第九話 第二フェーズの反応
「所でさ、僕は何をすれば良いの?」
「何もする必要はない」
「また姉さんが一人でやるの?」
「違うな。第二フェーズはジェニファーの担当だ」
「小野寺さんが?」
「はい。私を含め、諜報部隊二千人が総力を挙げて勤めさせて頂きます」
「二千人? そんなに諜報部隊の人っているの?」
「冗談に決まっておろう」
「また騙したの?」
「申し訳ございません。海様」
「よく考えてみろ。そんな人数、我がグループの従業員総数とそう変わらん」
「そうすると、小野寺さんが一人で何とかするの?」
「いえ。諜報部隊に関して、人数までは明かせませんが、それなりの数はいます」
結局、意味がわからなかったけど、小野寺さんが率いる諜報部隊って人達が、第二フェーズの核になるみたい。でもさ、第二フェーズって何をするんだろうね? これ以上の事って何だろうね? その辺りは話してくれないのかな? 気になるな。
「仕上げは五郎さんと次郎さんですよ。海様」
「同じネタをこすらないでよ!」
「いえ。五郎さんと次郎さんにお任せするんです」
「諜報部隊にそんな人が居るの?」
「いえ、居りませんよ」
「もう! 全く! なんなの!」
やっぱりからかわれて終わりなんだ。そうやって、僕の事は蚊帳の外にするんだ。
結局、その日はそれでお開きになって、ふてくされた僕は少し勉強をしてから寝る事にした。何だかんだで、いつもと同じ夜の過ごし方だから、朝が来てもいつもの朝だと思ってた。
でもね、小野寺さんはやる事が早かったんだ。
目が覚めてから少し寝ぼけながらスマホを開くと、例の議員の話題が沢山流れて来た。まだ騒いでるの? まぁ、あの事件から二日しか経ってないし仕方ないか。なんて思ってたら、内容が大きく異なっていた。
例の議員が政治資金規正法に抵触していた。その証拠がSNSで拡散されている。
これが騒ぎの原因だった。多分というか間違いなく、この情報を拡散させたのは小野寺さんなんだと思う。ただ、タイミングが絶妙だったんだと思う。
事件のせいで議員がクローズアップされている。そんな状況での告発なんだ。テレビを点けたら、記者の人が自宅に沢山突撃してた。流石の議員も無視する事は出来ずに、インタビューに答えていた。
議員は「嘘だ」とか「全く身に覚えがない」なんて言ってるけど、記者たちの追及は止まらない。「明確な証拠が有りますが?」とか「これでも身に覚えがないと仰るんですか?」とか、議員を問い詰めてた。
どのチャンネルを点けても、同じ話題をやってる。昨日は事件について元刑事って人がコメントしたり、犯人は誰かが焦点になって、議員は唯の被害者だったのに。今日になったら一変して議員は悪者になってる。
ただただ、凄いと言うしかない。
「予定通りだな」
「姉さん、起きてたの?」
「当たり前だ。結果を確認しないとならんしな」
「これは小野寺さんの仕業なんだよね?」
「違うな。ジェニファーの功績だ」
「あのさ! このくだりって必要?」
「当たり前だ! ジェニファーは諜報部隊の一員なのだぞ! 本名を名乗ってどうする!」
「そっか。そうだよね。しかも元スパイって言ってたよね」
「そうだ。未だに狙われてる可能性も有る。だから、本名を言うのは危険なのだ」
「わかったよ、姉さん。僕もこれからジェニファーさんって呼ぶね」
「そうしてやれ。まぁ、小野寺麻沙子も偽名なのだがな」
最後の方は小声で良く聞き取れなかったけど、僕も気を遣わなきゃいけないのは理解した。それを小野寺さんに言ったら、「海様は、いつも通りに小野寺とお呼び下さい」って言われた。良いのかな?
その後、小野寺さんから作戦の第二フェーズについて、もう少しだけ教えてもらった。
元々はリストに有った国会議員達を、宇宙人から救うのが目的なんだ。恥ずかしい思いをさせても憑依が解けなかった場合は、議員達がやらかした犯罪を糾弾して追い詰めるらしい。その為に、諜報部隊の人達は当の議員がやらかした不正の証拠をSNSに流した。
これによって国会で当の議員は糾弾される事になる。当然、警察も動く事になる。これによって、姉さんの犯行が世間の目から逸れる事になる。良い事尽くめらしい。
本当かなぁって思いながら小野寺さんの話を聞いてたけど、実際にそうなったから凄いよね。
ネットでは議員を糾弾する声が溢れかえってる。それから数日も経たずに国会では、議員が野党議員達に物凄く叩かれてた。警察が介入する事にもなったらしい。
これで、当の議員が逮捕される事になるのかな? そうすれば、宇宙人は憑依するのを止めるのかな? 逮捕されて刑務所に入れられるなんて事になったら、憑依してる意味が無くなるだろうしね。その辺りが姉さんの狙いなのかな? そんな事を姉さんに尋ねたら、「不起訴になるだろうな」と言ってた。それで良いの?
「この問題は、我々の手から離れた」
「宇宙人は?」
「その辺りは問題ない。儀蔵については、諜報部が引き続き調査を続行する」
「そうなんだ。それでさ、その議員は大丈夫なの?」
「政治生命は終わりだろうな。生放送中に裸になった上に汚職が発覚したのだ。地元の信頼も失っているだろう」
「そうなったら、憑依されなくなる?」
「当然だ。利用価値が無くなるからな」
「そっか。良かったね」
「あぁ。だが、これで終わりではない。まだ、憑依されている議員が居るのだからな」
「そうだね」
「それに、ここからは面倒な連中が出張って来る」
「前に言ってた特別捜査官?」
「そうだ。その中で最も面倒なのが宮司彩警部だ」
「女性なの?」
「あぁ。奴は何かにつけて私にちょっかいをかけてくる」
「面倒な人なんだ……」
「そうだ。だからこその、アリバイ作りだ」
「そっか」
暫く、世間はこの騒ぎで持ち切りだろうね。相変わらずネットでは、陰謀論が流れてるし。いきなり不正の証拠が流れたんだから、そうなるのもおかしくないよね。
それに、議員を叩く声は止まないみたいだ。絶対に起訴へ追い込めって言ってる人も多い。どうなるかは分からないけど、儀蔵って人が議員を辞める事になって、憑依も解けて、真っ当な人になれば良いなって思うよ。
結局、今回も僕は何もしてない。これからも僕は蚊帳の外なのかな? 僕にだって役に立てる事は有ると思うんだけどな、なんて事を思ってる。
ただ、気になるのは姉の言葉だね。特別捜査官ってのがどうやって姉に接触して来るのか、それが問題だよね。何とか穏便に済まないかなぁって思うけど。姉の予想って、確実に当たるからね。やだな、捕まったりはしないよね。
☆☆☆
「だから、言ってるんです! 犯人は道明寺翠嵐! あのマッドサイエンティストです!」
「それならどうする? 任意同行でもするか?」
「はい! 奴を任意同行します!」
「宮司警部。それで何も出て来なければどうする?」
「件の議員が飲んだ飲料は科学警察研究所に回してます。時期に証拠が上がるでしょう」
「わかった。任意同行については許可しよう。必ず尻尾を掴め!」
「はい! 令状の準備も整えておきます!」