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第二十四話 それでも取り返す

ギアを入れると急バックをして、切り返して元いた家にハンドルを切った。


「お前!何するつもりだ!」


「あの夫婦の遺体を回収します」


「!!…そんな事したらまたあの化け物が…」


だが狩野は陸の目を見てそれ以上話すのを止めた。自分もどこかでそれを望んでるし、陸の母親が受けた陵辱への憤りを知っている。


外灯の前につくと、すぐさま2人の遺体を積み込み再び車に乗り込む。

だが、その時、目の前に立ちはだかる黒い影が見える…明らかに他のヒグマとは比較にならない大きさ。


「特定個体ベータ!?」


今までずっと影に潜んでその正体を見せなかった巨体が、外灯に照らされてぬっと現れになる。それはのしりのしりと近づいてくる…まるで俺の獲物を返せと言いたげに。

狩野は呟く。


「熊は自分が狩った獲物にとても執着する。やはり2人の遺体は置いていった方がいい」


その言葉は老婆にとって自分が死ぬより残酷だろう…だが彼女は何も言えなかった。自分がここに残るという選択をしたせいでこの2人は死んだのだ。自分のわがままでこれ以上の犠牲者が出たらと考えるのも無理はない。


のしりのしりとベータは距離を詰めてくる。

だが神木に遺体を置いていくという選択肢はない!


「つかまっていてください!」


そういうとバックにギアを入れて急発進し、すぐさま切り返して、ベータに真正面から猛突進していく!


「お前!何を考えている!?」


熊と高機動車が向かい合わせでグングン距離を詰める。


だがベータはひるむことなくたちはだかる。


そして、ぶつかるかと思った瞬間に陸はハンドルをきりベータの脇すれすれをすれ違った!だがその巨体に似合わず即座に反応すると車体の脇を猛烈な腕力で横殴りにする。


すると車はとてつもない衝撃音を立てながらバンクすると別の熊に衝突した。

再びハンドルを切り、バランスを崩した車体の姿勢を戻す。


「くそっ!これじゃ上手く突破できない」


すると、狩野は窓を開けて身を乗り出し、銃を構えた。


「危険です!」


「そもそもあんたを危険な目に合わせてんのは俺だ。かまわんからあのバカでかい熊に向かって突進してくれ!」


陸はとっさにその考えを読んだ。


「了解です!」


そして今度こそアクセルをベタ踏みし、ベータの方に突進していく!陸は、ただ狩野を信じてひたすらまっすぐ加速する。


ベータまで30m…20m…10m


ダン!


その瞬間、狩野は弾丸を撃ち込みベータの巨体を弾き飛ばすと、その脇っ腹を高機動車でかすめながら走り抜けた。


突破成功!


…だが先ほどぶつかった衝撃でガソリンが漏れ出し、車の速度は徐々に落ちていく。そして、しばらく走ったところでついにエンジンは止まり、怒れるベータや熊たちに追いつかれ取り囲まれた。


するとベータは勝ち誇ったように、おもちゃの車で遊ぶ子どものように陸らが乗った車体をグラグラと弄び始めた。


「もうここまでか…悪かったな。あんたまで巻き込んで…」


「私のせいだ…私のせいで…」


だが陸の顔にはなぜか不安の色はない。


「?…あんた、なんでそんなに落ち着いていられる?」


「シッ!静かに…」


「?」


真っ暗な闇に熊の唸り声だけが響く…だがその奥に小さな別の音を聞き取る。


すると陸はバッテリーにより、かろうじて灯っているヘッドランプをハイからローに、ローからハイにと何度も切り替え始めた。


カチカチ…カチカチ…


するとさっきから響く音はドンドンこちらに向かって大きくなる。

そして熊たちも動揺を見せ、その音が鳴る空の方を見上げた。


そこには月光に照らされた巨大な機体が…自衛隊のヘリ、UH60JAだ!

陸の送った無線を頼りに駐屯地からGPSとヘッドランプの合図を頼りに助けに来たのだ。


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