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第15話:実家に帰る道すがら

 二十年ぶりに歩く駅から実家までの道のり。




 バスに乗れば三十分ほどの距離ではあるが、特に急いでいるわけでもない道の途中。




 懐かしい地面を踏み締める感触を味わいながら学生時代通い慣れた道のりをゆっくりと歩くのもなかなか、




「勇者、ご両親と会うのが嫌? わざわざ時間かけようとしてる?」




 ギクリとわかりやすく肩が跳ね、軽快だった足取りが鉛の様な重さを覚える。




 何なら小中の母校とか見たりして遠回りしようとしていた。


 とは言えない空気。




「あ〜なんというか、不可抗力とはいえ二十年近くも消息不明だった人間が……というか、当時十代だった息子が突然三十路折り返しで帰ってきたら、と親のリアクションを考えると、な」




 親になったことはないが、中々堪えるものがあるんじゃないだろうか? 




 俺自身、俺の姿を見て困惑し硬直した両親の姿を前にどういう反応をすればいいのかわからない。




 もし、もし仮に、いや十分あり得る予想として、おっさんと化した『息子』を『息子』として認識できなかった場合だ。




「俺はあなたたちの息子です」と実の両親に説明する、かなりキツくないか?




 下手したら消息不明の息子になり変わっていきなり現れた不審人物扱いされる可能性も——。




「大丈夫。勇者のお父様とお母様は、勇者のお父様とお母様だから。今の勇者を見ても必ず受け入れてくれる」




 ソフィアの優しい言葉。




 十代の子にここまで言わせたら『おっさん』であることすら失格だ。




 これじゃ、どっちが保護者かわからないな。




「あ〜、ウジウジ悩んでるオッサンほど見苦しいものはないよな? っよし、覚悟きめるか」




 どちらにせよここまで来て行かないという選択肢はないのだ。


 当たって砕けよう。




「勇者はなんで自分のことをオジサンって言うの? 魔族では大人どころか若者なのに」




 平均寿命がちがいますからな〜。




 成長速度も自ずと変わるし、その分老化も早いわけで。




「まぁ〜なんというか。二百年とか余裕で生きる魔族の基準で言えば、俺は七十とか八十代な感じで」




「でも、それだとおかしい。年齢が基準なら三百歳を超えていたお父様は? お爺さん?」




 グッと応えに詰まる。




 勇者の宿敵にして唯一の友でもあった魔王ベリアル。




 夜が溶け込んだように艶やかな黒紫の髪色。




 初見で女だと言われても何ら疑いなく受け入れてしまう中性的かつ整った顔立ち。




 魔族の特徴の一つとも言うべき青白くすら見える透明度の高い色白の肌が余計にその眉目秀麗さを引き立てていた。




「アイツは……凶悪なほどイケメンという反則級のキャラだ」




 実年齢よりは少し若く見える俺よりも更にアイツは若い。


 


 ソフィアと並んでいたら親子ではなく兄弟、




「いや、カップルや夫婦と言われてもおかしくは——っ!?」




 先ほどまでの和かでおっとりとすら感じられた白髪と薄紫に染まっていく毛先が印象的な、親が親なら子も子という、まだあどけなさを残していても絶世と評して過言ではない美少女の切長な双眸が鋭利さを増す。




 その華奢な細腕から繰り出されたなど予想もつかない強烈なフックが半歩先を歩きながらボヤき溢した俺のレバーを衝撃で貫き、悶絶。




 冗談で打ち込んでいいレベルの拳じゃないぞ!?




「次、キモチ悪いこと言ったら、貫く」




 つ、つらぬく!? 下手な悪漢に刃物で脅されるよりも笑えない冗談——冗談ですよね?




「と、とにかく、今の失言は謝るが、アイツの見た目は一般的な基準では」




「勇者は一般的な人間じゃない」




 いや、まあ、うん。




 ただ俺は主張したいぞ? たまたま召喚されて勇者として祭り上げられたが、二十年前までは限りなく一般庶民であり極々普通の高校生男子だったと。




「それは、色々と理不尽な環境が——」




「一般的な人は、そもそも魔王を倒したり友人になったり、戦術級魔法で領土一帯を吹き飛ばしたり、領土一帯を吹き飛ばして回れるような『神域の精霊』五柱と契約なんてしないし、出来ない」




 愚の音も出ないとはまさにこの事か。




 それでも自分から望んで起こった状況なんて殆どないんだが……ここは大人しく白旗宣言が吉だな。




 魔族のお姫様相手に舌戦で勝てる気がしない。




 ベリアルが魔王の地位を退いた後に生まれたソフィアは正式に『魔族の姫』として育てられたわけではない。




 ただその後新たな『魔王』は生まれず、現時点でもあちらの世界で『魔王』と言う存在を指す人物はただ一人、魔王ベリアルを置いて他にない。




 ただ、そんな魔王様は、初めて授かった愛娘には相当甘かった印象が俺は強いが。




 魔族の情勢が劣悪になっていくにつれてソフィアを守るため人里から徐々に離れていった過程でソフィアは大凡『姫』と言う存在が享受する様な生活を送ってきたとは言い難い。




 同年代の友人は愚か、俺や精霊たち以外との関係性といえばベリアルと——。




「降参、降参だよ。確かに俺は『普通』とは言い難い環境に置かれた、が、それ以前は至って平凡、『普通の人』だった事は今から行く『実家』を見て貰えばわかるさ」




「生まれやご両親に特質した要素がないからと言って、その人が『普通』という枠に当てはまるかどうかなんてわからない。そもそも『普通』という概念は相対的な——」




 どんな環境で育とうと彼女は魔族の姫という称号を背負うに相応しく聡明でカリスマも持ち合わせ、魔法技術に関しても間違いなく天才と言っていい。




 そこへ持ってきて博識であった魔王ベリアル直々の教育に加え、逃亡生活から悪目立ちを避ける様になった俺の生活に暇を持て余したクセの強すぎる契約精霊達が、物覚えの良すぎるソフィアを面白がってあらゆる魔法技術に武術にと教え込んでいた訳で——。




 魔族の姫は十分すぎるほど『魔族の姫』『魔王の娘』としての称号に負けない少女へと成長したと言えるだろう。




 何処でスイッチが入ったのか未だに止まないソフィアのご高説を賜りながら、のんびりと歩く昔懐かしい街並み。




 ぼやけた記憶の片隅にあった実家近くの風景は確かに変わらずそこにあった。




 幼い頃友人たちと無邪気に遊んだ公園の遊具が真新しい物に新調されている事に静かな驚きとやはり心に湧き上がる物悲しさを感じていると、目の前に現れた二十年前と変わらない佇まい。




 特質するべき所など何もないありふれた日本家屋。




 ただ、俺にとっては特別な意味を持つ一軒の家が見える頃、辺りは薄暗くなり始めていた。



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