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第二十一話 特別個体ベータ

グアアァァアァ!


藪の中から熊が襲いかかってきた。「亜種!?」


田中は拳銃を抜くがこけた拍子で銃身に泥が詰まっており、発砲できない。


「まずい!」


佐々木がすかさずサンダーで熊の鼻先を電撃すると、その動きを一瞬だけ止める。そこに田中が、引き抜いたナイフをその脳天に突き立てた。


ギャアアアア!!!


…絶命しダランと力を失ったその巨体は一気に田中の上にのしかかると、身体ごと泥の中に沈められる。


「やばい!息ができない!」


慌てて駆け寄る隊員たち。だが次々とぬかるみに足を滑らしていく…


「くそっ!」


「早く助けて…」


なんとか数人が熊の巨体の周りに集まると、ぬるぬるする足場の中、その巨体を田中の上から取り除いた。


「やべぇ死ぬかと思った…」田中がゆっくり起き上がるが、周囲を警戒していた陸と狩野の様子がおかしい。


「どうした?」


「周りを見ろ」


「?」


…そこには今までどこに潜んでいたのか、多数の熊たちが取り囲んでいた。


「おいおい!これって、まさか全部罠?」


ほとんどの隊員の銃身には泥が詰まり発砲が出来る状態でない。ナイフを取り出すが、一気に襲いかかられればひとたまりもない…だが、熊たちはじっと何かを待っているかのようだ。


ザザザザザ…


木々の間を冷たい秋風が吹き抜けたと思うと、これまでにない生臭い獣臭が辺りを包んだ。


「来る!」


すると、その群れの奥にぬらりともう一頭が姿を現した。逆光ではっきり見えないものの明らかに他の亜種とは大きさも威圧感も段違いだ。


「特定個体ベータ!?」


佐々木はすぐさま銃を構える!だが泥で体勢は安定せず、照準が定まらない。


「くそっ!」


するとそんな佐々木を横目に、狩野が不安定な足場などものともせずにとっさに銃をかまえて、的確な一発を放った。


ダン!


弾は身体をかすめるが致命傷は与えられない…するとベータは怒りに大声をあげるとそれを合図に周囲を囲んでいた熊たちは一斉に狩野に襲いかかってきた。


隊員たちは身動きが取れない状態で狩野を守る形での応戦となる。ある者は噛みつこうとしてくる牙を伸縮型の特殊警棒にかませてなんとか耐え、そしてある者はサンダーを乱発して距離を保つ…

神木はナイフとサンダーに両手持ちで応戦しながら、奥に潜む巨体を見た…攻撃するにも目の前の熊が壁となり銃撃が届かない。


「やはりアイツを始末しないとキリがない!皆、狩野さんを頼む!」


「え?」


すると神木は片手のナイフを振りかざし応戦しながら、フルチャージにしたもう片手のサンダーを目の前の熊の喉元にふりこんだ。


グワァァァアアアア!


熊がうめき声をあげて絶命した。するとその胴体によじ登り足場にする。


「神木?」


すると、そこから襲いかかる熊を次々となぎ倒して、その身体を足場にして飛び石のように跳んで渡りながらベータに猛突進していく!


それはもはや軍神そのものだ…あと20m!!…あと10m!!


すると陸は大きく踏み込み高く跳んだ!!


「神木!さすがにその距離では届かない!!」


だが陸の狙いは違った…ジャンプの最高点に達したその瞬間に、そこにあった樹齢数百年の太い枝を掴んだ。ブラブラと宙を揺らぐその身体にベータの視線は釘付けになっている。


「まさか…」


陸は枝を掴んだのと違うもう一方の手でスッと腰元の拳銃を抜いた。そして、普段は両手で構えるべきその拳銃をベータの胸元に向ける。


ゆらゆら…身体に反動をつけて振り子のような揺れを大きくしていく。一方、陸の目線は照準にだけ向けて、熊の動きのパターンをトレースしていく。そして一番速度が乗ったその瞬間、陸はその掴んだ手を放った。


陸の身体は放物線を描きベータに向かって飛んでいく。

と、同時に引き金を引いた。

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