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第二十七話 復讐の炎

陸の視界の端、風雪の中にドドドド…と地響きが鳴り響いた。


「雪崩!?」


そう呟くやいなや、身体は凄まじい雪の波に押し流される。あがらう術などなく体勢は崩れ、雪が顔の周りを包み込む。呼吸が塞がれる…レンジャー訓練で習った緊急対策でなんとか顔の周りまで完全に埋もれてしまうことは回避したが、身体は完全に雪の密室に封じこめられた。田中や他の隊員は無事なのだろうか?


「田中!」


叫べども、雪の重みで胸が圧迫され上手く息が吸えず、その声は雪に吸い込まれた。とにかくココを出なければ、陸はなんとか腰元のナイフに手を伸ばして、早くもシャーベット状に凍りつき始めた氷壁を削り始めた。


「神木!田中!」


一方、その頃、外では二人の捜索が始まっていた。

佐々木が率いる本隊は、新入り隊員が多く陸たちに遅れをとっていたのが幸いし、雪崩に巻き込まれずに済んだ。


“どうしました?”


「神木と田中が雪崩に巻き込まれました」


“こんな厳冬期に雪崩が?”


たしかに…雪崩が多発するのは、雪が溶けて緩み始めた春先である。何かしら人為的に起こされた…?疑念が浮かびながら、目の前の事態は予断を許さない。


「とにかく救助を急ぎます」


だがその時、ザザザザザザッ! 雪を蹴立てる音が急速に近づいてくる。


「!…全員、警戒!」


佐々木の声と同時に、後方から悲鳴に近い報告が入る!


「敵影確認! 数が多い!こちらに接近中!」


即座に反応すると同時に吹雪の向こうから複数の巨大な影が姿を現した!ヒグマだった!本来なら冬眠しているはずのヒグマが、飢えた獣の殺意を漲らせ、猛然と突進してくる!


「撃てぇっ!!」


号令と共に、銃声が雪原に轟く。曳光弾が白い闇を引き裂き何発かは肉を抉るが、熊の分厚い毛皮と脂肪に阻まれて致命傷には至らない。熊たちは怯むことなく、雪煙を上げながら隊員たちに襲いかかった!


「クソッ! 速ぇ!」


「散開しろ!各個撃破だ!」


だが新雪に足を取られ自由に動き回れない!そんな状況で猛然と迫る“死の足音”…補充されたばかりの若い隊員たちが瞬く間にパニックに陥った。そして隊列が乱れた間隙をピンポイントで狙って熊は襲いかかる。


その一人が、まさに熊につかまりそうになっていた!


「まずい…」佐々木はとっさに若手隊員・黒田を突き飛ばす。すると熊は今度、身代わりとなった佐々木に腕を振り上げ、一瞬の間に凶暴な爪でその身体ごとを薙ぎ払った!


「うわぁっ!」


「佐々木さん!」


「…」


対獣防護服と新雪のクッションでダメージは多少和らいだ様子だが、それでも一発1000キロ。プロボクサーの倍以上、牛を一撃で転倒させ、鹿の背骨を折る破壊力だ。生身の人間が耐えられるはずもなく、身体は新雪に刺さったまま動かない…すると熊は勝ち誇ったようにその身体をおもちゃのようにいじくり始めた。


そして、凶暴な牙で咥えようとしたその瞬間…

佐々木は朦朧とした意識の中、気迫で手に持ったフルチャージのサンダーを鼻先に押しつけた。


バチバチバチ…グァアアアア!


強烈な電撃により、その黒い巨体を踊らせると雪煙を舞上げてその場に倒れた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


「佐々木さん!大丈夫ですか?すみません!僕のせいで…」


駆け寄る黒田をなだめると…なんと佐々木はあれだけの攻撃を食らいながらもゆっくりと立ち上がった。


「はぁ…はぁ…あぁああ」


とっさに身体を支える黒田…ふらふらと近づき苦痛に歪む熊の顔をまじまじと覗き込む。その許しを乞うような怯えるような目…そこに映る自分の姿を認識すると、佐々木の瞳は爛々と見開かれた。


「痛てぇか…そうか…?…だがあの子たちはもっと苦しんだんだ。恨むならお前のボスを恨め!」


その手に持つ刃を大きく振りかぶる。熊の目が恐怖に曇る…それを一時も見逃すまいと凝視したまま、眉間にナイフを突き刺した。


グゥワアアアアアアアアアアア!!!!!


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