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誰か僕の姉さんを止めて下さい  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
幸福の王子大作戦

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第四十八話 翠嵐と宮司

 警察は存外忙しい。何もかもが満ち足りた上級国民でも犯罪を犯す。何もかも満ち足りてるから、刺激を求めるのだろうか? それでは本末転倒な気がするが、気のせいか?

 だから、忙しい合間にあるたまの休憩は、ゆっくり休む事にしている。そうしないと、宮司の体が壊れてしまうからな。


 ゆっくり休むと言っても、頭を空っぽにする事は無理だ。何せ、今の地球は様子がおかしいからだ。同胞の言葉では、他所から来た連中が原因らしい。確かに、それなら急激な変化にも説明がつく。


 上空と地上で隔てられた空間、区別された人間。この構造に何の意味が有るのか、皆目見当もつかない。

 

 機動隊にも地上の人間が働いているけどな。飯を食えるだけで扱いは相当に酷い。イジメなんて軽い物じゃない。人として扱われていない。奴らを庇おうなら、叱責を受ける事も有る。意味がわからない。


 その意味では、農家の人もそうだよな。育てた作物は全て取り上げられ、自分たちの手元には何も残らない。彼らが生きる術は、少しばかりの配給だ。それで、延々と働かされ続けるんだ。おかしいよな。


 はぁ、そんな事を考えてる場合じゃない。せめて、体をゆっくり休めないと。内線など取ってる場合じゃないのだ。


「あの、警部」

「なんだ?」

「警部あての電話みたいです」

「はぁ?」


 私は慌てて姿勢を正す。そして、部下へ通話を録音する様に指示を与える。それから、ゆっくりと受話器を上げた。


「元気かね?」

「誰だ!」

「誰だは失礼だと思わないか? 私の声を忘れた訳ではなかろう?」


 忘れる訳が無い。高圧的な話し方、心をざわつかせる様な煽り方。こんな奴は、道明寺翠嵐以外には存在しない!


「お前……。何の用だ?」

「明日の午後三時、私と一緒にデートをしようではないか」

「馬鹿にしているのか?」

「馬鹿にはしておらんよ。お前を誘っているのだ」

「私がその誘いに乗るとでも?」

「当然だ。重要な話が有るからな」


 相変わらず掴めない女だ。何が目的だ? どうして、わざわざ署に連絡をして来た? 何が何でも突き止めなければ。道明寺翠嵐が何の目的も無く、私に接触を図るはずがない。


「重要な話? なんだそれは?」

「それはな……」

「それは?」

「エクストラバージンオイルだ!」

「……はぁ? オリーブオイルがどうしたって言うのだ!」

「いや、すまんすまん。書類の中に、部下の買い物メモが混じっておってな」

「ふざけるな! 要件はなんだ!」


 思わず電話を切りそうになった。留まった私を褒めてやりたい。そもそも、道明寺翠嵐はこういう女だ。飄々として捉え所が無い。考えが読めない。だから、行動の予想が付かない。


 はぁ、何で道明寺翠嵐は道明寺翠嵐なのだろうな。いや、哲学的な事を考えている場合じゃ無い。奴の話に集中しないと。


「特定非営利活動法人ヒューマニティ・リンクを知っているだろ?」

「知っている。それがどうした?」


 その名前は、同胞が支配している団体の名前だ。聞いた瞬間にドキッとした。同胞たちの事がバレてしまったのか? また、前回と同様の結末を迎えるのか? 冗談じゃない。ただでさえ、私は蚊帳の外なのだ。これ以上、道明寺翠嵐にかき回されてたまるか!


「その件で少しな」

「私が待ち合わせの場所に部下を連れて行くとは思わないのか?」

「構わんよ。幾らでも連れて来ると良い」

「馬鹿なのか? お前は容疑者の一人なんだぞ!」

「それはおかしいな。私のアリバイは成立しているはずだ。それに、件の捜査は打ち切りになったと聞いているが?」

「……っ、お前はこちらの内情を何処まで知っている?」

「知らんよ。せいぜい知っているのは、お前のスリーサイズ位だな」

「ば、馬鹿な事を!」

「言ってやろうか? 上から八十、五十五、それと」

「馬鹿馬鹿! 言わんで良い! お前、この通話が録音されている事を知ってて言ってるな?」

「当たり前じゃないか」


 面倒というよりも、厄介な女だ。こちらの内情を細かに知っているんだろう。私のスリーサイズまで知っているとは、恐ろしい女だ。

 仕方ない。ここは、奴の言う通りにした方が得策だろう。怪しい様子だったら、何か理由をつけて逮捕に持ち込めば良い。


「わかった。住所を言え」


 電話を切った後に住所を調べてみた。通り沿いに有る小さなケーキ屋みたいだ。イートインスペースは存在するが、テーブルが二つ程度だ。これでは、張り込みも難しいかも知れない。

 

「おい! お前!」

「何です?」

「お前は道明寺翠嵐と会った事は無いな?」

「はい。顔写真は見ましたけど」

「それなら良い。そのケーキ屋に事情を話して、事前に潜入しろ!」

「警部。無茶言いますね」

「いいから、言う事を聞け!」

「わかりましたよ、警部」


 部下にかなりの無茶振りをして当日を向かえた。当然、一人で行くはずがない。五人程度の部下を、店の周りを囲む様に配置させる。これで、奴は逃げられない。中には既に一人の部下が潜入してるんだからな。


 それにしても、奴はどんな話をするつもりなのだろう。それによっては、対応を考えなければならない。同胞に手出しをする訳にはいかない。しかし、宮司は警察官だ。そして、私もその精神に染まりつつある。


 正義は貫かなければならない。しかし……。


 私は敢えて約束の時間より遅れて行った。それから、少し様子を見てから指定の店に向かう事にした。既に、道明寺翠嵐は店の中に居た。そして、注文したケーキをイートインスペースで食べていた。


 呑気なのか豪胆なのか。奴は天才だ。だから、周りに刑事が配置されている事も承知しているのだろう。それでも、あの態度だ。持ち物らしき物は、大きめの封筒だけ。

 

 嫌な予感がする。これは、宮司の感覚だ。刑事としての本能みたいな物だろう。それに従うならば、私はあの場所に行かない方が良い。だが、宮司の本能が伝えて来る、道明寺翠嵐の話を聞けと。


 当然、部下の目も有る事だしな。行かざるを得ないんだ。そして、私は店のドアを開ける。奴はにっこりと笑って、私の分だろうケーキとコーヒーを注文した。


 奴の笑顔に呑まれてはいけない。私は少し緊張しながら、奴の対面に座る。奴は右手を軽く上げて、運ばれて来たケーキを食べる様に促す。これに何か混入している事はあるまい。それを阻止する意味でも、先に一人を潜入させているのだから。


「それで? 用とは?」

「それは、これを見てからでも構うまい」


 渡された封筒に入っていたのは、目を疑う様な内容だった。以前、似た様な通報が有って、ヒューマニティ・リンクを訪れた事が有る。書類には通報の証拠を明確に示す内容が書かれていた。


「これは、まさか裏帳簿か?」

「あぁ。理事たちは不正に団体の資金を得ている。これは、業務上横領罪に当たるのかな? それとも背任罪か?」

「いや、他にも該当する罪は有る」

「それなら、メスを入れなければならないな」

「あ、あぁ。……そうだな」


 部下を連れて来たのが裏目に出た。私が逃げられない状況になってしまった。このまま封筒だけ受け取って帰るのは不自然過ぎる。

 もう、無かった事には出来ない。どうする? これは別の部署に流すか? そうすると、今回集めた部下たちには何と説明する? 


 私は、常に部下へ言って来た。正義を貫けと。その信念を私が破るのか? それは駄目に決まっている。しかし、今回は同胞が支配する団体がターゲットだ。


 はぁ、困った。目を閉じてからゆっくり開くと、全てが終わってたなんて事にならないだろうか。勿論、そんなバカげた事は起こらないのは、十二分に理解しているが

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