最もらしいこじ付けなんて出来るはずもない、精々脅して黙らせるくらいが関の山だった。




 これは大きな借りを作ってしまったな……月一旅行か、旅行、ふむ——温泉なんて連れて行ったら喜ぶだろうな、それにソフィアの浴衣姿はきっと、




「リョウマ、なんか恥ずかしいこと、考えてる?」




 鋭すぎる女の勘が、俺の妄想をキャッチしたのか頬を僅かに染めたソフィアが視線を逸らす。




 いや、何を考えているんだ俺は!?




  今のはアウトだぞ、完全にアウトだ!




「い、いやなんでもない。ところで君の名前は? 君が代表者か?」




 俺とソフィアの関係性を訝しむ様にジッとこちらを見続けていた青年に無理やり話題を逸らす事で、俺の緩んだ思考を切り替える。




「あっ、いえ、自分はまだ新人の〈探索者(シーカー)〉で赤崎と言います。クランの先輩方と脱出の途中だったのですが、先ほどのモンスター群に阻まれ、先輩方は怪我がひどく動けそうになかったので自分が状況の確認をしにきました」


 人好きのしそうな印象の好青年だ。




 歳はソフィアと同じくらいだろうか?


 そう、本来なら彼のような若者こそがソフィアの隣に——。




「リョウマ? よくわからないけど、それ以上変なこと考えたら、穿つ」




「へ、変なことは考えてないぞ! 大丈夫! 俺は至ってポジティブだ」




 でた、ソフィアの脅し文句『穿つ』。




 これがあながち脅しでもなさそうなのが怖いんだよ。




 地味にこっそりと手のひらに闇魔法で短槍を展開するのやめてくないかな?


 冗談にしては笑えない、うん、目が座ってらっしゃる。


 全然冗談ではない、と。




 俺は頭を振ってふわふわしっぱなしな思考を切り替え、一先ず赤崎という青年と共に彼の仲間への弁明を開始するのであった。








 ***








 魔力暴走がどうの、こうの。




 赤崎にしたものと同じ説明を彼の仲間にも繰り返したソフィアは疑問の余地を与える暇なく相手へと話題を振り会話の展開を巧みにコントロールしていた。




 この子、ちょっと有能すぎやしないだろうか。




「私たちの名前はもう名乗った。そっちの三人はなんて呼べばいい?」




 一通り赤崎の言う所の先輩という集団に状況説明を終えたソフィアは比較的元気な若者三人に視線を向けて話しかけた。




 ちなみに彼ら若者組以外のメンバーは俺が【治癒魔法】を施し、緊張の糸が切れたせいか皆ぐったりと眠ってしまっている。




 治癒は回復効果の代償で急速に体力を消耗するからな、治癒後意識が飛ぶのは結構ありがちな症状だったりもする。




「改めまして、〈ブルーサーペント〉所属、赤崎蓮司といいます。


 この度は危ない所を助けて頂き本当にありがとう御座いました、多分ソフィアさんとは歳も近そうなので気軽に呼んでください」




 イケメンだ。


 若くハツラツとした王道のイケメン。


 俺も彼ぐらいの年齢の時は——やめておこう。




 同年代のイケメンという『生き物』と初めて接するであろうソフィアの反応は、




「うん、わかった。赤崎ね、あなた達は?」




 スンっと、無表情でクールな返答。




 特に何かを感じている様子もないソフィアの反応に何故かホッとしている俺は、やはり意識してしまっているのか?






『マスターのトキメキ描写って誰得?』


『それなー、正直きついよねー』


『わっちはそんな御方様も愛しいでありんす』


『ぅおおいっ! 何をちんたらしとんのんじゃぁあっ! もう状況把握しとるじゃろが!?』




『こちら妾、こちら妾、まもなく妾は高度九千メートルに突入っ!!


 いざ、混沌を穿ち灰燼と化す終焉の業火よ我が拳に集えっ!


 い・か・り・の・ご・う・か——エグゾードフレ——』




『『『ちょっと待てっ!』』』






 喧しいが過ぎる。




 外も外で色々と大変そうだし——主に身内のやらかしと言う点はこの際棚に上げるとして、アルバと舞衣に関しては悠長にしていられないな。




 俺が悶々と思考を巡らせている間もソフィア達のやり取りは続いている。




「わたしは真宮寺《(しんぐうじ)麗華(れいか)です!


 ソフィアさん、彼氏いますか? いえ居てもいいんですけど、女の子同士って興味あります? むしろ彼氏ありならNTR——」




「——っえ、えっと、そっちのあなた、名前は?」




 凄いなこの子、こんなにも複雑な表情をソフィアから引き出すとは。




 どう対処したらいいかわからずに無理やり話を切り上げたソフィアが最後の一人へと視線を向けた。




「う、うす、じ、自分はみ、みみ、み、御門(みかど)、ま、ままま、まさ——」




「? ミカドね、わかった」




 ソフィアを前に視線を激しく彷徨わせ赤面し動揺をわかりやすく表に出している御門。




 うん、俺は嫌いじゃないぞ、君の様なタイプは!


 俺がソフィアと同年代ならきっと君と同じ反応だった事だろう!




 そう考えるとやはり赤崎は女性慣れしていると見るべきか。


 イケメンだしな——っち。




 どもりまくる御門の反応に一瞬首を傾げるも淡白に返したソフィアは比較的元気な三人へと視線を巡らせ問いかけた。




「私たちは今から下の階へと向かうのだけど、あなた達が知る限りの情報を教えて?


 ちなみにリョウマは舞衣お姉様——〈ブルーサーペント〉所属、氷室舞衣のお兄さんよ」




「「「!」」」




 明らかに三人が俺へと向ける視線が変わった。




 と言うか今更ながら、この子ら舞衣と同じ〈クラン〉の子か!


 そういえば赤崎が言ってたな! もしかしてその辺り見越して丁寧に接してたり?


 もしそうなら俺よりも余程ソフィアの方が大人なのじゃないだろうか?




「氷室教官の!? お兄様!お願いです! まだ下の階に副マスと氷室教官、緋獅子先輩が!ドラゴンが出たんです!助けてくださいっ!」




 俺の素性を知るや、感極まった様子で俺の元へと駆け寄った真宮寺、潤んだ瞳で俺の手を握り締めて懇願する——っ殺気!?




 ——ゴフっ。




「——そのつもりだから、今すぐにリョウマの手を離して、私に、簡潔かつ的確に説明してシングウジ」




 どっと額から溢れた冷たい汗を拭い、視線だけを動かせば絶対零度の視線で真宮寺が握った俺の手を凝視。




 スッと音もなく距離を詰めたソフィアは物理的に俺を後方へと突き飛ばし、真宮寺を牽制するように腕を組んで目の前に立った。




「お、おお? なるほど!! 仔細了承だよソフィアさん!


 大丈夫! むしろわたし的にはその儚い恋がすれ違うくらいのタイミングでなし崩し的にソフィアさんと深い関係になれればいいから!


 あと! わたしのことはレイカって呼んでね! 事態が落ち着いたら絶対〈ライフロ〉のDM交換お願い!」




 ソフィアの圧をものともせず寧ろグイグイ来る真宮寺に流石のソフィアもたじろぐ。




「すいません、この子はちょっとアレなもので。詳細は僕の方から説明いたしますので——あと、素朴な疑問なのですがお二人は〈探索者(シーカー)〉で間違いない、ですよね?」




 鼻息荒く迫る真宮寺を後方に追いやって間に入った赤崎が不意に投げかけた質問。俺は思わず息を詰まらせ。




「当然。じゃないと此処まで来れないでしょう?」




 何を躊躇することもなく自然体で小首を傾げるソフィアの胆力に俺は額の汗を静かに拭う。




「で、ですよね! すいません変なこと聞いて!


 ただ、なんというかお二人の格好があまりにも普段着すぎて、ですね、なんというかダンジョンに潜る格好とは思えなかったもので、つい」




「「……」」




 ちょっと間をおいて俺とソフィアは互いの姿を視認。




 改めて赤崎や真宮寺を見れば、現代感あふれる装いと絶妙にマッチしたアーマーや胸当て、籠手。




 対する俺たちは、シャロシュに選んでもらった現代感あふれるただの衣服。




 確かに、俺たちからすればこのダンジョンに生息するレベルのモンスター相手に怪我など想定する必要もないし、そもそも常時【魔力障壁】を展開している異世界の強者では常識の心構えを持つ俺とソフィアに下手な『現代防具』は動きを阻害するだけの荷物でしかない。




 そんな事など当然知る由もない〈探索者(シーカー)〉の彼らからすれば。え? ダンジョン舐めてる? としか思われないだろう。




「……」




 微妙な間。


 ソフィアはいい答えが浮かばないのか、沈黙を貫いている。




「材質が、違う……そう! 俺らの着ている服は、特殊な生地で下手な防具より丈夫なんだよ」




「——っ! え! それってもしかして今話題の最新技術で『塵になる前のモンスター』素材を流用することに成功したっていう新素材防具ってことですか!?  すごい! 初めてみましたっ」




 なんか勝手に納得して盛り上がってくれた赤崎に安堵しつつ苦笑いで返す。




 これ以上時間を無駄にしたくなかったし、舞衣の同僚や後輩相手に手荒な手段で解決するのはなるべく避けたい。




「ん〜、どうみてもユニク——っひゃ、ソフィアさんっ、そんな! もっとしてほしいので、ちょっと物陰に——グフ」




 不穏な発言をしかけた真宮寺の背後へ瞬時に回り込んだソフィアがその口を塞ぎ、なぜか鼻息を荒くし始めた彼女に不快なものを感じたのか、ものすごく荒っぽい方法で黙らせていた。

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