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誰か僕の姉さんを止めて下さい  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
幸福の王子大作戦

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第四十二話 洗脳解除作戦の裏側

 ダフからリアルタイムで情報が流れて来ます。地上での作戦は成功した様です。続いて、二か所の清掃現場での作戦も上手くいってます。後は、職員を解放すれば理事が丸裸になります。


 こんな時、私も潜入できていたら現場の指揮が執れたでしょうに。しかし、お嬢様が危惧していたのは、宮司という刑事の存在です。彼女は勘が鋭過ぎます。まだ、こちらを警戒しています。だから、私はアリバイ作りの為にも道明寺の家を開ける訳にはいかないんです。


 それが、お嬢様の命令です。


「ダフ。シルビアに伝えて下さい。職員の洗脳解除を開始しろと」

「あぁ。わかった」


 後は、シルビアたちに任せるしか有りません。それにしても、連絡を待っているだけというのは、何でヤキモキするのでしょう。やはり私は、指揮官的な立場よりも現場指揮の方が向いていそうですね。


 お嬢様には、それでは成長が無いと叱られそうですが。それも仕方ありません。人には得手不得手が有るのですから。


 それより、海様はご無事だったのでしょうか? それにあの男、神代仁志はどうにも気に入りません。


 お嬢様がお小さい頃に世話になった方ですから、無下に扱う事も出来ません。だから、出来る限りの情報共有をして来ました。

 お嬢様から、神代仁志とこんな約束をしたと聞きました。「地上と上空から日本を変えていこう」と。


 確かに以前よりスラムに人が集まり、彼の勢力が拡大しつつ有ります。それと同時に、他の都市下のスラムとも連携を取っている様にも見えます。

 その繋がりは、全国へ拡大しつつ有ります。それは、彼の功績なのでしょう。そして、『いつ爆発してもおかしくない地上の人たちの怒り』を押さえているのも、彼なのでしょう。


 この感情はなんと現せば良いのでしょう? 嫉妬でしょうか? きっと、神代仁志がお嬢様から全幅の信頼を得ている事が、私は気に食わないのでしょう。お嬢様の信頼に応え、結果を出している所も気に食わないのでしょう。


 私の好き嫌いでお嬢様の手を煩わせる訳には参りません。だから、この感情を押さえて来たつもりです。ですが、今回も彼は手柄を立てました。それに対し、私は唯の連絡係に過ぎません。


 はぁ。何という事でしょう。だから、作戦指揮ではなく現場指揮で忙しなくしていた方が向いていると思うのです。こんな余計な事を考える暇も無い位に。


 そんな事を悶々と考えながら洗濯物を取り込んでる間に、ダフから連絡が来ます。「現在、解放率六十パーセント」と。相変わらず報告が細かくて助かります。頭の整理が出来ます。

 

 洗濯物を片付けて買い物に出かける頃には、「解放率八十パーセント」の報告が届きました。そろそろ、お嬢様に報告差し上げても問題なさそうです。


「お嬢様?」

「ジェニファーか。何だ?」

「現在、職員の洗脳解放率が八十パーセントを超えました。後小一時間で全作戦が完了する予定です」

「そうか。引き続き――。ちょっと待て、ジェニファー」

「何か有ったんですか?」

「海が会社に来た!」

「え? 海様が?」

「何の用だか知らんが、アレも着いて来てる」

「今日の香坂志遠は、海様の付き添いですし」

「警備の者が言うには、アレは項垂れてるらしい」

「香坂志遠が失敗した報告は受けてませんが?」

「アレに何が有ったんだ?」

「では、お嬢様。落ち込んでる香坂志遠に労いの言葉を掛けては如何でしょう?」

「何で私が?」

「たまには良いでしょう。がんばったなとか、言って差し上げたら良いのです」

「そうだな。たまには労ってやるとしよう」

「それでは、お嬢様。緊急以外、こちらからの通信は暫く控えさせて頂きます」

「あぁ。私から通信を入れる様にしよう」


 香坂志遠も私の気に入らない相手リストに入る男ですが、それでも仲間です。たまには、救いの手を差し伸べても良いでしょう。特に海様が狙われた後です、彼は気落ちしているに違いありません。


 この際、あの気持ち悪い喋り方と馴れ馴れしい態度、それに何か知ってそうな生意気な口ぶりを止めて貰いたいものです。彼が態度を改めてくれるなら、私も接し方を考え直しましょう。


 それから、私は地元のスーパーへ向かいます。食材を厳選し、足りない調味料を籠に入れ、レジで清算をします。丁度、清算が終わった頃です。ダフから「解放率百パーセント。全作戦終了」の報告が上がって来ました。


 私は、直ぐにお嬢様とご主人様、それと奥様にメッセージを送りました。お嬢様からは連絡がまだ来ていないから、海様と話し中なのでしょうし。ご主人様と奥様はお忙しい方々ですし。


 それから、家に辿り着いた後です。お嬢様から連絡が来ました。


「ジェニファー。作戦完了は未だだ」

「未だと言いますと?」

「本日のフタマルマルマル時に、職員とボランティアの全員を、いつもの倉庫に集めろ」

「畏まりました、お嬢様。では、職員を使ってボランティアを含めた全員を集合させます」

「頼むぞ」

「それは、ご主人様の指示ですか?」

「あぁ。養父様にもお考えが有るらしい」


 何となくご主人様がなさりたい事の想像がつきました。きっと、彼らを組織に取り込むのでしょう。そもそも、彼らはマインドコントロールを受けていた状態です。そんな方々ですから、別の形でマインドコントロールをかけるのは、そんなに手間では有りません。


「そうですね。今日の食材は、明日に回すとしましょう」


 そして、私は追加作戦の詳細をダフに伝えました。団体に潜入しているのは、プロ中のプロです。急な作戦変更が有った所で、上手くこなすでしょう。

 それから私は、海様の分だけ夕食を作ります。「温めてお召し上がり下さい」と伝言を書き残して、家を出ます。公共交通機関を使えば、指定時間より一時間は早く着けるでしょう。


 途中下車し、変装をするのを忘れてはいけません、そういう集会ですから。私は、お嬢様の薬を使って、いかつい男性の顔に変え、体はマッチョに変えます。勿論、着替えは黒のスーツです。黒のサングラスもかけます。


 まるで、何処のSPですね。


 そして、倉庫に辿り着きます。既に組織の人たちがチラホラと集まっています。みんな、私と同じ風貌になってます。ここへ辿り着いた職員やボランティアの方々は、かなり面食らうでしょう。


 倉庫の入口を、SPモドキの黒服集団が囲みます。そして、辿り着いた職員たちを中に誘導します。恐る恐るといった印象を受けます。当然です、妙な集会に誘われたと思ってるのでしょう。


 でも、そんな事を考えてられるのも、ここまでです。皆さんは、これから組織の先兵となるのですから。

 但し、非人道的な行為では有りません。ここに辿り着いた職員やボランティアの方々は、日本の現状を憂いている方々です。故に、ヒューマニティ・リンクという団体に参加したのでしょう。


 結果は、マインドコントロールという形になりましたが。


 私たちは違います。彼らの志を全うさせるのです。その為の決起集会と呼べるでしょう。彼らは世間の目から隠れ、組織の為に尽力してくれる事でしょう。もしかすると、最終的には団体ごと取り込めるかも知れません。


 これは、最初の一歩に過ぎません。


 ボランティア参加した中には、怪しいと感じて来なかった方もいらっしゃるでしょう。黒服の団体を見て、怯えて引き返した方もいらっしゃるでしょう。

 それは仕方ありません。勇気を持って一歩を踏み出した方だけが、仲間になって下されば良いのです。


 入口の黒服集団は、全員を案内したと判断し、倉庫の扉をガラガラと締めます。それから、倉庫の先頭に有る壇上に、ご主人様が姿を現します。


「よく来た。諸君! 私たちは、日本の現状を憂う者! これから、諸君に日本が置かれている現状を話そう!」


 ご主人様は大企業の社長です。それなりに知名度が有ります。そんな方が壇上に現れたのですから、皆さんビックリした事でしょう。

 

 ですが、そのビックリが始まりなのです。


 それから、ご主人様は話し始めました。皆さん、聞き入る様に耳を傾けてます。段々と皆さんがご主人様の言葉に頷き始めます。それから、ご主人様の掛け声に合わせて、大声を張り上げます。


 はい。これで、マインドコントロールの――。いえいえ、間違えました。これで、皆さんは秘密組織『革命の渦潮』の一員です。これから頑張ってください。

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