第三十五話 決断
数日後、東千歳駐屯地にて黒田の部隊葬が行われた。
制服姿の隊員たちが並ぶ中、車椅子に乗った佐々木を田中が押して参列した。
その前列、喪服姿の一人の女性がいた。彼女は目を真っ赤にして泣きはらしていた。
「黒田の婚約者らしい」
「…」
佐々木が焼香をあげると、彼女は話しかけてきた。
「佐々木さんですか?」
「はい…」
「生前、黒田からよくお名前を伺ってました。いつも彼はあなたのようになりたい、強い意志と身体で国民を守るために闘いたいと…」
「…」
彼女の声は震えている。
「…彼は…黒田は…どうでしたか?最後の最後まで戦い抜きましたか…?」
「はい、もちろんです。勇敢な闘いぶりでした」
しばらくの沈黙が流れる。
「…なんで?」
「…」
「…なんで戦い抜いちゃうの?…なんで彼が死ななきゃならなかったの?…もちろん、自衛官はそういう仕事だって、彼は正義感が人一倍強くて勇気があってムリしちゃうって、それは分かったけど…でも…本当は生きて帰ってきて欲しかった!」
前列にいる月島団長は深く頭を下げた。何度も…何度も…
黒田が乗る車が出棺されるのを見送ると、佐々木は車椅子に置いた拳を強く握りしめた。決意を込めて。
「俺、WARTを離脱しようと思う」
陸も田中も静かに頷いた。
「妻との時間を大切にしたい。生かしてもらったこの魂を、勇と凜との思い出を…守り続けるために」
佐々木は拳を突き出すと、田中も陸も風間も突き合わせた。
「いつまでも仲間だ」
そして、陸はまだ手に残る生温かい獣の肉体の感触を思い出した…先日の闘いでは不思議とあの恨みの衝動が、復讐の快感が、自分に取り憑く感情が薄まっていたのだ。それだけじゃない、高木を守った時も…。
自分の恨みを晴らすためでなく、本当の意味で誰かを守るために闘う時…この黒い闇を抜けられるのかもしれない…
その時、アラートが鳴る。…それは新たな危機の到来を告げるものだった。




