第五十四話 幸福の王子大作戦
「薬を振りかけたら、おとなしくなっちゃったけどさ。この人、大丈夫なの?」
「無論だ。私の薬をなんだと思ってる?」
「どのみち、正常な判断が出来なくなるでしょ?」
「まぁそうだが」
「薬の効果って切れるんだよね?」
「当たり前だ」
まぁ、良いんだけどね。何だかんだでバタバタしたから、薬の意味が分からなくなってたけどさ。NPO法人を潰して終わりじゃないんだよね。理事から宇宙人を解放してこそ、ハッピーエンドなんだもんね。それには、姉の薬が必要なんだろうし。
でも、僕には宇宙人の憑依が解けたかどうかが分からない所が問題だよね。裸の王様大作戦の時みたいに、人格が変わった様になったなら別だけどさ。でも、警察に捕まっちゃったなら、確認のしようが無いしね。その辺りは、どう考えてるのかな? 警察が捕まえて終わりって言うなら、それこそ薬を使う必要は無かったよね。
「意味は有ったぞ」
「あのさ、何度も言うけど心を読まないでくれる?」
「こっちこそ何度も言うけど、お前は分かり易いんだ」
僕って、そんなに分かり易いのかな? 表情に全部出ちゃうって事なのかな? やっぱりポーカーフェイスを学ばなきゃいけないのかな? でも、それってどこでどうやって学ぶのかな?
「余計な事は学ばんでも良い。お前はいつまでも、素直なままで良い」
「そうかな?」
つい、姉との会話に気を取られて、理事の手を離してしまった。暫くおとなしかったから、ちょっと位は平気だろうなって思っちゃった。まだ、警察は来てない。そして、理事は突然大声で喚き出した。
「あぁ! 私は何てことを! 何てことをしてしまったんだぁ! 今直ぐに集めた資金を地上の人たちの為に使わなければ! そうだ! 会見! 会見をしよう! そこで謝罪をしてから! そうだ! それが良い! そうしたら、こんな事をしてる場合じゃない! 直ぐに会見の準備を!」
うん。すっごく取り乱してるね。さっきとは違う取り乱し方だね。これなら宇宙人は離れていっただろうね。でも、今回は前回には無かったパターンだね。憑依されてた間の事を覚えてる様に見えるね。これはこれで何だか可哀想だね。
「姉さん。薬が効きすぎたんじゃない?」
「そうかも知れん」
「大丈夫なの? 元に戻るの?」
「元々こんな奴なんじゃないか?」
そうかな。こんな性格の人って居るのかな? こんな人がNPO法人のトップって、嫌な団体だなぁ。そんな組織に所属したくは無いなぁ。だって、トラブルが有る度に責任を感じて「うわぁぁ」って泣いて喚くと思うよ。面倒だよね?
「そうだ。スマホは何処だ? 電話を掛けねば。捕まってる場合じゃない。早く会見をして、直ぐに対処しなくては!」
喚きながら立ち上がろうとする理事を、僕は膝カックンで転ばせた。その上で、片手で理事の口を塞いで物理的に黙らせた。だってさ、流石に裏路地で騒ぐのは止めて欲しいでしょ?
でも、見ていて可哀想になって来たよ。だってさ、元々は善意の団体だったんだよね? それが、宇宙人のせいで変わっちゃったんでしょ?
「姉さん!」
「皆まで言うな!」
「そう? それなら、この人を逃がすって事で良いんだね?」
「馬鹿か、お前は! そんな事が出来る訳は無かろう」
「いやいや。僕の言いたい事を理解してくれたんじゃ無いの?」
「そんな訳が無かろう」
「ちょっと待って、理解したの? してないの? どっちなの?」
「うるさい! どのみち、この男は終わりだ」
「良いの?」
「良いも悪いも無い。こいつらが貯めた金は、今頃押収されている」
「そうなると、この人が今更何を言っても無駄って事?」
「そうなるな」
「それだと、『幸福の王子大作戦』って何の意味が有ったの?」
「丸裸にしたであろう?」
「警察がね」
「色々と有るんだよ。特に今回は宮司に手柄を立てさせる必要が有った」
「何で?」
「今後の為だ」
そうか。姉は先を見据えてこういう結果にしたんだろうしね。今更僕が口を挟んだ所で、仕方ない部分は有るよね。そもそも、この人は捕まって反省する事しか出来ないんだろうし。それはそれで可哀想な気がするけど。だって、宇宙人のせいなんだし。
「まぁ、押収させる予定では無かったけどな……」
そうだよ。ずっとおかしいなと思ってたけど、そこなんだよ。姉にしては、杜撰な最後だったなって思ったんだよ。姉もそのつもりじゃ無かったんだね。
だってさ、警察に押収されたって事は、寄付されたお金は国の物になるって事だよね。それだと、地上の人たちの為に使われる事は無いよね。本来の筋とは違うんだよね。
これじゃあ、日本は良くならないよね。
「次は上手くやる。この失敗を糧にな」
そうだね。辻褄合わせの様に言葉をこねくり回すんじゃ無くて、ちゃんとした結果を求めなきゃね。
お金や物なんて表面的な豊かさじゃ無い。本当の意味での豊かさは、行動によって表れる。それが、自己犠牲だろうが献身だろうが区別する必要は無い。それは形だけの慈善で有ってはならない。真の救済は別に有る。
そうじゃなきゃ、本当の意味での『幸福の王子大作戦』にはならないよね。
僕たちは、この世を正す為に活動してるんだ。その行動が仮に今の社会で悪とされようが関係ないんだよ。行動の先に未来が有る。僕たちはそれを創って行くんだ。
ようやく警察がやって来た。理事が連行されて行った。姉にはモヤモヤが残るだろうけど、それを引きずる様な人じゃない。それに、この結果だって決して無駄にはならないはずだ。だって、僕たちは一つの悪を成敗したんだから。
少しずつ、ほんの少しずつかも知れない。でも、こうやって地道に活動していけば、やがて真の闇に近付くはず。
「ふむ。少し良い顔つきになったな」
「そう? そう言えば、さっき次はって言ってたけど?」
「あぁ、その話か。次のターゲットは決まっている」
「そうなの?」
「次は宗教団体だ」
「うわぁ。また面倒そうな相手だね」
「あぁ、面倒だ。だから、綿密に作戦を練らなければならない」
「僕に協力出来る事は有る?」
「暫くは、勉学に励むと良い」
「そっか。そうするよ」
今回は僕が睡眠薬を飲まされたり、香坂さんが誘拐されたりなんて事も有ったからね。今の内にちゃんと反省して次に活かさなきゃね。そうじゃなきゃ、僕は役立たずになっちゃうしね。そうならない様に僕も成長していかないとね。
うん。頑張ろう。
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