5 公式戦前編
体育館に足を踏み入れると、独特の熱気が俺を包んだ。ギャラリー席からは、すでにいくつかの声援が聞こえる。どのチームも真剣だ。
ユニフォームに着替えて、軽くストレッチをする。隣ではりょうがいつも通り軽口を叩いてる。
「タケル、今日は気合い入ってんなー。やっぱ、お目当ての人が来るからか?」
「うるせえよ、りょう、いつも通りだよ!」
そう言いながらも、心臓は少しだけ速く打ってる。楓が来てくれる。その事実が、俺の体にいつも以上の活力を与えてくれるような気がした。
ネットを挟んで向かい合う相手チームは、思った以上に体格がいい。でも、俺たちもこの日のために練習してきたんだ。
「よし、円陣組むぞ!」
キャプテンのしゅんの声に、俺たちは中央に集まる。
「今日は大事な公式試合だ。今の自分たちのベストを尽くすぞ! 絶対勝つぞ!」
「「「「おおおお!」」」」
みんなの声が体育館に響き渡る。俺も大きく息を吸い込んだ。
審判の笛が鳴り、試合が始まった。最初は少し緊張したけど、ボールに触れるたびに体が軽くなる。レシーブ、トス、スパイク。一つ一つのプレーに集中する。
第1セットは接戦の末、俺たちが取った。ベンチに戻ると、みんなでハイタッチ。
「ナイスレシーブ、タケル! ナイススパイク、しゅん!」
りょうが俺の背中を叩く。汗が止まらないけど、気分は最高だ。
第2セットが始まる直前、ふとギャラリー席に目をやった。すると、いた!
楓だ!
友達と一緒に、俺たちの試合を見てくれている。目が合った気がして、俺は思わず小さく手を挙げた。楓も、小さく頷いてくれたように見えた。
よし。ここからが本番だ。楓が見てるんだ。絶対に、最高のプレーを見せてやる!