第二十五話 帰還
ヘリは上空を何度からループしながらホバリングすると
ダダダダダダ!!!そこに大量の銃弾が浴びせかけた。
傷を負ったベータは驚き、そのまま仲間の熊たちをおいて森の茂みに逃げ込んだ。
だが絶対に逃がさない…上空からランチャーが飛んでいき爆発を起こす。だがそこにあの巨体の死体はなかった。うまく逃げ切ったのだろうか…
そのままヘリはしばらく威嚇射撃を続け、周囲に危険が無いことを確認後、ホイストにより陸、狩野、狩野の母、そして2人の遺体を吊り上げて収容した。
機内で田中はわざとらしくぼやく
「ったく、頑固なジジイたちのせいで、こっちが命張るハメになるなんてよ…」
神木は淡々と返す
「そういうお前もその頑固なジジイに助けてもらったろ」
「うっ…」
だがそんな軽口にも狩野はいつになくしおらしい。
「本当に申し訳ない…」狩野の母親は涙ながらに詫びながらも話す。
「ただ先祖代々が守ってきた土地と墓を熊に荒らされたりなんてしたら面目がたたんと…だったらここで死んだ方がましだと…それが、結果あの子らを巻き込んでしまって…」
すると陸はその老婆の手にポケットから取り出した小さな骨壺と位牌を乗せた。
「自分がもっと早く駆けつけていれば…大切なご家族、守り切れずすみませんでした…自分が出来たのはコレぐらいです」
それは狩野の父のものだった。避難する時にあの実家の仏壇から回収していたのだ。
うぅぅ…その言葉に老婆は涙した。
狩野は深々と頭を下げた。
「私たちの都合であんたらを巻き込んだ。申し訳ない」
「それは自己責任…というものの話ですか?」
「…?」
「私はその言葉、好きになれません」
「!?」
「赤の他人が土地への思いや家族との繋がりをはかる事など出来ません。避難区域や安全圏などと社会の都合で引かれた線で人の心が割り切れるわけありません。自己責任は誰かの悲劇を簡単に自分と切り離すことができる便利な言葉ですが、その分、相手の心に寄り添う想像力を遮断する危険な言葉でもあると思います」
田中はさっきまでの言葉を忘れたかのように呟いた。
「たしかに、俺たち自衛隊は誰かに責任押しつけても結果は変わらねぇもんな。目の前の命を守るだけだ!」
こうして一同は駐屯地に到着後、すぐに処置を受け命に別状はなかった。
この境界線外での戦闘は、彼の指示により演習区域内で発生した偶発的な事故として処理された。狩野の単独行動や集落の被害、そして陸の命令違反は月島による「通信の聞き間違い」として厳重注意だけで済んだ。
そして11月、北海道には早くも雪が舞い始めた。
「冬まではなんとか南下を食い止めねば…」
陸は、雨に煙る支笏湖の暗い水面を見つめながら、次なる過酷な戦いを予感していた。




