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第42話:『探索者』取締法って知ってます?

「この状況で俺らに話でも? 他にも加勢した方がいい連中は山ほどいると思うが?」




「リョウマの言う通り、邪魔だからどいて」




 ソフィアさん?




 俺も一応穏便に話を進めようと考えた上であえてニヒルな感じを装ってますからね?




 そんな喧嘩腰に話を進めなくてもいいんですよ?




「はっ! ええなぁ嬢ちゃん! 完全にワイの好みや! どや、ワイの——〈紅蓮獅子〉マスター緋獅子(ひじし)炎真(えんま)の女にならんか?」




 ソフィアの勝気な態度をむしろ好印象と捉えた赤髪の男——緋獅子は獰猛に頬を釣り上げてソフィアを見据える。




 なんだろうか、この、内側からじわじわと込み上げてくる苛立ち。




 ソフィアに言い寄られて、怒る、のは『保護者』という立場上、当たり前として……この感覚は、嫉妬?




「あー、緋獅子とか言ったか? 今はそういう話をしてる場合じゃ——」




 とにかく話題を逸らそうと声を上げたタイミングで、ソフィアが動く。




 闇色の魔力が一瞬だけ黒い燐光のように瞬く。




 闇の魔法で形成された剣を手に、刹那の間に距離を殺し緋獅子の喉元へと漆黒の刃が添えられていた。




「私より、弱い男は無理。それに、私はリョウマのお嫁さんだから、あなたの強弱に関係なく論外。それより、これ以上邪魔するなら容赦しない」




「お〜、怖。なんやおっさん、おっさんの割にやるやんけぇ。了解、了解。もうワイはあんたを口説かへん、せやからその物騒な獲物下ろしてくれへんか?」




 飄々とした態度は崩さずに対応する緋獅子だがその表情に余裕はない。




 ソフィアが本気であることを理解した上で全く反応できなかった彼女の技量に驚きを隠せない様子だ。




 ソフィアを甘く見ていた面も大きいが、ソフィアが本気なら今頃緋獅子の首は胴体に別れを告げていたはず、その事実を緋獅子本人も本能で理解した様子だった。




「おじさんだけじゃなくて、連れのお姉さんも只者じゃないねぇ!


 そいつはそれぐらいの対応しないと分からないから丁度いいよ〜、あとおじさんも隅に置けないネェ? お嫁さんかぁ〜、ふふ」




 ニタニタと笑みを浮かべる青髪の少年風青年——紛らわしいので少年でいいか。




 ソフィアの真っ直ぐな言葉は正直とても嬉しいんだが、やっぱりちょっと恥ずかしいかな!




 まだ、ソフィアの気持ちを完全に受け止め切れたわけではないが、ただ、恥ずかしい反面心地よさも感じてしまっている自分が確かにいて、




「ちょっと顔を赤くするおっさんとか、誰得やねん。流石にキショいわ」




 確かにそれは、俺もそう思う!




 あえて辛辣なツッコミを受け止め我に返った俺は未だニタニタ顔の少年へ改めて向き直る。




「それで? 俺たちに何か用なのか?」




「あーうん、それもあるんだけど。


 あ! 改めて自己紹介しますね! 僕はクラン〈ブルーサーペント〉マスターの蛇喰蒼真です。あなたは氷室涼真さんですよね?」




 爆発音やモンスターの咆哮鳴り響く戦場に似合わない爽やかな笑みで持って応えた少年——蛇喰の回答に俺は眉根をよせ、




「何故、俺の名前を?」




 警戒度を引き上げて無邪気を装う蛇喰を睨み据えた。




「リョウマ、その人の〈クラン〉、お姉様が所属してる場所、あとお母様のパート先」




「え? 舞衣と母さんの? ん? ってことは」




 何故俺の素性を知っている?




 とか意味深に聞いてみたけど?




 待て、事情が変わってきたぞ?




 妹の所属するクランのマスターで?母のパート先?




 つまりそれは妹と母の上司で、クランという組織の長、つまり会社で言うなら、社長!?




「! あ、その、いつも妹と母が大変お世話になっております」




「いえいえ此方こそ、いつも妹さんには助けてもらっています、お母様も人手が足りない時にご助力いただいて本当に日々支えられております」




 瞬時に相手との立場関係を理解した俺は透かさず礼を持って接する!




 妹と母が務める職場先の上司に悪態つく兄兼息子って、異世界歴二十年の俺でも流石にそれはダメだとわかる。




「なんやねんお前らさっきから、出来の悪いコントか、って、流石にこのままベシャリ倒すんは無理やなっと!」




 ペコペコと礼を繰り出し合う俺と蛇喰を煩わしそうに見ながら手にした刀で横合いから殴り込んできたオーガの拳を半身で躱し踏み込んだ先から一刀の元に胴体を分つ。




 瞬間斬り口から広がる炎がオーガの肉体を火だるまと化し、近くにいたホブゴブリンの群れに燃え移った炎が少なくないダメージを与えている。




「中々やるな……で、えっと、俺に話ってのは?」




「ん? ああ、大したことではないんですけどね!


 っほい、せいや、ほっ、妹さんから今朝氷室さんのお話を聞いていたので、ご挨拶と、いくつか疑問点を——。


 はいっ、トロールお願いします」




 こちらも巧みに蒼穹の槍を操り、近づくモンスターを片っ端から突き、斬り落とし、槍の穂先から迸る冷気が瞬時にモンスターを凍らせ石突で打ち砕く。




 見事な体捌きを披露する傍ら会話を継続していたが不意に背後から棍棒を振り上げたトロールが近づき、何を思ったか瞬時にトロールの後方へ回り込むと、その背中を槍の先端で突き上げ俺の方へと差し向けてきた。




 俺の技量でも測るのが目的か?




 あいにくとあまり目立ちたくはないんでね。


 適度に手は抜かせてもらうぞ。




 俺は手にしていたロングソードタイプの〈モジュール〉を前傾姿勢で倒れ込むように棍棒を振り翳しているトロールへと突き出す。




「あまり試される様な事は好きじゃないんですがね」




 切先がトロールの肉へめり込んだ瞬間、内側から突き抜ける雷撃と閃光。




 一瞬で塵となったトロールが崩れ消え、隔てられていた向こう側の蛇喰と視線が交差する。




「はい、すいません。ですが重要な事でしたので」


「せやな、俺も今確信したわ」




 何やら意味深な微笑を湛える蛇喰と並びたち俺を睥睨、してるわけではないだろうが何分目つきがすこぶる悪いので睨んでいる様にしか見えない緋獅子。




「ん? 俺が何か」




「お兄さん、まず前提として〈探索者(シーカー)〉じゃないですよね?」


「試験落ちとったしな? 〈探索者(シーカー)〉な訳があらへん、これは確定や」




 ギクリと肩が跳ねる。


 あ、もしかしてこれは、力を測るとかそれ以前の——。




「そもそも、〈探索者(シーカー)〉以外の〈モジュール〉所持は法律で禁止されていますが、それはまあいいでしょう」




「ワイらばっちり見てもうてるからな、この後の見苦しい言い訳は無しでたのむでぇ?」




 なんでコイツらこんな時は息ぴったりなんだよ!?




 ああ、まずったぞ、これは、言い訳、なにか都合のいい理由を考えるべくフル回転させようとしていた思考が後方にいるはずのソフィアへと向いて停止。




 諦めの境地へと入る。




「まあ、今更ですが本題です。〈探索者(シーカー)〉しか購入できないはずの〈マギチップ〉無しに、どうやって【魔法】の行使を?




 というか、後ろでモンスター相手に無双していらっしゃるお連れのお嬢さんに関しては〈ウェポンモジュール〉さえ持っていない様ですが」




「ワイにキレた時点で、武器、【魔法】で作ってまってたけどな」




 影の魔法を覚えて以来使用できる場面が無かったフラストレーションが溜まっていたのだろうか。




 ソフィアは嬉々として影を操りモンスターを取り込み、時に影の中を移動したり、影の分身を複数生み出して乱舞したりと、控えめに言ってめちゃくちゃ目立ってた。




 今思えば、シンジたちを助けたのも影の魔法を使いたかっただけとか?




 あり得るなー。

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