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第44話:溜まってたんだよ!フラストレーションが!

 俺とソフィアはスタンピードの混乱真っ只中な戦場を、一応〈探索者(シーカー)〉が対処を手こずりそうなモンスター、ドラゴンやレイスなどを瞬殺しながら駆け抜け、無人となった受付をスルーし、〈ダンジョンゲート〉を潜り抜けた。




「これは……地味にスタンピード、なのか?」




「奥で強大な力がぶつかり合っている。多分その余波から逃げてきたモンスターだと思う」




 ダンジョンのゲートを潜り抜けた先、大量のスライム、スケルトン、ゴブリンに入り口付近が占領されていた。




「ある意味本当のスタンピードはこっちだろうな、っと、奥に誰かいるぞ」




「うん、十人くらい? 出口に向かってるみたいだけどモンスターが邪魔で出てこられないのかも」




 ソフィアの言う様にそれぞれが武器を手にモンスターの群れを攻撃しているのが見えた。




 一匹一匹は低級のモンスターだが、なにぶん数が多い。


 あのペースで対処していてもいずれは物量に押しつぶされてしまうだろう。




 余程隔絶した力量差でもない限り、数の暴威には抗えない。




「ちょうどいい、中で何が起きているか少し話を聞いてみよう」




「うん! じゃあ、【影魔法】と【闇魔法】を組み合わせた合体魔法で一気に——」




「ちょっと待った、ちょっと待とうソフィアさん」


「うん? なに? もう発動直前なんだけど——」




 魔法構築速度の異常さよ。




 いや、感心は一先ず置いておいて。




 先ほどの蛇喰?といったか、あいつらとのやり取りを思い返す。


 俺たちは現在この国において合法の〈探索者(シーカー)〉ではない。




 あいつらの話じゃ〈ウェポンモジュール〉とやらの所持だけで違法だとか。


 


 俺の目標、というよりも最終的にこの世界で平和的な暮らしをソフィアに送ってほしい俺としては警察沙汰など以ての外。




 ましてや〈モジュール〉も無しに【魔法無双】するソフィアの目撃情報をこれ以上増やすべきではない——。




 かといって魔法大好き少女である彼女に発動直前の魔法を諦めさせるのも至難を極める。




 ソフィアを説得しつつこの状況を目立たずに打開する良い方法はないだろうか?




「ないな、ここは正直に正攻法で行くしか」


「リョウマ? もう殲滅していい?」




 子供の我儘の様に『殲滅』という単語を使うソフィアに眉尻を下げつつ俺は説得を試みる。




「あ〜、ソフィア? 絶賛最上級魔法改変構築という絶技に寸止めをかけて非常に申し訳ないんだが、ここは俺に任せちゃもらえないだろうか?」




 明らかに頬がむっすりと膨れて唇が尖った。


 全然納得してないなあ。




「理由は? 内容によっては考えないこともない」




 尖った口先で拗ねた様に呟くソフィア。


 話を聞いてくれる気があるだけでもよかった。




「さっきの連中からも聞いたんだが、この世界で俺たちの使う【魔法】はどうも常識を逸脱しすぎているらしい。


 だから人前であまり目立つ行動は控えるべきだと思ってな?


 俺は今度こそ、ソフィアも一緒に平穏な生活をこの場所で送りたいと思っている」




 一先ず正直に思いを告げた。




 ソフィアは静かに俺を見つめながら話を聞いてくれている。




「私と……一緒に……」




 なにやら小声で呟いているが、このタイミングは好機! 一気に『お願いします』と畳み掛ける時!!




「だから、今回、だけでなく今後も出来るだけ目立ちすぎる魔法は——」


「わかった」




 驚くほどに素直な回答。




 すんなりと受け入れ魔法を解除したソフィアに俺は一瞬驚き、だが理解してもらった感謝を、




「ありがとう! わかってもらえて——」




「勿論タダじゃない。魔法を研鑽し、より強大に、美しく、派手に行使するのは私にとって、いや魔族にとって生きがいと言っても過言じゃない。それを、私は諦める。そこは仕方ない、けど」




 伝えようとした言葉を遮り淡々と返ってくる返答に思わず息を呑む。




「けど?」




 恐る恐る続きを促した俺に、若干視線を泳がせ節目がちにこちらをチラチラと見つめるソフィア。




「えっと、その、月に——じゃ足りないから、週に一回、私とデート……これが条件、で、どう?」




 おっさんには勿体無さすぎる可愛さだろ。




 手を触れてはいけない物に触れているような罪悪感が押し寄せてくるのがわかる。


 これは、俺のようなおっさんが触れて良い領域の『可愛さ』ではないと。




「あ、ああ、そんな事でいいなら、喜んで」




 バッカ! 俺のバッカ! 何満更でもないみたいな気持ち悪い表情で頬をポリポリしながらすんなり承諾してるんだよ!


 ダメだろ! そこは、きちんと大人として毅然とした対応を!




「——っ、やった」




 そこには純粋に喜びを小さく握った両方の拳で表現するソフィアの姿。




「——っく」




 可愛すぎて無理。




 婚約とか、お嫁さんとか明言されてからという物、やたらとソフィアの至る所に保護者目線とは違った可愛さを見てしまい——、いかん!




 このままでは『魅了』されてしまう!




 健全じゃない!


 俺にとってはこれ以上ないほどに勿体無い嫁さんだが!


 違う、そうじゃない! ソフィアの事を考えろ、俺!




 まだ十八だぞ? 彼女には未来があるんだ、ソフィアが可愛いのは誰の目にも当たり前の事実!




 動揺するな俺! 現実を見ろ? 彼女の隣におっさんは相応しいか? 少し考えればわかるだろ?




「——っふぅ。落ち着いた、危なかった」


「リョウマ?」




 キョトンと純粋に心配の眼差しを向けてくるソフィアに、大丈夫だと苦笑いを浮かべて誤魔化し、瞬間想像してしまう。




 俺以外のソフィアに相応しい誰かって、誰だソイツは。




 いや、並大抵の男じゃダメだよ?




 仮にも親友から託された大事な娘だ。


 最低でも俺を簡単に倒せるぐらいじゃないと。






『いやムリっしょ、てか拗らせ方ハンパねぇ〜』


『ムリでありんす、それこそ魔王ぐらいじゃありんせんか?』


『リョウマちんさぁ〜、それ、逆にいたとして本当に納得できんの?て話だよ』


『妾でも主人どのに真の勝利を得るのは不可能であろうよ!』


『オジキィ! 来とるなら早よぉしてくれぇ! それに、言い訳が女々しすぎてキモいわ!』






 わらわらとこんな時だけ入ってきて好き勝手言いやがる契約精霊どもに『喧しい!』と一括。




「あ、リョウマ、助けるなら早くしないと限界っぽいけど?」




「お、おう! そうだな今は悶々としている場合じゃなかった!」




 ソフィアの声に反応して様子を見てみれば隙をつかれた一人が武器を取り落とし、そのこへ雪崩れ込んだモンスターによって前衛の守りが崩壊していた所だった。




 さて、魔法以外の選択肢となると……。




 よし、纏めて斬るか。




 俺は【アイテムボックス】から比較的強度のある『上級竜の素材』を使用して作られた一振りの片刃大剣を取り出し、それなりに重量のあるそれを片手で数度振るう。




 重い風切り音、巻き起こる風圧だけで俺たちの周辺に寄ってきていたスライムが弾けて消える。




「よし! やるか! ソフィア、念の為あの連中の周辺に結界頼む」




「う、うん、それは大丈夫だけど。あ、あのね、私が言うのもなんだけど、ものすごく嫌な予感が」




「おぉし! お前らぁあっ! 念の為頭下げとけぇっ! いくぞ! そぉらっ!」




 少し距離のある〈探索者(シーカー)〉らしき奴らに向けて声を張る。




 ソフィアが何か言いかけていたが俺はもう攻撃のモーションに入っていたため聞き取れなかった。




 まあソフィアなら間違いなく距離があっても結界を間に合わせてくれるだろう。




 片刃の大剣を俺は横一文字に振り抜いた。




 剣閃の軌道上に衝撃波を撒き散らす斬撃が飛ぶ。




 斬撃は低級のモンスターを斬る前に()()()()()()()前へ前へとぐんぐん突き進み、射程外のモンスターも斬撃の余波による衝撃波で消し飛んでいく。




 狭い遺跡の様な通路にひしめき合っていたモンスターが()()()()吹き飛ばされた。




 戦闘が行われていた少し開けた空間までを舐め尽くした斬撃は硬質な何かとせめぎ合う様に甲高い音を立ててぶつかり、最終的にあたり一体を吹き飛ばす衝撃と暴威を振るって消失。




「「「……」」」




 何が起きたのか全く理解できていない様子で唖然とこちらを見つめてくる集団と視線が重なる。




 一時の静寂。




 見渡せば遺跡の様な狭い通路はゴッソリと抉れ、開けた空間と思っていた場所と最初から同程度の通路であったかの様に通路は広がっていた。




「……見通しが、ちょっと良くなりすぎたかな」




「ねぇ、リョウマ? さっき私に注意した事の意味、自分で理解してる?」




 面目次第も御座いません。




 いや、ちょっとね? こっちに戻ってきてから全力で剣を振るう機会なんてなかったからさ?




 フラストレーション的な奴?




 溜まっていたんだな〜と実感したよ。




「申開きは?」


「御座いません」




「デート、週一回プラス、月に一回必ず旅行」


「仰せのままに」




「——っ。まあ、今回は大目に見ます」




 この気に乗じてと言わんばかりに追加される条件。




 拒否権のない俺は大人しく首を垂れるしかない。




 にしても、そんなわかりやすく嬉しそうな顔しないでくれよ。




 本当に、俺自身、勘違いしてしまいそうになるだろ。

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