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第29話:年上講師とダンジョン研修で秘密の授業

「都内中央区に位置するここは、『ダンジョン協会中央支部管理ダンジョン低級』という名称で呼ばれています。


 新人〈探索者〉の皆さんも専門学校で習っていると思いますが、ダンジョンとは主に——」




 都内、奇しくも涼真が現代で初めて潜った中央区に位置するダンジョン内で新人〈探索者(シーカー)〉数名を前に背筋を張って簡単な講義を行うのは、涼真の妹にして大手クラン〈ブルーサーペント〉にて現場〈探索者(シーカー)〉兼新人教育を担当している氷室舞衣。




「おぉっいいですねぇ〜先輩、その出来る女の色気がムンムンしているあたりとか最高です! むしろエロいっ! よっ! エロ講師! これは『ダンジョン講師と秘密の探索』的なタイトルで」




 至って真面目に新人講義をしている舞衣を茶化すように、撮影用の機材を操作している後輩を舞衣は講義を中断して鋭く睨む。




「ちょっと、エミちゃん! 今は真面目な話の途中! あと、その、『配信』にこんなシーン必要なの?」




「なにを言ってるんですか先輩っ! 


 今回の主役はあくまで先輩ですよ! 凛と講師をしているエロかっこいい先輩! モンスターを華麗に捌くエロ強い先輩! そして訪れるピンチっ! 無数のゴブリンに囲まれ、新人を庇うために身を挺す! 只管エロい先輩っ!」




 なぜか妙に鼻息荒く『エロ』を主張する後輩にため息をつき、講義を再会しようとする舞衣。




 ちらりと視線を足下に向ければ『地狼』アルバの鋭いが気だるげな視線が、少し離れた位置で忙しくひっきりなしに誰かと通話を繰り返している眼鏡の男性、舞衣の婚約者にして〈ブルーサーペント〉の副マスターである地神剛へと向けられていた。




「ふむ、こんだけ先輩に『エロ』というセクハラ案件モリモリのワードを差し向けても我関せず、ですか〜。こうなったら本当に先輩の『エロチャンネル』開設しまぶっ」




 底意地の悪すぎる後輩の目に余る言動に必殺の『諸手突き』を見舞い沈黙させた舞衣。




 一連のやり取りに困惑と萎縮を極める新人を前に咳払いを一つ、後輩の言う通り舞衣達の動向に一切関与する気配のない地神に思うところはあるものの、舞衣は気持ちを切り替え講義を再会する。




「え〜っと、色々余計な情報もあったけど、改めておさらいね!


 現在国内で確認されているダンジョンは計十三箇所。海外にも出現は確認されているけれど、我が国のダンジョン数は世界的に見ても圧倒的な数を誇るわ」




 戸惑いやら、尊敬やら、畏怖やらの視線を集めながら舞衣は講義を再会。


 今回舞衣が選抜した新人〈探索者(シーカー)〉達はそれでも真剣に気持ちを切り替えて熱心にメモを取る。




「いいですねぇ〜この初々しい感じ〜、アルバ君もそう思いません?」


「ワフ」




「なぜでしょう、君からとてつもないイケメンのオーラを感じるのは」


「ワフ?」




「いえ、もふもふな子は好きですけど、流石にそこまで飢えては……でも、なぜか、ウチのセンサーがビンビンと反応するような?」


「ウォン、ウォーン」




 獣にまでオスを求めるようになった可哀想な後輩に憐憫の視線をチラリと向け、真剣な新人のやる気を削がないようにと集中する舞衣。




「不憫……。えっと、まずは〈ダンジョン〉のおさらいよ! 基本的に〈ダンジョン〉はその階層の深さによって『低級』『中級』『上級』と分かれるのは知っているわね? ではこの区別をどこでつけるか誰か答えられる?」




 舞衣の問いかけに先ほどから熱い尊敬の眼差しをギラギラと向けている若く可愛らしい外見をした女性の新人〈探索者(シーカー)〉がビシッと手を挙げる。




「はい! わたしは真宮寺(しんぐうじ)麗華(れいか)、二十歳、専攻魔法は【風魔法】です! 氷室舞衣教官!」




「知っているし、そこまでの情報開示を求めていないわ真宮寺さん。個人情報は大切に。で、回答は?」




 舞衣がリストアップしたのだ、名前や特性、その他諸々の情報は既に頭に入っている。




「はい! ダンジョンはその階層の深度によりランクが異なります! 深度五階層までが『低級』、十階層までが『中級』、二〇階層までが『上級』、ある一部のダンジョンで確認されている二十一階層以上のダンジョンが『超級』と呼ばれています! ちなみにわたしが好きなのは男性ではなく女性です!」




「……ありがとう。そして、再三言わせてもらうけれど、個人情報は大切に。この場でのカミングアウトに意味はないと思うわよ」




「あります! 気になる方にわたしという存在を認識してもらうには有効な——」




「は〜い、麗華ちゃんストップストップ〜こっちで少しステイしようね〜」




 意外と仕事はきっちりこなす後輩に改めて感心と尊敬。




「へぇ〜、結構いい体してるねぇ〜、うわ、胸おっき〜」


「はっ、いやです、先輩! はぁんっ!!」




 舞衣は前言撤回し堕落した後輩は後で必ず躾直すと心に誓う。




「そこの二人? これ以上やるなら近くに『ゴブリン』の『モンスターハウス』があるから案内しましょうか?」




「すいません」


「すいません、わたしは被害者なのにぃ」




 風紀を乱す元凶を二人取り除いた舞衣は残る新人に改めて向き直る。




「じゃあ、御門真斗君? 真宮寺さんの回答を引き継いで、階層区分の理由を説明できる?」




 ぱっと見、ガタイの良い強面なオラオラした若者にしか見えない青年、だが舞衣に向けるその視線は明らかに怯えているようだった。




「ひ、ひぃっ!? じ、自分は、御門(みかど)真斗(まさと)、二十一歳っす、普通に女性が好きですが、すいません! 氷室教官にそんな感情をむけるのは、恐れ多いっす! 自分死にたくないっす!」




 なんか変な流れが出来てしまった、と舞衣は眉間をグリグリ揉みほぐし、咳払いを強めに一つ。




「えっと、別にアタシは、誰からの好意も求めてませんから! 当分そんな気分にもなれそうにないので!」




「ひぃい! すんませんっ! 本当にすんませんっ!」




 チラリと私情を声に乗せて発してみた舞衣。




 一瞬視線が地神と交差するも、直ぐに忙しそうに通話を始めた『一応まだ婚約者』にぎりっと舞衣は歯を鳴らす。




「もういいわ! 次! 赤崎(あかさき)蓮司(れんじ)君! 答えて!」




 女性から間違いなくモテるであろう容姿の青年が周囲の状況に困惑を見せながらも回答する。




「え、あ〜、これ普通に進めて大丈夫ですか? あ、答えますけど。階層は下層に潜るほど『モンスター』の強度が増すので単純にそれが理由かと。『低層』だと『スケルトン』や『スライム』が主、『中層』で『ゴブリン』に、『コボルト』とかですかね……『上級』だと」




 やっと返ってきたまともな回答に胸を撫で下ろした舞衣は、後半考えるように詰まった赤崎の回答を優しく引き継いだ。




「『低級』でも特定の場所で『中級』のモンスターが出現する事もあるけれど、概ね正解よ。『上級』は『オーガ』や『トロール』が有名かもね? 『超級』に関してはまだ調査が進んでないから確かなことは言えないけれど、『レイス』や『ドラゴン』を見たなんて情報も寄せられているらしいわね」




 赤崎はここにきて至って真面目に進行していく状況に目を丸くしながらも真剣にメモを取る。




 その新人らしい態度に気分を良くした舞衣。


 全員を見回すように視線を向けた後で声を張った。




「本日の目的は新人〈探索者(シーカー)〉諸君の研修と並行して『ダンジョンの異変調査』を行うことになっているわ! ここ、『中央区のダンジョン』が『低級』だとしても、今回はただの『研修』ではなく、本格的な『調査』も兼ねている『任務』であることを忘れず、気を引き締めて望むように!」




「「「はい」」」




「はいっす〜」


「ウォン」




「……」




 勢いよく返事を返した、多少癖は強いが優秀な新人三名とその気合いを台無しにする後輩とその緩みを正すように力強いひと鳴きを入れたくれたアルバに舞衣は頼もしさを感じる。




 気がつけば舞衣を意識するように後方からメガネを直す地神の視線。舞衣はあえて意識を外し、再度新人を見ながら声を張る。




「今回の研修と調査遠征は二日を予定しています! 戦闘訓練を行いながら最下層を目指し、最下層到着後は異変の調査! 異変の内容は資料にもある通り『ダンジョン内に起きた謎の洪水』『モンスターの出現量増加』『最下層における新たな階層出現の兆候調査』の三点! 状況次第では遠征の延長もあります!」




「「「「はい!」」」」




「ウォン」




「最後にアタシは、この『新人班』と現在周囲の警戒にあたっている『調査班』の総責任者を任される事になった氷室——」




「クラン〈ブルーサーペント〉副マスターの地神だ。


 彼女は氷室舞衣、私の『婚約者』でもある彼女が今回君らのリーダーを任される事になった。お互い不慣れもあると思うがクラン内の秩序を乱す行為は避けるように、後調査班は一応私の優秀な部下を揃えているので『万が一』の事態は想定せず、安心して研修に集中するといい」




「ちょっ——」




「う〜わっ、器ちっさ」


「ワフ、グルルゥ」




 舞衣の言葉を強引に遮って割り込んだ地神は注目を自分に一度集めると、舞衣が説明する間周囲にモンスターが寄らないよう警戒を行っていた部下を背後に控えさせ、尊大にも見える立ち振る舞いで舞衣の隣に立ち、




「何か言ったか? 『緋獅子(ひじし)咲美(えみ)探索者(シーカー)〉?」




 メガネに後輩の姿を映しながら憮然とした態度で告げた。




「——……っち」




 その雰囲気をガラリと険悪なものに変えた後輩は静かに地神と睨み合うのであった。

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― 新着の感想 ―
なんだこの愚物…ケツの穴の小さい野郎だなぁ。なにが地神だ、完全に名前負けしてんじゃねぇかww
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