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誰か僕の姉さんを止めて下さい  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
幸福の王子大作戦

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第四十四話 誘拐

「僕をどうするつもりだ!」

「お前には、危害を加えるつもりはない!」

「違う! お前たちは僕にあれやこれや言えない事をするつもりだ!」

「別にお前の体には興味が無い」

「そんな事を言って! 僕に何をさせるつもりだ!」

「いやなに、少し電話を掛けて貰うだけだ」

「どこにだ! 僕はそんな事には協力しない!」

「協力しないも何も、お前のスマホはここに有るんだ」


 油断した。まさか誘拐されるとは。手を背後で縛られ身動き一つ取れない。おまけに目隠しをされているから、ここが何処だか分からない。恐らく、僕の手荷物は全て取り上げられたのだろう。


 何が目的なのか。そんな事は薄々感付いている。これは、ヒューマニティ・リンクの理事に憑依した宇宙人が行ったんだろう。目的は海君か? それとも翠嵐ちゃんか?


 どちらにしても、今の僕は何も出来ない。せめて無駄な会話を長引かせて、時間を稼ぐだけだ。僕が失踪したと知れば、社長が動いてくれるはずだ。そうすれば、組織が動き出す。


 僕は組織の幹部でも何でも無い。ただの下っ端だ。でも、そんな下っ端でも見捨てないのが、秘密組織『革命の渦潮』だ! 僕を軽く見ても、社長や仲間たちを甘く見ない方が良い。仲間は必ず守る。それが『革命の渦潮』なのだから。


「あぁ! おしっこがしたくなって来た!」

「そこで漏らせ!」

「嫌だ! 僕は上級国民だぞ! そんな事が出来るもんか!」

「馬鹿か! だから、漏らせって言ってるんだ。俺たちが味わい続けた恥辱を、お前も味わえ!」


 なるほど、少し分かって来たぞ。上空都市に住んでいる者だったら、そんな恨みがましい言葉は吐かない。宇宙人は実行犯として地上の人たちを使ったんだろう。そうなると、ここは上空都市ではなく、地上か?


 馬鹿な真似をしたな。 


 黒いバンに乗せられてから、妙な所を歩かされた時間を加味しても、恐らく二時間程度しかかかっていない。そうなると、ここは東京スラムだ。東京スラムが誰の支配下に有るのか、実行犯の連中は分かってないのか?


 だから、裸の王様大作戦でお前らは失敗したんだ。スラムの人や地上の人たちを軽く見てたから、足元をすくわれたんだ。あの時、翠嵐ちゃんに手を出そうとした秘書がどうなったか、お前らは知らないのか? それとも、地球人には興味が無いのか?


 だから、お前らは失敗する。


 組織が手を出すまでもない。神代仁志が全てを解決するだろう。それも秘密裏にな。だから、僕のやる事は会話を引き延ばす事だけだ。

 もし、海君に電話を掛けさせる事だけは避けなければならない。海君は純粋だ、こいつらの話を信じるだろう。そして、僕を助け様と駆けつけてくれる。それでは、海君の身が危ない。それだけは避けなければならない。


「あぁ! 漏れそうです!」

「だから、漏らせと言っている!」

「あぁ、ちょっと待って、あぁ……」

「はっはっは、本当に漏らしやがったぞ、こいつ!」

「本当だ。上級国民様もこうなったらお終いだな!」

「こいつのスマホで写真を撮って、ネットに拡散してやろうぜ!」

「そりゃ良いな。やってやれ! どうせ、この場所は誰にも分からないんだからな」


 悔しい。でも、それが何だ! どうせスーツが汚れただけだ、洗えば済む。スーツ程度なら、この事態が収拾した時に社長がポンと買ってくれる。

 僕の恥ずかしい写真を撮るなら幾らでも撮れ。どうせ、ネットには流れない。諜報部隊の人たちがそれをさせない。


 何をやっても無駄だ。


「止めて下さい! それだけは勘弁してください!」

「はぁ? 何を勘弁しろって?」

「そうだ! 本当に止めて欲しければ、土下座でもするんだな!」

「そうだ! お金! お金なら幾らでも払います。幾ら欲しいんですか? 百万ですか? 一千万ですか?」

「そうだな。取り合えず一千万寄越せ。一人頭で一千万だ!」


 確か目隠しをされる前にバンの中を覗いたら、乗っているのは五人程だったはず。それで、全員なのか?


「一人頭と仰いましたが? 全員で何名いらっしゃるんですか?」

「五人だ。だから五千万だ。きっちり払えるんだろうな?」

「当たり前です。僕を解放してくれたら、直ぐに払います」

「信用出来ねぇなぁ」

「そうだ。解放した瞬間、逃げるつもりなんだ」

「良い事を思い付いたぜ。こいつの知り合いに金を持って来させるのは?」

「そりゃ良いな」

「それなら、早速電話を掛けようぜ」


 良いぞ。こいつらの目的が変わって来た。これで、電話を掛ける相手が仲間になる可能性が高くなった。僕の電話帳には仲間の連絡先しか載ってないんだから。万が一、海君に掛かったとしても、金を請求されたら怪しいと思うだろう。


 それに、実行犯は僕が見た通りで五人だけの様だ。他に居ないなら対処もし易いだろう。それにしても、宇宙人はもっと賢いと思っていたんだが、そうでも無いんだな。同じ失敗を繰り返そうとしているしな。


 ゲート以外に地上へ出る道は幾つか存在する。但し、その全てがスラムの監視下に置かれている。翠嵐ちゃん絡みの事件が有ってから、監視の目は更に厳しくなっている。

 そもそも、実行犯たちがスラムに無断でそこを通過した時点で、神代仁志に報告が入っているはず。しかも、僕を連れて引き返して来たんだから猶更だ。


 未だに、実行犯たちが自由気ままに振舞っている所から察するに、神代仁志は様子見をしているんだろうか? いや、恐らく背後関係を洗っているんだろうな。

 実行犯だけを捕まえても仕方ないからな。仮に捕まえて尋問した所で、依頼者に辿り着くとは限らないしな。


 それは、仲間たちも一緒だろう。


「信じて下さい! お金は必ず払います。何なら銀行まで付き添って貰っても良いです!」

「馬鹿か、てめぇは! 銀行に俺たちみたいなのが入れる訳がねぇだろ!」

「でも、窓口じゃないとそんな大金は引き出せませんよ」

「だったら用意させれば良いだけだろ!」

「仮に用意出来たとして、何処でお金の受け渡しをするんです?」

「そんなもん。ここに決まってるだろ!」

「そんな事をしたら、途中で奪われますよ。受け渡しは上空都市じゃないと」

「お前……、頭良いな」

「ばっか。お前が馬鹿なんだよ。とっとと、引き渡し場所を決めて、金を受け取ってずらかろうぜ」


 馬鹿なのは実行犯の連中もだ。上空都市に詳しくないのに、何処を引き渡し場所に指定すると言うのだ。それに、逃げると言っても何処にだ? 上空都市で暮らすのは証が必要なのに。


「いや、待て待て。銀行でそんな大金を下ろしたら怪しまれるだろ? それなら、こいつの財布に入ってるカードを使えば良いだろ?」

「頭良いな!」

「そうしよう。それなら、面倒な事はしなくて済むもんな!」


 頭が良い? 違うだろ?


 そもそも、現金を幾ら持っていた所で、上空都市では買い物は出来ない。決済は、電子認証かカード決済のどちらかしかない。その全てが国民番号と紐づいている。だから、仮に親子間で有っても不正利用が出来ない仕組みになっている。


 何をしても無駄なのに。どうしてこうも目先の欲に釣られ様とするんだ?


 まぁ良い。こいつらは詰んでいるんだ。どの道、捕まるだけだ。その後は例の如く静岡スラムか? あそこは過酷らしいからな。犯罪者にはお似合いの場所だ。


 この状況なら、電話を掛ける事も無いだろう。カードを盗んで逃げ出すだけなら、海君が危険に晒される事も無い。僕の役目は達成されたと考えても良い。


 さて、どうなるか? 少し楽しみになって来たぞ。

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