第八話 作戦の第二フェーズ
十九時くらいには姉が帰って来た。直ぐに問い詰めようとしたけど、先にシャワーを浴びるって言われたし、その後は夕食になった。だから問い詰めるのは、夕食が終わった後になった。
姉を部屋に呼ぶと、小野寺さんも着いて来た。そうだよね、小野寺さんもがっつり絡んでるんだもんね。話を聞きたいよね。それは良いとして、何で姉は胸を張ってるんだろ? やり遂げたぜって顔をしてるんだろう? 不思議だよね、犯罪を犯してるのにね。
「何か聞きたげだな? 海よ」
「聞きたい事だらけだよ!」
「姉のスリーサイズか? それなら」
「違うよ! 凹凸が無いスリーサイズなんて興味無いよ!」
「では、変身してやろうか? ダルンダルンだぞ」
「せめてボインボインにしてよ! それより、何をしたのか詳しく聞かせてよ!」
「まぁ、それは話すつもりだったしな。私の活躍をよく聞くんだぞ」
それから姉は、テレビ局で何をしたか話して聞かせてくれた。何してんだよって思ったよ。すっごくね。
「あのさ、犯罪だよ! 犯罪!」
「犯罪か……。ふっ、甘んじて誹りは受けよう」
「いやいや。唯の犯罪じゃないからね。世紀の大犯罪だからね」
「その言葉は、重複表現な気がするが?」
「そんな事は良いんだよ! それより、これからどうするの?」
「勿論、作戦の第二弾を行うのだ」
「止めなよ! これ以上、犯罪を犯さないでよ!」
「お前は私に自首せよと言うのか?」
「だって……、仕方ないよ……。嫌だけどさ……」
僕だって嫌だよ。姉が捕まるなんて考えたくもないよ。でもね、これ以上は姉の好き勝手にさせちゃ駄目だと思うんだ。姉が刑務所に入っている間は、僕が宇宙人と戦うから。姉の分まで頑張るから。僕だって、やる時はやるんだから。
「私は自首などせんぞ。それに警察ごときに捕まったりもせん」
「なんで、そんなに偉そうなの?」
「それは、私が崇高な使命を負っているからだ」
「崇高な使命って?」
「海にも話しただろ? 宇宙人から地球を守るのだ!」
「それは、僕に任せてよ!」
「駄目だ。お前に危険な事はさせられん!」
「嫌だよ! 僕だって姉さんの役に立ちたいんだよ! 姉さんばっかりに罪を負わせる訳にはいかないんだよ!」
姉は腕を組んで目を閉じた。何か考え事をしてるんだろうか? 違うな、天才の姉が今更考え事なんてしないだろうし。僕が詰め寄る事だって、この先の展開だって想定しているんだろうし。
それより、そろそろベッドから降りてくれないかな。僕の部屋なんだけど。こういう時って、普通は僕が座るよね?
目を開けた姉は、僕じゃなくて小野寺さんに視線を送る。小野寺さんと言えば、こんな状況にも関わらず表情を変えていない。流石と言うか何と言うか。姉は少し口角を吊り上げると、野寺さんに向かって問いかける。
僕は無視なの?
「所でジェニファー。件の議員だが、その後どうしてる?」
「諜報部の報告によると、自宅に引き籠もっているようです」
「それは、テレビの報道でも予測出来る。どんな様子だ?」
「色々と当たり散らしている様子です。出入りのハウスキーパーにも強い態度だったとか」
「まだまだ追い詰めなければならんらしいな」
「その様ですね」
二人の話についていけない。一体、何の話をしてるの? 引き籠もってるとかって、何処からの情報なの? どうやって手に入れたの?
「海様。不思議そうな顔をしてらっしゃいますね?」
「えっ? 小野寺さん?」
「海様はわかりやすいですから」
「からかってるの?」
「滅相もありません」
「怪しいなぁ」
「先程のご質問ですが。私はハッカーの国際ライセンスを取得しております。些細な情報でも取り放題です」
ハッカーの、こ、く、さ、い、ら、い、せ、ん、す?
何を言ってるんだろう、小野寺さんは。ハッカーにライセンスなんて存在するの? それも国際ライセンスなんて!
「驚いてらっしゃいますね」
「当たり前だよ!」
「勿論、冗談でございます」
「じょ、う、だ、ん、だっ、て?」
「因みに、ホワイトハッカーならライセンスはございます」
「ホワイトハッカーって良い人っぽいの?」
「大体当たっております」
「小野寺さんは、良いハッカーさんだったの?」
「勿論でございます。海様」
嘘だ。流石に分かるよ。小さい頃から、僕は小野寺さんにこうやって遊ばれて来たんだ。もう、ひっかからないんだ。絶対だ。
「海様は純粋でらっしゃいますから。つい、からかってしまいます」
ほらね。小野寺さんはこういう人なんだよ。笑顔で騙してくるんだよ。ふと思ったんだけど、姉が僕をからかうのは小野寺さんの影響なのでは? 気のせいかな? いや、気のせいじゃないと思う。
「冗談はさておき。ジェニファーは国際的なスパイだったのだ」
「姉さん。国際的って付ければ良いってもんじゃないよ!」
「スパイだったのは、本当ですよ。海様」
小野寺さんの話では西側のスパイとして、幼少期から活動していたらしい。きっかけまでは教えてくれなかったけど、命を狙われることになったらしい。その時に助けたのが、養父母だったらしい。
それから、スパイを辞めて養父母に仕える事になったらしい。僕らが養子になってからは、僕ら専属のメイドさんになってくれてたのは知ってる。
結構長い付き合いだと思ってたけど、知らない事も有るんだね。それとも知らないのは僕だけで、姉は知ってたとか? この感じはそうに違いない。だって、僕らの専属メイドさんってより、姉の専属メイドさんって感じがするもん。
「海をいじるのはここまでにしよう、ジェニファー」
「はい、お嬢様」
「それで、次の段取りは?」
「出来ております。直ぐにでも第二フェーズに移行できます」
「鉄は熱いうちに打てと言うしな。明日にはネットに情報を拡散させよ」
「畏まりました、お嬢様」
やっぱり、話についていけない。姉は小野寺さんに何をさせようと言うのだろう? これから何が待ち受けているのだろう? これ以上の騒動になるのかな? やだな。なんか、もうウンザリなんだけど。
「わかっておらん顔をしているな、海よ」
「そりゃそうだよ!」
「奴は、全く反省の態度が無い。即ち、宇宙人がまだ憑依している証だ」
「そうなの?」
「あぁ。だから、もっと追い詰めなければならない」
「もう止めとこうよ」
「わかっておらんな。海よ、我々が何で犯罪に手を染めてまで、こんな事態を起こしたのか?」
そんな事は聞かれなくてもわかってる。それが崇高な目的だって事もね。でもね、現実は違うんだよ。色んな人が大騒ぎして。大騒ぎしている人の多くは楽しんでるだけで。こんな事が起きたからって、深刻そうに事態を見つめている人なんて、きっと一握りも居ないんだ。
「宇宙人から、地球を守る為。でしょ?」
「そうだ。ジェニファーの言葉通りなら、奴には宇宙人がまだ取り付いている」
「でもさ。仮にその議員さんが正気に戻っても、黒歴史をずっと背負わなければいけないんだよ」
「馬鹿な事を。海、良いか? 人はどれだけどん底に落とされようとも、立ち上がれる精神を持っている」
「僕には自信が無いけど……」
「いいや。私たちは今日食べる物も無い生活を続けていたのだ。そこから、ここまで這い上がったのだ」
「それは、姉さんの実力と養父母様のおかげでしょ?」
「確かにお前は守られる立場だったからな。でも、件の議員がお前と同じ様に守られる立場だと思うか? 仮にも議員になった男だぞ!」
「思わないよ」
「例え信用を失って議員を続けられなくなったとしても、違う道が有る」
「そうかも知れないね」
「人は何歳になっても、新しい事を始められる。その気力さえ有ればな」
「良い事を言うね」
「だからな、どん底まで叩き落して、奴を救うぞ!」
「わかったよ姉さん!」