第十六話 断末魔
ここだ!…田中はただ静かに指を平行に引き金を引いた。
放たれた弾丸は、吸い込まれるようにアルファの喉元を貫いた!
「グギャアアアアアァァァッ!!!」
これまでにない絶叫を上げ、アルファは巨体をよろめかせ、膝をついた。その目に、一瞬、信じられないといった驚愕の色が浮かぶ。
「とどめだァァァッ!!突撃!!!」
田中は銃を捨て、残っていた隊員と共に突撃する。サンダー、粘着弾、そしてありったけの拳銃弾が、無防備になったアルファに叩き込まれた。
断末魔の咆哮はやがて途切れ、絶対的な恐怖の象徴はついに動かなくなった。
リーダーを失った熊たちは、もはや烏合の衆だった。次々と無力化され、体育館に、血と硝煙の匂いに混じって、ようやく静寂が戻ってきた。
だが勝利の代償はあまりにも大きかった。WARTは半壊状態となり、生き残った者も心身ともに深く傷ついていた。体育館外のブルーシートに並べられた熊の死体を流れると、田中はふと違和感を覚えた。「アイツはどこへ行った?」
数日後、アルファを駆除した苫小牧市街地はひとまず平穏を取り戻した。だが以前、道内の経済活動は麻痺状態で、政府からは近日中に新たな対策が発表されるとアナウンスされた。
そんな折、陸の病室に月島七海が見舞いに訪れた。身体を起こして七海を迎え入れようとする陸に寝たままで居るよう指示した。
「神木二曹、どうですか?体調は?」
「おかげさまで、もう少しで復帰出来そうです」
彼女は、タブレットを手渡した。
『熊は変異種か…明らかに不審な動き』という見出しが書かれている。
「遺伝子汚染の可能性」「理想の生態系を守るために現実を知る」「今私たちに出来る事は?」その記事は先日、救った自然保護を訴える市民団体のメンバー高木が書いたものだ。
「あなたが救った方々は、またそれぞれのカタチでこの国難と闘っています」陸は静かに微笑んだ。
「それで先日の闘いで逃したアルファ以外の熊たちの行方は?」
「おそらくここより西の方角、支笏湖や登別の方の森林地帯に潜んでると思われます」
見せられたMAPに映る移動の経路には、北海道の西、そして南へ向かう微かな痕跡。凍てつく津軽海峡と、本州へと続く暗いトンネルを指し示していた。
「やはり青函トンネルに向かっている…?」
月島はうなづく。
「おそらく。ただ熊に本当にそんな意思があるのか、誰かが裏で操ってるのか、詳しい事は分からないけど。国民の恐怖心を殊更に掻き立てたくないからこの事は内密に」




