第三十三話 エゴイズム
ドドドドン!
雪上車『大雪』が熊の脇っ腹に突進した。
熊はその衝撃にバランスを崩して倒れ込む。そしてその大雪の上部窓から飛び出した影…神木陸だ。さらに田中もいる。
彼は大雪に指示して急バック、即座に負傷した佐々木を回収すると、車内に控えた衛生隊員が消毒と止血を行う。
「くぅ…」その激痛に佐々木は目を覚ました。
「佐々木!てめぇムチャしやがって!」
だがまだ無事ではない…熊の一度手にした獲物への執着心は凄まじく、周りの群れも操り、執拗に大雪を追いかけてくる。
「しつけぇな!」
田中が窓から銃身だけを出すと、銃撃で近づく熊たちを追い払う。
だが、激しく揺れる車内からではトドメは刺しきれず…その熊たちの妨害によりうまくスピードが出せず、ついにベータに追いつかれた。
すると、大雪に凄まじい腕力で強烈な一撃を加える。
ギシギシ…ガガガガ!
鉄の塊は凄まじい金属音を立てて車体のバランスが崩れる。
「このままだと走行不能になります!」
さらにベータは車体にのしかかってきた。
ギギギギギ…逃がさない、執念の攻撃だ。
「…めいわく…すま…ない。だけど…命など…いらない…殺さないと…」
佐々木はまだムリに身体を起こして闘いを続けようとする。
「…」
陸は静かにその顔を見た。
そして、駐屯地で佐々木を送り出した妻の顔を思い出した。
…お前の心を癒やすのは本当に復讐だけなのか?
「佐々木、その憎しみを俺に預けろ」
「…?」
「お前が今、熊殺しに精を出しているのは、お前自身のためだ。エゴだ。国民のためでもなければ、家族のためでもない。そんなヤツとは仲間として命を預けて闘えない」
「…くっ」
「俺がお前の抱えたその恨みを背負う。だから…奥さんを幸せにしろ。天国の子どもたちもそれを望んでいる」
すると、陸は雪上車の上部窓から身を乗り出した。
「一瞬でいい!あの熊に車体を寄せろ!田中は、その間に攻撃してこないよう威嚇射撃を」
「神木!どうするつもりだ」
「俺が始末する!!」




