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第10話:試着室で定番のアレ

 シャロシュに渡された服に着替え終えた俺は、




「とりま支払いたのんまあ〜す」




 値札の束を試着室のカーテンの合間から伸びてきた手に押し付けられ、っ高い。




「ありがとうございました〜! 試着室はご自由にお使いください! その他にも気になる商品がございましたらお声掛けくださいませ〜」




 明らかに店員の対応が違う。




 ちゃんと支払いを済ませたから、というのもあるのだろうが俺の格好を見てからの雰囲気が最初とは比べるまでもなく。




「お〜マスターなかなかイケおじになってるじゃんっ!!




 シャロシュちゃあんセンスの鬼じゃねっ? マスターは見ため年齢が六歳くらい若く見える微妙なスキル持ちだから、多少若作りなコーデでも映えるっていうねっ! 




 なんだよ六歳くらい若く見えるスキルって、複雑かよっ!」




「そんなスキルは持ってない。本当なら肉体年齢的にはもっと若いはずなんだけどな。長年の逃亡生活で疲労が顔に滲んだのか——」




「ああ、いいっすいいっす、そう言う真面目なのノンで。クソどうでもいいマスター情報は地の文ごと叩き潰しちゃって〜!!




 じゃじゃあ〜んっ、フィーちゃあんのくぁわいい尊い御姿にひれ伏せぃ」




 シャっと開いた試着室のカーテン。




 中から出てきたのは大きめのパーカーになぜか髪型まで良い感じに巻かてバッチリと現代っぽいメイクを施されたソフィアの姿。




「お、おお、見違え——」


「はい次ぃ〜」




 感想など求めていないと言わんばかりに試着室のカーテンが再びシャっと閉められた。




「……」




 俺の契約精霊ってなんでこんな奴らばかり? あっちの世界で出会った『精霊使い』が従えていた子達はもっと従順だったり愛嬌があったり。




 残りの指輪から抗議の光が明滅。




 『水猫』と『雷鳥』に比べればマシな方……どうだか。




「続きましてっ! 先ほどの甘くぁわいいスタイルとは一変!!  


 『大人くーる女子』になったフィーちゃあんをとくと御覧じろっ」




 再び開かれた試着室のカーテン。




 どうにもダウナーだった気持ちを無理やり浮上させてその全身を視界に納める。




 ジーンズを太腿あたりから切り裂いたようなスリット。


 パンチの効いた柄のインナーをさりげなく見せるように渋いデザインのライダースジャケットを羽織ったソフィアの姿。




「驚いた。今時の服装ってのは——」


「はいはい、次っすね〜」




 シャッと閉まるカーテンの音。




「……」




 俺は、今必要なのだろうか?


 というか、シャロシュはわざとやってるよな絶対。




 ため息混じりにその辺の椅子に腰を下ろして待つこと数分。




『ちょっと、これは、無理——』




『いいからいいからあっ! マスターにフィーちゃあんの可愛いとこ見せたいっしょ?』




『——っだめ』




 試着室の中から漏れ聞こえてくるやり取りに耳を向け、次こそは真面にコメントの一つは絶対に言ってやろうと試着室の前で意識を集中し構える。




 瞬間開いたカーテン。




 カッと両目を開きソフィアの全身を瞬時に視界に収め。




「——っ」




 ブカブカの両袖でもじもじと隠そうとしているのは肩から大きく開いた緩めの胸元、これでもかと言うほどに眩しく白い太腿を曝け出した極端に短いスカート。




 異世界では同年代の知り合いもおらずファッションなど楽しむ余裕なかったであろう少女が恥ずかしそうに頬から耳先までを真っ赤に染め震えるような上目遣いが俺の視線と交差する。




 な、なにか、コメントを。




「攻め攻めキュートなフィーちゃあんっ、と、あら、あらあらぁ? マスターはこーいう際どいギャル系の装いがお好み? ひゃー、これだからおじさんは——」




「か、可愛い、と思うぞ。よく似合ってる」




 契約精霊の雑音はこの際無視。




 意を決して、口先から思わず飛び出した褒め言葉のなんと陳腐なことか。




 もっと気の利いたコメントの一つも思い浮かばないものなのか!?


 それでも勇者かっ、俺!?




「——っ、あ、ありがと」




 シャっ! と今まで以上の勢いで閉まるカーテンの音。




 なんとなく呆然と立ち尽くしてしまう俺にニマニマとイラつく笑みを浮かべたシャロシュが一言。




「まあ、及第点すかねえ〜。経験皆無()()()()()の元勇者様にしては、頑張ったすよ。




 じゃ〜本格的にフィーちゃあんコーデ開始するんで、適当に時間つぶしていてくだせぇ〜」




 その後、本気で精霊契約をどうにかできないか考えながら待たされた二時間だった。



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