第十九話 生まれ変わる
「この森は、もう俺たちが知っている森じゃないかもしれん。何かがおかしい…。森の呼吸が、以前とは変わっちまったようだ」
狩野の声には、確信と、そして言いようのない不安が混じっていた。
「古いものが急速に死に、新しい何かが…生まれ変わろうとしているのかもしれん。俺たちの理解を超えるような『何か』が…」
「理解を超える何か…?」
その言葉は、陸の心に小さな、だが消えない棘のように刺さった。「生まれ変わる」とはどういう意味なのか? それは、今彼らが追っている熊の異常性と関係があるのだろうか? 陸は狩野の横顔を見つめたが、老猟師はそれ以上語ろうとはせず、再び前方の暗い森へと、鋭く憂いを帯びた視線を向けるだけだった。
その時、狩野の歩みが止まる。
「!?」
「どうされましたか?」
「匂う…」
陸も静かに深く息を吸い込むと、たしかに風に乗ってきたような濃密な獣の匂いが漂ってくる。身をかがめ、周囲を注意深く観察する。
カサ…
「神木です。熊を発見…ターゲットか確認します」
陸と狩野は別れて周囲を調べる。2人の位置はGPS端末で全員と共有されている。その無線を聞き、他の隊員たちも静かに移動を開始する。
陸は銃を構え藪の中、静かに歩を進める。
カサ…!
茂みの奥から響く何者かが落ち葉を踏んだかすかな音…そーと覗くと、そこには親子の熊がいた。冬眠前でまるまる肥えた小熊は母熊にじゃれつき仲睦まじくしている。
陸は無線で告げる。「ただの熊でした…戻ります」
踵を返し戻ろうとした瞬間…陸は「うぉぉぉっ!」と獣のような雄叫びを上げ、単独で突進していく影とすれ違った…佐々木だ。
「佐々木!待て!」
だが彼は陸の制止を振り切る。慌ててその後を追うが数秒遅れた。
ダダダダン!




