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第3話:現代魔法の常識

 仲良く肉体的な言語で会話を楽しんだ俺と若者達は見事に打ち解けていた。




「こっちが〈ダンジョンゲート〉のある方角っすリョウマパイセン!」




「ソフィアさん! 歩くのだるくねぇっすか? 自分がお馬さんに——ゴフっ」




「兄貴が一緒にダンジョン同行してくれるなんて、もう俺らに敵なしっす‼︎」




 三人組——長槍を使い先行して道案内をしているのがユウタ、四つん這いで腹をソフィアに蹴られ喜び悶えている体格のいい変態がケンゴ、三人のリーダー格で濡れたズボンのまま歩く可哀想な若者がシンジ。というらしい。




 現代の情報を三人から聞いた俺たちは、今後のことを考えた結果、兎にも角にも金がなければ身動きも取れないと言うことで三人に同行しこの世界に現れたと言う〈ダンジョン〉に潜り、当面の資金を得ようと考えた。




「ダンジョンにはモンスターがいるんすけど、今から行くのはランクの低い割に高値で売れる魔石を落とすモンスターの狩場なんっす!」




 シンジの説明を聞き流しながら俺は考えをまとめていく。




 俺のいた異世界と同じモンスターなら対処もしやすいが、未知のモンスターの可能性もある。長年の逃亡生活でまともな装備もなくなった今の状態で大丈夫だろうか。




 横目でチラリと若者達を見て不安を杞憂だと掻き消す。




 はっきり言ってコイツらは弱い。




 もしかしたら異世界の駆け出し〈冒険者〉より弱いかもしれない。




 そんな連中が『狩場』だと断言して対処できている時点で俺とソフィアが苦戦する事態にはおそらくなり得ないだろう。




「そういや兄貴は何歳なんっすか? 俺らは三人とも二十一っす」




「ん? ああ、三十五だ」




 魔王に挑み、国を追われ……自分の年齢など考える余裕もない人生だった。思えば随分と、




「ぇえっ!? マジっすか? てっきり二とか三個上ぐらいだと」




「意外とおっさんだった——あだっ」


「マジか? ソフィアさん、パパ活——グヘっ」




 息つく暇もなかった人生だったと過去を見つめていれば聞こえてくる「おっさん」というフレーズに俺は無言でユウタに拳をふるい、ソフィアはなぜか再びケンゴに蹴りを入れていた。




「あ、兄貴落ち着いてくださいっ! むしろ見えないっす! 全然おっさんには見えないっすから」




 おっさんに見えないと言うシンジの言葉に落ち着きを取り戻した俺は、確かに三十五と言う年齢を考えれば彼らの反応にも納得できた。




 異世界での経験は過酷そのものだったが、その分〈スキル〉などの恩恵も多く受けている。




 俺の体は恐らく通常の人間よりも老化していく速度が幾分か一般人よりは遅いだろう。




 全体的に年齢不詳のエルフや最初からおっさんのドワーフ程ではないが。




 そこでふと今更ながらに疑問を感じてしまった事実が思い浮かぶ。




「そういえばソフィア、この世界の言葉……日本語を喋ってるよな?」




「ん? この世界に来て〈スキル〉がいくつか増えていた。【言語理解】とか【アイテムボックス】とか……勇者と同じ〈スキル〉」




 ソフィアも異世界からこちらに召喚? される際便利なスキルを取得していたらしい。




 俺が初めて異世界に渡った時は〈女神〉を名乗る存在に〈スキル〉を与えられた。ソフィアは俺と一緒に戻って来たことが原因か? 




 まあ、事実はわからないが〈スキル〉が有用であることは間違いないし、問題なくこちらの世界でも使用できる点には感謝だな。




 ふと、右手の指にはまっている五つの指輪がそれぞれに淡く明減。




 ああ、お前らも一緒で安心してるよ、一応、だけどな。




 俺とソフィアの会話が聞こえていたらしいシンジが興味を抱いた様子でチラチラと視線を向け、




「兄貴、ソフィアの姉貴っ。スキルって、なんかゲームでもやってんすか?」




 流石に魔力や魔法が使えるようになったトンデモない現代でも〈スキル〉などはないらしい。




 俺はソフィアに目配せをしながら適当に相槌を打って話を誤魔化す。




「ところでさっき魔法を買うとかなんとか言ってなかったか?」




 俺の問いにまたもやギョッとした表情を見せるシンジの頭を軽く叩いて説明を促す。




「え、えっと、はい。今じゃ小学生でも知ってる常識っすけど……。




 俺ら人間はモンスターと違って〈魔力〉を自家発電できねぇっすから、この〈ウェポンモジュール〉で魔力を外部から吸収、んで持ってこの〈マギチップ〉をモジュールにセットすりゃ、魔法が使えるってわけなんすけど。




 この〈マギチップ〉がそりゃもう高額で……上級魔法なんて手に入れたらそれこそ無双確定なんすけど、余裕でビル一棟たつんじゃね? ってぐらいの価値なんすよ」




 魔法を買う、ね……正直俺には全く意味がわからない感覚だったりするのだが。




 そんな俺の様子を察してか、素っ気ない声をソフィアがあげた。




「勇者は規格外だから、庶民の感覚がわからない。


 私たちの世界でも似たようなもの。


 魔法を取得したければ魔導書が必須。貴重な魔導書はそれこそ一族の秘伝や秘宝同然。【原始の大精霊】と契約してポンポン【殲滅級魔法】を行使する勇者の方がどうかしてる」




 じっとりと半目で睨むソフィアの視線に冷や汗を拭いつつ、成程と納得しておく。




 俺たちのやり取りに首を傾げている三人の若者。俺は目を細めて彼らを改めて見据える。




 実際、こいつらにも魔力はある。




 それらを扱う術が全くわかっていないだけ。その技術を〈ウェポンモジュール〉と呼ばれる武器が触媒的な役割を持って補っているのだとわかる。




 これが現代の常識ならおいそれと魔法は使えないな——。



 よくよく考えれば現代で魔法を使える状況ってなんだろうか、と不毛な思考が堂々巡りを始めた所で、



「リョウマパイセンっ! つきました! ここが都内から一番近い〈ダンジョンゲート〉っす」



 ユウタの案内で俺たちは目的地へと辿りついたのだった。

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