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第三十一話 雪原を赤く染める

ゴゴゴゴゴ…


「来た!」吹雪で視界が悪い中、その音に耳を傾け方向を確認すると、的確に指示を出す。


「大雪、方向を転換!」


すると鮮やかに弧を描いてUターンし、雪崩を回避した。だが、さらなる雪崩の予感…


「全力前進!」


凄まじいディーゼル音を鳴らし、最後列の隊員まで間一髪で雪崩に飲まれず切り抜けた。


「やはり何者かが意図してた雪崩を起こしている。そしてそれはおそらく…」


巻き上げれた雪によるホワイトアウトが収まると、徐々にその黒い影がくっきりとした輪郭を見せ始める。その巨大には嫌と言うほど見覚えがある。


「久しぶりだな。特定個体ベータ!」


森での闘いで逃げおおせたベータは、仲間を増やしながら冬山での闘いを学習してきたようだ…


「人間並みの学習力。どんな熊だよ」


すると佐々木が叫ぶ!「A作戦だ!」


陸と田中は強くうなづいた。

そして黒田も銃を握る手を固くした。「やってやる!」


“作戦開始”


大雪は最高速度でベータを中心とした熊の群れに向かって突進を始める。

そして、加速するスキー部隊は全員がロープを持たないもう片方の手で構えた銃をその熊たちに浴びせかけた。


ダダダダダ!


他が熊たちは器用に左右に避けて弾丸をかわす。その間隙をついて大雪は山の斜面を駆け上がった。そしてクルリとターンすると、隊員たちはロープを手放し横並びになる。


「用意!」


陸の掛け声と共に、小銃を一斉に構える。


「開始!」


すると、大雪を戦闘に横一線に並んだスキー隊員たちが一斉に斜面を滑走!熊の群れに漏れなく弾丸を浴びせかけた。


さらに各隊員が巻きあげる白い雪の煙があちこちで巻き上がり、まるで巨大な壁のように熊に迫る。


想像力が人間の恐怖心を煽るように、知性が高い熊もまたその未知の状況に強く想像力を刺激されているようだ。怯えて統率を失い、思い思いに逃げ出す。


そうなれば草刈り場だ。高速で滑走しながらすれ違い様に、動きが鈍った亜種と思われる熊を一撃必中で処分していく。


「よし!」


すると再び大雪は隊員たちを連れて、大きな弧を描きながら坂上へ戻る。こうして何度も何度もヒットアンドランを繰り返し、確実に熊の数を減らしていった。


だがそれでも特定個体ベータだけは一切動きが鈍ることはない。そして三度目の攻撃の時だった…勢いに乗っていた黒田が少し前のめりに出た。


「ベータは俺が始末する!」


するとベータはこれまでの攻撃で隊員の動きを読み切っていた。すれ違いざまに黒田を鋭い爪で迎え撃つ!かなりの速度が乗ったその勢いは止まることなく、その身体を一瞬で八つ裂きにした。


「黒田!?黒田!!!!!!」佐々木の頬にその血しぶきが降り注いだ。


その瞬間、佐々木の中の何かがザワリと震えた。


脳にありありと浮かび上がる…かわいい子どもたちの笑顔…殺された骸…別れ際の妻の悲壮な顔…自分を慕う黒田…熊を殺した時の快楽…全てが全身に黒い闇となって湧き上がってくる。


「殺す…」


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