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第13話:白銀の勇者

 異世界の元勇者『氷室涼真』と異世界魔王の娘『ソフィア』が涼真の契約精霊『雷鳥』ことシャロシュの騒ぎから逃れひと段落した後、右往左往しながらもコチラの世界にある涼真の実家へと帰省を決め、完全電子化された改札で切符を購入できず「電車にすら乗れない」と頭を抱えている頃。




 オフィスビルの連なる都内の中心部。




 中でも一際巨大なビルの入り口に佇むのは透き通るような白髪に灰色と白のメイド服を着た明らかに場違いな美少女。




 薄水色をした瞳が見据えるのは巨大な威容を誇示するかのようにビル全体に描かれている『銀の雪と剣』をモチーフにしたエンブレム。




 それはこの巨大なビルその全てを一つの組織が所有している事を示していた。




「はぐれメイドは、遂に真に使えるべき主人と巡り会えたのです。ならば、わたくしは——」




「真白様っ! 真白様っ‼︎」




 どこか儚げで触れれば溶けて消えてしまいそうな印象を持つメイド服の一風変わった少女の元に、血相を変えた表情で走り寄る数人の女性達。




 彼女達は皆遠目にも仕立ての良いパンツスーツに身を包み、しかしそのデザインは決して派手ではなく機能性を最大限重視した装い。




 『エージェント』っぽい。




 という言葉がしっくりと来る格好の女性達にメイドの少女はいつの間にか囲まれていた。




「真白様っ! お探ししたのですよ!?  またそのような意味不明な格好で出歩かれていたのですか! あなた様は日本最大級クラン『ヴァルデアのレガリア』が誇る『白銀の勇者』雪乃(ゆきの)真白(ましろ)様であるという御自覚を——」




 金切り声でメガネをクイっと光らせるエージェント筆頭のような妙齢の女性。


 その言葉半ばで真白と呼ばれたメイド服の少女はオフィスの入り口にスタスタと歩き向かっていく。




「ま、真白様! まだお話がっ」




「あなたにわたくしの行動及び言動を制限する権利は一切付与されていないはずです」




「私はあなたの補佐役として!」




「今日のスケジュールは?」




 食い下がる妙齢の女性を片手で制し追従していた他のスーツ女性に顔を向け淡白な問いを発する少女。




「は、はいっ! これより『ダンジョン監督省』大臣補佐官様、事務次官様がご来訪予定。会議に出席の後は『四大クラン』における『クラントップ会議』、夜は今後の活動についてインタビューなど——」




 心底煩わしそうに予定を聞いていた『はぐれメイド』を名乗る日本最大クラン代表、『白銀の勇者』雪乃真白という美少女はビルの内部に姿を消す直前でふと視線を後方へ向け、今までの無機質な人形のような顔つきが嘘のような微笑を向け、




『追いかけっこ、楽しかったね。未来の主人様によろしく』




 彼女の周囲にいても聞き取ることも難しいであろうごくごく小さな囁きを溢す。




 それは翡翠の風に乗り、少女を少し離れたところから眺めていた毛先が鮮やかな緑色の白髪を『狐』の簪で纏め、白と緑の着物姿をした麗人の元へしっかりと届けられていた。




「わっちの存在もバレてありんしたか。挙句『風』も返されんした。この『風狐』の尾行を気取って泳がせやしたわ……わっちらの世界にもあれ程の傑物おりんせん。御方様に報告せんと」




 着物姿の麗人がスッとその視線を細める。




 最後に歩き離れていく少女の後ろ姿をしっかりと視界に捉え、ふわりと微風を纏いながら虚空を蹴り飛翔。




 甲高い狐のような遠吠えを残してその場から姿を消したのだった。



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