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第七話 世間の反応

 僕は、姉の作戦を軽く見ていた。我ながら自分の浅はかさに嫌気がさす。


 バイト中にもお客さんが騒いでた。「国会議員がマッパになったんだって。生放送中にだよ」って言ってた。それも一人じゃなくて沢山の人が。

 バイト仲間もそれを聞いてソワソワしてた。何かとんでもない事が起きてるって聞けば、当然そうなるよね。そんで店長に「仕事しろ」って叱られてた。僕も叱られたよ。


 気になり過ぎて、バイトに集中出来ずに帰り道でスマホをチェックした。ネット上では大騒ぎになってた。どのサイトでも急上昇ランキングのトップに上がってたし、『議員、裸』で検索すると、物凄い数の記事やら書き込みやらが溢れかえってた。


 帰ってテレビを点けると、ニュースでそれを取り上げてる。警察がどうのとも言ってる。そうだよね。これはれっきとした犯罪だよね。考えるまでもなくそうなんだよ。


 今更だけど、何で僕は姉を止めようとしなかったんだろう。例え議員さんに宇宙人が憑依してたとしても、方法は幾らでも有ったと思う。こんな犯罪を犯してまでやる必要はなかったんだと思う。


 それに、議員さんのことだって心配だ。憑依が解けた後はどうするの? テレビの生放送でマッパになったって、黒歴史として一生残るんだよ。それは可哀想だと思う。しかも、この騒動で誰もが議員さんの顔を知る事になったんだよ。ずっと言われるよ、マッパの人だってね。


 でもさ、今更だよね。やっちゃった後だもんね。今後どうするかを考えなきゃね。姉を自首させる? それが一番なんだろうけど……、それだと宇宙人の件はどうするの? 養父母に任せる? 組織の人に任せる? どれも違う。


 養父母の話では姉の薬が有ったから、作戦が成り立ったんだと思う。それに、全てを姉の責任にするのは、やっぱり釈然としない。


 責任が有るって言うなら、この作戦を知ってる家族全員の問題なんだ。だって、養父母は組織のトップなんでしょ? 作戦は聞いてるはずだよ。入りたての新人の僕だって作戦内容を聞いてるんだ。


 結局その夜は眠れなかった。リビングでずっとテレビを流してた。朝になってウトウトしてると、養母に声を掛けられた。養父母が帰って来たのも気が付かなかったんだね。それから、養父母と一緒に朝食を食べながら、昨日の件を話した。犯罪だって話をね。


「海。良く理解しているね。でも、大丈夫だ。これは組織全体の問題だし、翠嵐一人に責任を押し付ける気はさらさら無いよ」

「そうよ、海君。翠嵐ちゃんの事は私たちに任せて、あなたは元気に学校へ行ってらっしゃい」


 姉さんは帰らずにそのまま出社するらしい。小野寺さんは会社で姉と入れ替わった後に、家へ戻るらしい。こんなアリバイ作りも、当然ながら養父母は知っていた。そりゃそうだよね。


 取り合えず、養父母が任せろって言ってくれたんだ。難しい事は大人に託して、僕は僕のやるべき事をやらなきゃね。姉さんの事は心配だけどさ――。


 僕は平凡で、頭の中身も普通だから、こんな時にいい案が出ない。役に立たない自分を心底呪いたくなるよ。でも、姉ならこう言うんだろうね。「前を向け、海よ!」ってさ。だから、僕は僕のやるべき事をやらなきゃ。いつまでも、姉頼りじゃいられないからね。


 学校に行くと、クラスメイトが騒いでた。話題の中心は昨日の出来事だった。そりゃそうだよね。朝のニュースを薄っすらと見た気がするけど、テレビや新聞の記者たちが議員さんの事務所や自宅に突撃してたから。


 ほっといてあげれば良いのにって思うよ……、本当にね。


 それで、噂が噂を呼ぶように憶測が次々に生まれてた。陰謀説まで流れてたみたい。色んな意味で溜息が出るよ。この件で組織の実態が明らかになったら、養父母まで逮捕されちゃう。勿論、「そんな事にはならない」って養父は言ってたけど、どうなるか分からないでしょ?


 昼休みに友達と一緒に動画サイトを見たけど、やっぱりその話題で持ち切りだった。色んな人が色んな事を言ってた。その中でも陰謀説は多かった。

 誰もが普通に思う事なんだろうけど、議員さんが生放送中に自ら服を脱ぐなんて事は無いんだ。それに、薄っすらと服が透けてたなんて、とても現実的じゃない。だから、陰謀説に結びつけるのは、自然な流れなのかも知れない。


 やっぱりネットは大騒ぎだ。モザイクこそかかってるけど、SNSでは議員さんの画像がやたらとタイムラインに流れて来る。それに対して、あれこれと適当な事を言ってるのを見かける。MAD動画なんかもチラホラ見かけた。

 ネットの人達は、きっと楽しんでるんだろうね。これまでに無い大きな話題が生まれたんだから、暫くの間は大騒ぎをするんだろうね。それはそれでバカバカしいと思うよ。

 

 ただ、これも姉が想定していた状況だったら、どれだけ先を見通してるんだろうね? 姉が帰ってきたら問いたださなきゃ。嫌な予感がするからね。僕の本能が「これで終わりじゃない」って告げてるから。


 僕にとってはウンザリだけど、世間の人達にとっては一番の興味なんだろう。だから、一日どころじゃ話は尽きない。それに、警察も動き出したそうだ。これは「陰謀ではなく犯罪だ」って、警察の偉い人が言ってたみたい。


 こうなって来ると、いよいよ姉が心配になる。

 

 今日はバイトが無いし、急いで帰る事にする。電車の中とかでも、議員さんの話題がチラホラ聞こえた。警察がどうのって話もしてた。電車を飛び降りた僕は、走って家に帰った。


 家に帰ると、小野寺さんが戻ってた。何事も無かったかの様に、夕食の準備とかしてた。

 

「あのさ、小野寺さん!」

「おかえりなさいませ。海様」

「小野寺さんこそ、おかえりなさい。って、そうじゃなくて!」

「作戦の件ですね。仰りたい事は理解しております」

「あのさ、大丈夫なのかな?」

「大丈夫とは?」

「姉さんだよ! 捕まったりしないかな?」

「問題ありません」

「それでさ、この作戦なんだけどさ」

「……、海様。申し訳ありませんが、私はお嬢様の代わりに大阪へ行っておりました」

「あ~、確かにね」

「詳しい事はお嬢様にお聞きになられるとよろしいかと存じます」

「姉さんって今日は遅いの?」

「いえ。今日は早めに帰ると仰っておられました」

「もう一つ良い?」

「はい。私に答えられる事なら」

「姉さんは、次に何をしでかすつもりなのかな?」

「申し訳ございません、海様。それはお答えしかねます」

「姉さんに聞けと?」

「はい。その様になさって下さい」


 別に、小野寺さんが秘密主義ってわけじゃないと思う。だって、小野寺さんは姉の右腕みたいな感じで行動してる時が有るし。姉の許可が無ければ、話せない事もあるんだと思う。

 早く帰って来るらしいし、その時は姉を掴まえて話を聞くんだ。そうすれば、僕が出来る事も有ると思う。


 これ以上、姉に犯罪を犯させる訳にはいかない!


 でもね、どれだけ決意した所で、結局は姉の掌の上なんだと思う。最初の決意が揺らいで、姉に丸め込まれた様にね。だから、今度こそ揺るがない強い気持ちで、姉に抗うんだ。姉を守る為に!

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