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第八話 鋼鉄の迷宮

「人間様なめやがって!」


田中が小銃を構えた瞬間、熊は粘つく足を蹴り上げて配電盤のレバーに体当たりした。すると火花と共に区画全体の照明が落ちる。


「くそっ!電気が!」


暗視ゴーグルがあるとはいえ、視界は格段に悪くなり、密室のコントロールルームは混乱に陥る。死の匂いが全員の心を支配する。


グワァァアァアア!!!暗闇の中に熊の咆哮が響き渡る。


「うわぁぁ!!!こっちに来るなぁああ!!!」


一人の隊員がパニックを起こし、銃を乱射する。


「落ち着け!!」陸が必死のその銃を押さえる。


ハァ…ハァ…ハァ…


とその混乱に乗じて、熊は床の通気口の蓋を破壊し階下へと飛び降りた!


「逃がすな!」


陸たちが後を追おうとした瞬間、別の方向から新たな熊が出現!左右の機械の影から、二頭の熊が同時に襲いかかってきた!


「挟撃!?」


陸はすぐさま腰からサンダーを抜き取り、一頭に応戦。田中は、小回りが利く拳銃を抜き、もう一頭の頭部に発砲し動きを止める。激しい銃声と獣の咆哮、金属音が、暗い工場内に響き渡る。




すると、二頭の熊は一斉に別々の方へと逃走をはかる。


「田中はそっちを!」


照準を合わせるが、熊の足取りはジグザグで拳銃の狙いが定まらない。


ダン!ダン!…弾はポイントを外す。


「くそっ!暗くてよく見えねぇ…」




残る一頭を追う陸は、走りながら狙いを定めるとナイフを大きく振りかぶり投げ込んだ。すると熊の脚部に命中!一瞬動きが止まったその隙に、サンダーを撃ち込む!


グワァァ!!


苦痛に歪む顔…それを見た瞬間、陸の中に再びあの妙な感覚が蘇る…胴体の底からフツフツと湧き上がってくる黒い衝動。恨みを晴らした瞬間に脊髄から脳に走るなんとも言えない幸福感…


「はぁ…はぁ…」


陸の目が黒く滲む。殺したい…殺さねば俺の方がこの衝動に殺されてしまいそうだ…ナイフを手に熊の懐に一気に飛び込んだ。そして、その喉元をかききる!


ヒィ…ヒィ…呼吸を失いもがき苦しむ熊!その顔を覗き込むように一歩一歩近づいていく…


”神木二曹…もうその個体は動けない…それ以上は…”


陸の耳には届かない…恐怖に歪むその顔を見ながらサンダーをフルチャージし始める。


「トドメを刺さないと…また誰かを傷つける…」


ピ!電子音が鳴ったと同時に、鼻先へフルチャージしたサンダーを撃ち込む。グワァァアアアアア!!


はぁ…はぁ…はぁ…巨体はピクリとも動かない。




“神木…あなたは一体…?”


無線の向こうから伝わってくる月島の絶句に、陸は我に返る。そして改めてその断末魔に歪んだ熊の顔を見た時、自分の中に潜む恐ろしさに気づいた。…まるで痒くて痒くて我慢できないかさぶたをかきむしってまた傷口が広がるように…さっきよりも恨みの霧は、さらに濃くさらに深くなった気がした。




一方の田中は、もう一頭の熊を追っていた。


ダン!ダン!…田中の銃弾が首筋に命中し、その動きはかなり鈍っている。


「よし…これでトドメだ」


この一発で終わらせる、集中して弾を撃ち込もうと引き金をひいた瞬間、


カチャ…カチャ…


「くそっこんな時に弾切れ!?」


いつもならまずない凡ミス…すかさず次のマガジン装填しようとした瞬間、熊はその隙を見切ったように身体を翻して最後の力を振り絞り襲いかかってきた。


「うそだろ!!!…うわぁぁああああ!!!」


終わりだと思った瞬間に、何か高速の飛翔体が熊の顔面に猛突進して発火した。


グワァア!!


視界を失い暴れる熊はそのまま配水管に逃げ込んで姿をくらました。




振り向くと、そこには風間がいた。


「今のは何!?」


「…自爆型ドローンです。お役に立ちましたかね…?」


強気な目をしながらもその手は震えている。


「あぁ…ドローンってのは本当すげぇや」その言葉に、風間は少し嬉しそうな顔をする。


「いや、褒めてるのはお前じゃなくてドローンだけどな」




「こちらブラボー1、熊1頭を処分。もう一頭は負傷した状態で配水管から逃走しました。」


この工場の下水路や古い搬送用トンネルが地下に張り巡らされている。逃走経路はいくらでもある…結果として、いつどこに現れるか危険性は増した。


“了解。デルタがポイントBで避難誘導中だ、合流せよ”




一方、コントロールルームに残った陸は、犠牲となった三人の亡骸を丁寧に袋に収容する。


「お前、その人たちどうするつもりだ?」田中は訪ねる。


「またココに熊が戻ってこないとも限らん。安全な所まで連れ帰る」


「そうか…貸せ、1人預かる」


陸は田中の背中に乗せる。


「このおじさん、意外と重てぇ!」


そんな田中に見せつけるように、陸は細身からは想像出来ない腕力で他の2人を担いで見せた。


「見せつけんじゃねぇよ!」




その頃、月島は工場の図面とリアルタイムの情報を照らし合わせ、他の情報官と熊の動きを分析していた。


「…ずっと違和感があった。そもそも熊は繁殖期でもない限り、群れない動物なのになんでこんな集団行動ばかりしているのかと」


「たしかにおかしいですね」


「もしかすると……熊は好んで群れているんじゃなくて、群れにさせられているのかもしれない…」


「どういうことですか?」


「最近の事件を分析してみると、普通の熊に混ざってごく一部、特に賢くて攻撃的な個体が混ざっている気がするの。例えば、先日の小学校の事件…校庭で隊員を襲った二頭は、凶暴性はあるものの動きは普通の熊の範疇を超えない。だけど校舎内の個体は人間を騙して挑発するなど明らかに知性が高い」


「つまり特別な知性を持つ熊が、その他の熊を従えてムリヤリ群れを形成している…?」

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