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第40話:ば、バクバクさん?

「ジュウゴさん! くそ、俺らが足を引っ張ったせいで」




「俺ら、男になりてぇっす! だからせめて肉壁くらいには!」




「おっす! その間に、逃げてください!」




「バカ、共が! 俺はいい、テメェらさっさと消えろ! 足手纏いなんだよっ!」




「「「嫌っす!」」」




 満身創痍のジュウゴを庇うように前へと進み出た三人。


 なけなしの献身など意に返さない強烈な棍棒の横薙ぎが迫る。


 目を瞑り、最後の時を迎える覚悟を決めたように歯を食いしばった三人に、ただ、その時は訪れなかった。




「モンスター如きが、魔王の娘に不敬」




 凛とした透き通る声色。




 迫り来る棍棒の一撃は、突如三人の目の前に降り立った美少女の白髪から伸びた薄紫色の毛先を僅かに風圧で揺らす程度に止まった。




 否、正確には縫い留められていた。




 ソフィアの足元から広がった黒い影が、トロールの棍棒だけでなくその場にいるモンスター全員の動きを封じている。




「おう、おまえら無事か?」




「「「ソフィアの姉御!と、兄貴!」」」




 俺はついでなのか? ん?




 そりゃソフィアは最高にクールで可憐だったけどもだな。




 俺が無言の圧をかけていると、ソフィアが指を上にむけてクイッと動かす。




 瞬間、拘束から逃れようともがいていたモンスター目掛け影の中から薔薇のような影の蔦が伸び、ズブズブとモンスターを影の内に引き摺り込んでいき、最終的に一匹残らずその場からモンスターの群れが消え去ってしまった。




「「「うわぁ」」」




 引き摺られていくモンスターの断末魔にちょっと引いてしまった三人は青い顔で改めてソフィアを見つめ、




「これがあの時手に入れた魔導書の【影魔法】、きちんと習得すればこれくらい簡単」




 ふんす、と自慢げなソフィアの可愛らしいドヤ顔に二人は目を輝かせ、一人は舐め回すように足先を眺めていたので俺が蹴りを入れておいた。




「ぐ、てめぇらは、あの時の——」


「うん。私も覚えてる。たしか……ば、ば。バクバクさん?」




「『爆殺坊』な!? 『爆殺坊』のジュウゴだ!」




「あ、そう、それ、すごくダサいやつ」




「うるせぇなっ! ダサくねぇし、キャラと合っててカッコいいまであるしっ!」




「? 異世界だとカッコいいの?」




「どういう基準だコラァ!


 ——っち、ただ今回は助かった。それで勘弁してやら」




 どこか不貞腐れたように外方を向くジュウゴに小首を傾げるソフィアは特に何の躊躇いもなく【治癒魔法】を行使、ジュウゴの傷を癒した。




「て、テメェ、こんな希少な【魔法】——んなことよりどういうつもりだ! ああ? 俺様たちに情けでもかけてんのか!?」




 内心の動揺を凄んで誤魔化す様子が透けて見えるジュウゴにソフィアは何でもないように肩をすくめて言った。




「別に? ただ、この世界では『困っていたら助けるのが当たり前』ってお母様に教えてもらったから、やってみたくなっただけ。




 それに、リョウマが住んでいた『平和な世界』を私も生きてみたい、だからモンスターが街に溢れて悲劇が生まれるのは、平和な世界じゃないし、見過ごせない」




 至ってシンプルで明朗な答えに思わず言葉を失うジュウゴ。




 俺自身も自分の小さな器を隠してしまいたくなる程にソフィアの瞳は純粋で眩しく感じた。




「この騒動の原因がお父様なら、私はそれを許さない。


 うん、覚悟が決まった、行こう、リョウマ」




「……ああ、行こう」




 強く眩しい決意の眼差しで進み始めるソフィアに引きずられるように俺たちはモンスターひしめく大通りを進み始める。




「やべぇ、俺様惚れたぜ、あの嬢ちゃんに——ぐふぉ」




「「「ジュウゴさん!?」」」




 なんか不快な単語が聞こえたので、とりあえず風の塊を腹部に打ち込んでおいた。




「もし、お父様がいたら——」


「ソフィア」




 気持ちの切り替えができたとしても、やはり思うところがあるのだろう。




 伏し目がちな彼女の横顔になんと声をかけたら良いか分からず名前を呼んだ先の言葉が続かずその肩へと伸ばしかけた手が空を掴む。




 気丈な言葉を発してはいたものの、平気なはずがないのだ。




 死に別れたと思っていた父が突然この世界に現れたかもしれず、ましてや望んでいない方向の影響を与えているかもしれないなど——。




「次はリョウマに『娘さんを下さい』としっかり宣言してもらって倒してもらう!」




「は?」


「え?」




 そういう流れ? 今、そういう流れだった?




 何その恥ずかしい設定、仮にも俺にとって君のお父様は『友』でその友に向かって『娘を下さい』はちょっと、というか、何そのキラキラした瞳。




 なんでこの局面で嬉しそうなの?




 十代ってわかんないなぁあ。




「「ん?」」




 俺は複雑な心境をさらに困惑させつつ、とりあえず憂さ晴らしにその辺のモンスターに当たり散らしながらダンジョンへの道を突き進むのだった。

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