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第三十四話 危険な賭け

「俺が始末する!!」


“ダメよ!危険すぎる!天候が落ち着けばヘリや誘導弾も投入できる、今は撤退を!”


「えぇ、それが出来ればいいですが、目を離した隙にまたヤツは姿をくらまします。ココでトドメを刺すのが一番効率的です」


車体と熊の距離、わずか5m…もう一撃を食らえば車体はスクラップだ…


3m…2m…


すると、ベータは体当たりを仕掛けてくる。その瞬間を田中の銃撃で間合いを取る。


そして再び、5m…3m…2m…


「今だ!」


陸は弧を描き、白銀と青い空に舞った!


それを待ち受けるベータは大きく腕をふりかぶっている。


このまま行けばヤツの餌食…だが、脇に隠していた拳銃が腕の隙間から姿を現す。


ダンッ!ダンッ!


至近距離から放たれた弾丸は、一直線に熊の眼窩へと吸い込まれた!


グルォッ…!


巨体が崩れ落ちる。その淀みない動きと正確な射撃に、周囲の隊員たちが目を見張った。そのまま黒い肉体に乗りかかると、ナイフとサンダーに持ち替えて熊の急所を狙い撃つ。


痛みにうねる身体…それを掴んだ陸の手は一向に離れない。


きた!…あの黒い衝動が


…殺したい!晴らさないと自分の方が死んでしまうような恨みの業火

…だが今は、自分のためではない。佐々木のために自分の身体に燃え広がせた。


「ココでトドメを刺す!!ベータ!!!」


そのまま背面に回ると、脳天、脊髄、急所に何発も打撃を加えた。


雪原に響くうめき声…その巨体は絶命した。


車両からその一部始終を見届けた佐々木は、憑きものが落ちたように眠りについた。



一方、その頃WART司令部では月島が救助手段の確認をしていた。


“至急、負傷者は手術が必要な状況です”


「UH60JAを救助に向かわせた。あと10分ほどで到着する」


“了解”


死者は黒田1名、さらに佐々木の負傷ぶりからして生死は5分5分…ベータを始末したというのに気が休まらない。その裏で、熱心にデータを収集していた狩野が呟いた。


「いや~にしても妙な熊だ。」


「というと?」


「さっき銃撃を受けた時、まるで自分を的にしろというような態度だったろ。あれだけ弾を浴びれば即座に致命傷とならなくても、感染症などにかかって最終的に死ぬ。死んでもいいから人間の注意を引きたがっているような。野生動物でそんな事あるかね…?」


「…」


プルルル!司令部の電話が鳴ると、応対した隊員が告げる。


「団長!副大臣からです」


「こんな忙しい時に…かわって」


“おめでとう!特定個体の殺処分に成功したらしいじゃないか!”


こういう時だけは意気揚々と連絡が早い。


「はい。ですが、死者1名、重傷者多数…」


“まぁ、これで本州に来る可能性は限りなくゼロになったと考えれば、死者1名で済んだのなら上々じゃないか!”


その言葉に、湧き上がる感情を抑えきれなかった。


「私たちは駒じゃありません!!本州を守るための盾でもない!一人の人間なんです!命が奪われたんです!!」


“…あぁ、それは分かってるよ”


急に声を荒げられると急に大人しくなる。小物だ…


「補給と休養を取った後、残る亜種の駆除に取りかかります」


「…頼んだ。」


「まだ話は終わっていません!例の遺伝子配列が含まれている件、なぜ公表されなかったのでしょうか?」


「…まぁ、色々あるんだよ。とにかく後処理頼んだよ」そういうと逃げるように電話が切れた。


「…」


すると月島のSMSが鳴る。

「週間文秋の田辺です。ご連絡頂きました件について詳しくお話伺いたく思います。いつならご連絡可能でしょうか?」


彼女も水面下で動き始めていた。真実を白日の下に晒し、この理不尽な戦いを終わらせるために。そのための証拠の保全を水野に指示していたのだ。


それは、自らの地位と未来を賭けた、危険な賭けだった。


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