20 告白
「えっと、あの、話聞いて引かない?」
楓は、顔を真っ赤にしたまま、震えるような声でそう言った。
不安そうに俺の顔を伺うように、チラリと視線を上げた。
俺は、そんな楓の顔を見て、決めた。どんな話だって、引くわけない。
「引くわけないだろ! どんな話でも、聞くから。大丈夫だから、話してくれ。」
俺は、できるだけ優しく、そして力強く言った。楓の不安を少しでも取り除いてあげたかった。
俺は楓のことが好きなんだ。どんな話を聞いたって、その気持ちが変わるわけがない。
楓は、まだ少し迷っているようだったけど、観念したように小さく息を吸い込んだ。
「あのね、タケルと動物園行ってめちゃくちゃ楽しかったの」
楓は思い出を語るように話し始めた。
「だけどね、タケルが女の子の告白?の現場見ちゃって、その、他にライバルがいたんだって思って、タケルが他の人と付き合っちゃうんじゃないかって思って、その、嫉妬しちゃって」
楓は、顔を真っ赤にしたまま、震える声でそう言った。
俺は、楓の言葉に、呆然とした。
まさか、楓が、俺が告白されてるのを見て、そんな風に思ってくれていたなんて。嫉妬してくれた、ってことか?
「楓」
俺は、楓の真っ直ぐな瞳を見つめ返した。胸の奥から、温かいものが込み上げてくる。
「俺は昨日告白されたけど、断った。好きな人がいるからって。それは、楓のことだから。」
俺はもう一度、はっきりと伝えた。楓の目が、少しだけ大きく見開かれる。
「だから、他の誰かと付き合うなんて、絶対ない。俺が好きなのは、楓だけだ。」
俺は、楓の肩にそっと手を置いた。楓の顔は、まだ真っ赤だけど、その瞳には、さっきまでの不安が消え、安堵の色が浮かんでいるように見えた。
「そっか」
楓は、小さくそう呟いた。
そして、ゆっくりと俺に視線を戻し、小さく微笑んだ。その笑顔は、今までで一番、嬉しそうで、可愛かった。
楓のこの反応に、俺はもう迷いはなかった。
「なぁ、楓」
俺は、楓の手をそっと握った。楓の指先は、少し冷たかったけれど、俺の手のひらでじんわりと温かくなっていく。
「俺さ、楓のことが、本当に好きだ。いつも優しかったり、時には一緒楽しんだり、ノリが良かったり、色んな表情の楓が好きなんだ。これからもそばで見たいなって、こんな俺だけど付き合ってください」
俺は、楓の目を真っ直ぐ見つめて、そう伝えた。心臓の音が、体育館の反響音のように大きく鳴り響いている。楓の返事を待つ時間が、永遠のように感じられた。
「私でよければよろしくお願いします」
楓のその言葉が、俺の耳に響いた瞬間、世界が一気に輝き出したような気がした。握った楓の手が、じんわりと熱くなる。
「楓!」
俺は、喜びと安堵で、もう何も言葉が出なかった。ただ、楓の手を、ぎゅっと握り返すことしかできない。
楓も、顔を真っ赤にしながらも、嬉しそうに微笑んでくれた。その笑顔が、俺にとっての最高の答えだった。
周りには誰もいない昇降口。まるで、俺たち二人のためだけに時間が止まったみたいだ。
楓の「私でよければ」という控えめな言葉が、逆に楓らしさ全開で、いとおしくてたまらない。
「ありがとう、楓! 本当に、ありがとう!」
俺は、もう一度、感謝の言葉を繰り返した。バレーの試合で最高のスパイクを決めた時よりも、何倍も嬉しい。
この嬉しさを、どう表現したらいいのか分からないくらいだ。
楓は、恥ずかしそうに俯きながらも、握られた手を離そうとしない。その温かさが、今の俺にとって、何よりの現実だった。
俺と楓。今日から、俺たちは恋人同士だ。
これからも、色々なことがあるだろう。斎藤のことだって、まだどうなるか分からない。でも、もう迷わない。楓と二人でなら、どんなことでも乗り越えられる気がする。
「これから、たくさん思い出作ろうな、楓。」
「そうだね。いっぱい作ってこ!」
俺たち2人は手を繋ぎながら学校を後にした。
タケル編 完




