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誰か僕の姉さんを止めて下さい  作者: 東郷 珠(サークル珠道)
幸福の王子大作戦

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第四十話 思わぬ暴露

 僕たちが話をしている間に作戦は終了した。配給に参加したボランティアの人たちは全員元に戻った様だ。明らかに表情が変化した事、それに戸惑っている事に、政府の職員も気がついたみたい。だから、今回の配給は途中で終わる事になった。

 

 地上の人たちから不満が多く出た。当然だ、配給が予定より早く終わったのだから。貰ってない人も出たんだろう。それを無視する様に、政府の職員は片付ける様に指示した。

 不満を無視できる。それに対して、地上の人たちが力に訴えて来ない。それは、政府の職員がそれなりの装備をしているからで、地上の人たちはそれを知ってるからだろう。


 なんかずるい気がする。ただ、神代さんは「様子を見てろ」って言った。


 最初は何でだろうと思った。それは、神代さんと別れて上空へ戻ってから分かった。配給はまた明日に行う。そう、政府の職員が言ったんだから。流石にこれで終わりって事にはならないんだね。


 配給に参加したボランティアの人たちは、自分が置かれてる状況を理解出来ずに居るのか、キョトンとした表情のまま帰宅していった。


 それと、これは姉からではなく神代さんから教えて貰ったんだけどさ。今回の配給に乗じてのボランティア洗脳解除にも、同時進行していた作戦が有ったみたい。


 団体に所属する全てのボランティアの人たちが、配給に参加してる訳じゃないんだって。それは、潜入してる諜報部隊の人から、姉に知らせられていた。

 今日のボランティアは全部で三か所。一つは僕が参加した地上での配給手伝い。後の二か所は上空都市の清掃だ。

 地上の配給手伝いに関しては、無事に終了した。残りの二つに関しては、神代さんの指示でスラムの人たちが活躍するらしい。これの結果は直ぐに姉へ届くだろうから、教えてもらわないとね。


 どの道、僕に何か出来る事が有る訳じゃないし、信じて待つしかないよね。


「所で海君。このまま帰るのかぁい?」

「いえ。会社に向かおうと思います」

「なにか理由があるのかなぁ?」

「姉に問いただしたい事が出来たので」

「それならぁ、僕も着いて行くよぉ」

「良いんですか? 香坂さんはお休みとかじゃ?」

「僕はねぇ。出張と同じ扱いなんだよぉ。だからねぇ、今日は休日じゃないんだぁ」

「そうでしたか。所で、その話し方は面倒じゃないですか?」

「何を言ってるんだぁい?」

「そんなねっちょりした話し方じゃなくて、普通に話せますよね?」


 そう言うと、香坂さんは黙ってしまった。そして照れくさいのか、少し俯いて後頭部をボリボリ掻いていた。


「は~ぁ。海君には叶わないね」

「あの、とても言い辛いんですけど……」

「何だい?」

「姉がとても気持ち悪がってましたよ」

「え? 嘘、だろ――」

「本当です」


 そして、香坂さんは足から崩れ落ちる様にして、四つん這いになった。まるでスローモーションの様に。ショックだったのかな? そうだろうね。

 たださ、この様子だと『あの気持ち悪い喋り方で、周りの好感度を上げようとしてた』様に見えるんだけど。


 イケメンだからこそ、残念な人だよね。


 それにしても、改めて地上へ行くと思い知らされる事が有るよ。社会の授業で『上空都市の成り立ち』は散々教わったよ。その時、先生は「政府は、優秀な人だけを選んで上空に住まわせる様にした」って言ってたけど、それは間違いだよね。だって、神代さんみたいに優秀な人が地上にいるんだしね。


 それにさ、「地上のゴミ共は、ゴキブリの様にしぶとく繁殖を繰り返す」みたいな事を平気で言ってたよ。それが『気持ち悪いな』って思う事は、当然の感覚だよね。周りのクラスメイトは先生の言葉に頷いてたけどさ。それは『教育の弊害』なんだろうね。


 何で政府は、こんな政策をしたんだろうね。おかしいよね。


「所で、そろそろ立ち直ってもらえませんか?」

「無理だよ、海君。僕はすいらんちゃんに、嫌われてるかも知れないんだよ」

「かも、じゃなくて嫌われてますね」

「そんなぁ~」


 香坂さん、ごめんなさい。僕が止めを差しちゃったみたい。


 四つん這いになったままで動こうとしない香坂さんを何とか励まして、僕たちは会社に向かった。

 会社には何度も行ってるし、香坂さんも居るしって事で、警備員の人は笑顔で通してくれた。それから、僕は仕事をしてるだろう姉の研究室へ向かった。面倒だったのは、香坂さんが尻込みしてる事だった。


 本当に面倒だ――。嫌なら着いて来なきゃ良いのに――。


 僕は強引に香坂さんの手を引っ張った。大人が手を引っ張られるってどんな状況なの? そんな事を思いながら、研究室に辿り着いた。

 研究室の扉を開けると、姉が部下の人に指示を出していた。そして、僕が入って来た事が分かると、ピョンと跳ねる様にして声を掛けて来る。


「海、どうした? 今日のボランティアはもう終わりか?」

「うん。終わったよ」

「そうか、ご苦労だったな。大変だったろう? 帰って休むと良い。香坂もご苦労だったな」

「帰らないよ、姉さんに聞きたい事が有るからね」


 海が見た事も無い真剣な表情をしている。もしかして、『おじさん』に何か聞いたか? 来るべき日が来たら、私の口から話そうと思ってたのに。余計な事を言ったんだろうな。全く――。


「姉さん。ちゃんと話がしたいんだけど」

「今は仕事中だぞ」

「わかってるよ」

「そうか――」


 こんなに早く真実を話す日が来ようとはな。私は部下の一人に会議室を確保する様に指示をする。そして、海を連れて会議室へ移動した。但し、香坂がその後を着いて来るのが不思議でならないが。


 香坂と言えば、様子が変だったな。せっかく、労ってやったというのに。声を掛けた時もちらっと私を見ただけで、後は俯いている。ゴミとか滓とか呼ばないでやっているというのに、何が不満なんだ? それとも、地上で何か有ったのか?


 私が会議室に入ると、海が入り香坂が続く。いや、海が気にしていないならそれで良いのだが。それとも、香坂も『おじさん』に全て聞いたのか? 一緒に居たんだろうし。それも仕方のない事だが。それなら、話し合いに同席しても問題は無いのか?


 こいつに詳しい事情を聞く権利も義務も無いんだがな。


 席に着くと、海の顔が段々と赤みを増していく。あぁ、私が両親について違った説明をした事に、怒っているのか。悪かった、海よ。でも、お前は小さかった。全てを理解するには心が弱かった。


「あのね、姉さん!」

「悪かった、海よ」


 私は、海の言葉を遮る様にして頭を下げた。少しして頭を上げた時には、海の表情が少しキョトンとした様に変化していた。

「私たちの両親は事故で死んだんじゃない。大災害に巻き込まれて死んだんだ」

「は? えっ? そうなの?」

「お前は実の両親に生かされたのだ! 実の父と母は命懸けで、お前と私を救ってくれたのだ!」

「そ、そうだったの?」


 ん? 何か違ったか? 私は何か勘違いをしてるのか? 海の反応がおかしい。私は少しの間、事態が理解出来なくて首を傾げていた。それから口を開いたのは海だった。


「いや、それは後でゆっくり聞くよ。姉弟だけの事だからね」


 それはそうだ。私たちの両親の話を、この香坂の馬鹿が聞いて良いはずがない。


「それよりもだよ! 姉さん! 拳銃を持ってたよね!」

「あぁ。護身用にな」

「それは上空都市では必要ない物だよね!」

「寧ろ、持っていては違法だな」

「それなら、どんな時の護身用なの?」

「地上に行く時の……」


 しまったと思った時にはもう遅い。海が問い詰めたかったのは、そっちだったか。確かに私の研究所が地上に有る事は、海に話してはいない。それを問い詰めたかったのか。本当に余計な事を話した様だ、あの人は!

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