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第十三話 恐怖のショー

“市民体育館を熊が襲撃。WARTの出動願います”


陸が不在の中で市民の恐怖と社会の混乱がピークに達する事件が起きた。避難所となっていた市民体育館が、六頭の熊によって襲撃されたのだ。


「くそっ!よりによって避難所を狙いやがった」田中の声は怒りに震えている。


熊たちは、頑丈なはずのバリケードを束で突進していとも簡単に破壊、警備の警察官は瞬く間に蹴散らされ、熊たちが雪崩れ込んでくる。体育館内は地獄絵図と化した。


「こちら体育館に到着!状況最悪!熊が避難民を…!」


現場の警察官たちの報告は、悲鳴に近いものだった。



しかも熊たちの動きは、これまでの個体とは一段階、次元が違った。その動きは統率が取れ、連携し意図的にパニックを煽るように、避難民を追い詰めていく。悲鳴を上げる子供にゆっくりと近づき、威嚇する。備品を破壊して大きな音を立て、恐怖を増幅させる。それは、狩りではなく、明らかに精神的な支配と破壊を目的とした行動だった。




「今まさに熊が避難所に雪崩れ込んで来ました!」たまたまその場に居合わせた地方局のカメラは、繰り広げられるその凄惨なショーを映像に収めていく。




高機動車から次々と降りて決められた配置につくWART隊員たち。現場指揮を取るのは田中だ。


「ブラボー1、現地に到着…状況は…」


血祭り…凄惨なその現場を目の当たりにして言葉を失う。ただ意思のない人形のようにカメラマンは呆然とカメラを回し続けているが、彼は襲われることはない。ただ俺たちを撮れと言わんばかりだ…


「生存者多数…ですが多くが体育館内の奥にいるためこのままでは保護は困難です」


陸がいない今、自分たちが盾となり市民を守らなければならない。だが、市民が多数いるこの状況では銃器は一切使用できない。OSO18は猟師が規制により夜間に銃を使えない事を把握して家畜を狙っていたとされる。もしかするとこの熊たちも生存者が近くにいれば銃が使えないことを分かってて、あえて殺さずにいたのかもしれない。


“出来るだけ刺激せず盾となって、避難させられる人間から少しでも多く保護を”


隊員たちは静かに、それでも速やかに生存者と熊の間を遮る防波堤のように整然と一列に並び、銃を構えた。その裏で警察の機動隊員が生存者を保護していく。




だが熊は自分たちに銃口を向けられない事を知っているかのように田中へ向かって突進してくる。


「くそっ!」


ナイフとサンダーを抜いて襲いかかる一頭を迎える。だが、そのスピードは凄まじく速く、急所を簡単にはとらえさせない。


「キャッ!」後方から怖がり泣き叫ぶ子どもの声がする。


すると追い詰められた一部の人間からヤジが飛ぶ…


「何やってんだ!自衛隊だろ!!命守れ!!」


「そのために税金払ってんでしょ」


くそ…田中は集中力を保って再び臨戦態勢をとる。だが、まだ後ろでは避難が済んでいない以上、自由に動き回れない。


「ダメだ…すばしっこすぎる…」


そして、混乱と絶望の極みの中、別の方からも悲鳴が上がる。ステージ上に「王」が姿を現した。明らかに他の者より大きな身体…


「特定個体アルファ…?」

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