第五話 作戦の詳細
考える事がいっぱいで、頭がスッキリしないで、悶々としてても眠くはなるんだね。そして、目が覚めると姉が僕の顔を覗き込んでいた。
「わぁ!」
「びっくりさせるな、海よ」
「姉さん。あのさ、顔が近いよ」
「うむ。今日の寝顔も最高だ」
「何を確認してるの?」
姉さんのせいで、昨日のあれやこれやを思い出したよ。また混乱しそうだよ。秘密組織『革命の渦潮』だっけ? はぁ、つまり養父母と小野寺さんだけじゃなくて、製薬会社に勤めてる人も組織の人って事だよね。
「いいや。組織の事を知っているのは、幹部以上の者だけだ」
「そっか。って、僕の心を読まないでよ!」
「それよりも、海に伝えなければならない事が有る」
「あ~、昨日は僕だけ退席しちゃったしね。続きが有ったんだよね、ごめんね」
「良いんだ。色んな事を一変に伝えたから、お前も大変だったろう」
「ありがとう、姉さん。でもさ、まだ三時だよ。早すぎじゃない?」
「仕方あるまい。今日の私は忙しいのだ」
そうか。姉さんはすっごく忙しそうにしてる時が有るから、朝がすっごく早い時も有るよね。流石に養父母は寝てるだろうけど、話の続きを聞くだけなら僕だけでも良いよね。どうせ、二人共知ってる事なんだろうし。
「作戦の詳細を伝えようと思ってな」
ついに来たんだね。僕も手伝えたらいいな。何が出来るかはわからないけど。
「それで作戦って?」
「昨日見せたリストの人物は覚えてるな?」
「議員の人達だよね。名前まではだけど」
「その内の一人、儀蔵隆夫の解放を行う」
「そっか! その人は取り付かれてるんだよね」
「正確には憑依だな」
「うん、憑依ね。それでどうするの?」
「今回の為に『すっぽんぽんにしちゃうぞ』を開発したのだ。それを使用する」
「はぁ? あれで何をするの?」
「どうやら、宇宙人は羞恥に弱い性質らしくてな」
「何言ってんの?」
「長年の研究からそんな検証結果が出ている」
つまり姉さんは、『すっぽんぽんにしちゃうぞ』で議員さんをマッパにして、恥ずかしがらせようって言うんだ。あぁ、少し違った。宇宙人だね。でもさ、そんなに上手く行くのかな?
マッパで恥ずかしがらせるって事は、誰か見てる所で薬を飲ませなきゃいけないって事だよ。結構難しそうな気がする。しかも、相手は議員だし。簡単に近付く事だって出来そうにないし。
「言いたい事は理解出来る。だから、作戦実行の為に準備をして来た」
「準備?」
「儀蔵はテレビの生放送に出演する予定が有る」
「何でそれを知ってるの?」
「ジェニファーが調べ上げたからな」
「小野寺さんね!」
「その際に、『すっぽんぽんにしちゃうぞ』を飲ませる」
「出来るの? そもそもテレビ局に侵入するんだって大変な事だと思うよ」
「それは問題ない。全てジェニファーが準備してくれた」
そう言うと、姉は白衣のポケットから何かを取り出した。
「これは当該局の社員証だ!」
「いつの間に?」
姉が言うには、小野寺さんがテレビ局にハッキングをかけて、架空の社員データを登録したんだって。その際に社員証も作っておいたんだって。すごいね、小野寺さんって組織の諜報員って言ってたけど、そんな事も出来るんだね。
ふ~んって感心してると、姉はそのまま説明を続けた。
この社員証を使ってテレビ局に入り込み、それからアシスタントディレクターとして生放送番組の手伝いをする。その生放送は討論番組だから、白熱した口論が繰り広げられるだろう。そして議員は喉が渇き飲料水を飲むはず。事前に飲料に薬を混ぜて議員に渡せば、生放送中にマッパになるって寸法らしい。
う~ん。姉さんにしては雑と言うか、行き当たりばったりな作戦に思えるけど。
「そう言えば例の薬って試験版って言ってなかった?」
「そうだな。まだ、改良をしている段階だ」
「それなのに、そんな薬を使って良いの?」
「まぁ、実証実験もする必要が有るしな。良い機会なのだ」
「そうなの? 姉さんがそう言うなら良いけど」
「細工は流々、仕上げは五郎次郎ってな」
「その二人誰だよ! って、言い回しも間違ってるし!」
「そんな細かい事を気にしていると大きくなれないぞ」
「もう大きいよ。小さいのは姉さんだよ」
何だかんだで、姉さんの中では色々と決まっていたらしい。姉さんらしいと言えばそうなんだけど。作戦が失敗したなら、それはそれで良いんだって。実証実験も兼ねてるし、次の作戦に繋げれば良いって。チャンスは幾らでも作れるから何て言ってるけど、本当なのかな? 姉さんならやっちゃいそうだね。
ここまで色々と決まってると、僕の入り込む余地って有るのかな?
「お前の役目もちゃんと有る」
「ホント?」
「勿論だ」
「何をすれば良いの?」
「作戦当日は普通に学校に行くのだ」
「それじゃあ普段と何も変わらないよ!」
「それで良いのだ」
僕は学校に行って授業を受けるだけ。それが何の役に立つって言うのさ。何か不満だ。ジトって姉さんを見ていると、優しい表情になって語り掛けた。
「一つだけ懸念が有る」
「それは?」
「特別捜査官達だ」
「それって、所轄を跨いで捜査をするって言う?」
「そうだ。今回の作戦が達成されれば、必ず奴等が出て来る」
「でもさ、こっちは宇宙人から議員さんを解放したんだよ」
「それは一般人は知らぬ事だ。奴等から見れば、我々は社会を混乱に陥れた犯罪者だ」
いや、そうだよ。姉さんに言われて思い出したけど、これって立派な犯罪だよね。もう既にテレビ局をハッキングしてるし、架空の社員登録をしたり社員証を勝手に発行したりしてるし。これだけでも充分犯罪だよ。おまけに、生中継で議員をマッパにするって言うんだから。
それにしても、姉さんもこれが犯罪だって自覚は有ったんだね。そりゃそっか、ぶっ飛んでるけど常識が欠如してる訳じゃないもんね。
「何か失礼な妄想をしているな」
「そんな事ないよ」
「特別捜査官への対応を既に考えてある」
「それは?」
「完璧なアリバイ作りだ」
「アリバイ作りって? あぁ、そっか。作戦当日の姉さんのアリバイだ!」
「そうだ。私は会社の研究所で仕事をしている事になっている」
「なっているって言われても、口裏を合わせるって事?」
「違う。ジェニファーがその役目を負う」
「変装して? それが僕じゃ駄目なの?」
「お前が私に変装したら、お前が学校を休む事になるだろ?」
「あぁ、そっか」
つまりは、僕が姉さんに変身してアリバイを作った所で、僕が学校を休んでいれば僕のアリバイが無くなる。そうなると、小野寺さんが僕に変装して学校に行く事になる。これだと手間が増えるだけなので、僕はいつもの行動をしてた方が作戦がスムーズに進むって事らしい。納得はするけど、なんかモヤモヤする。
「それなら、作戦が上手く行ったのがわかるのは、バイトが終わった後だね」
「あぁ。生放送の時間はゴールデンタイムだしな」
「それなら、何で姉さんはこんなに早く僕を起こしたの? 早く出る必要が有ったんでしょ?」
「そうだ。テレビ局に潜入して仕事をするんでも、色々と手間が有るのだ」
「そうなんだ」
「お前は朝食の時間まで少し眠ると良い」
「いや、無理だよ! こんな重い話しを聞かされた後なんだよ!」
「それなら、ランニングでもして来い!」
「いやいや、それも怪し過ぎるよ! だって早朝どころか深夜だよ!」
「大丈夫だ、夏の朝は早い。直ぐに夜が明ける」
「まだ春だよ! 梅雨の予報も来てないよ!」
結局、僕は着替えてランニングをする事になった。途中で空が白んで来る。一日が始まる。そして作戦も始まる。今回の僕は唯の傍観者だけど。上手く行くと良いな。