第三十一話 NPO法人に潜入
「つまりだ。これは、資産を手放したくなる薬! 名付けて『僕の物は君の物』だ!」
「うわぁ。出たよ、変なネーミングセンス!」
「あくどい方法で金を貯めた連中には、丁度いい薬だろ?」
「いや、これは一種の洗脳だからね!」
「作戦名は『幸せの王子大作戦』だ!」
「聞いてないの! 洗脳だって言ってるんだけど!」
「早速、実行に移すぞ!」
「薬の改良をするって、今さっき言ってたじゃない!」
「それは、後々な」
「じゃあ、誰が作戦を実行するの?」
「それはお前と、諜報部隊だ!」
「僕も? 僕の出番も有るの?」
「当然だ。何せ私は有名人だからな。潜入作戦には向かん」
作戦よりもさ、薬の危険性を理解して欲しいんだけど。洗脳だよ、洗脳。やっちゃいけない事なんだよ。いや、人を公衆の面前でマッパにするのも悪い事だと思うけどね。これは、それ以上に危険だと思うんだよ。
それにさ、幸せの王子って誰も幸せにならない話じゃなかったっけ?
自分の物を差し出した王子には幸福感が有るけど、実際は飾りが無くなったみすぼらしい銅像になっただけ。飾りを貰った人は一時的には貧困から逃れられるけど、それはあくまでも一時しのぎでしかない。単なる施しでは、誰も幸せにならないって意味が籠められた教訓だったはず。
今回の作戦も『誰も幸せにならない』なんてオチにならなきゃ良いけど。
「所でさ。今回も宇宙人が絡んでいるの?」
「も、もちろん。絡んでいるぞ。箸に絡みつく納豆の様にな」
「豆の方じゃなくて糸だね」
「しつこく絡んで来るナンパ男の様にな」
「迷子と勘違いされたんじゃない?」
「え~い、うるさい! これは全て宇宙人のせいだ! そうじゃなければ、理事が変貌した説明がつかん!」
確かに、そうだよね。まともだったNPO法人が突然変わったんだとしたら、やっぱり宇宙人が関わってるって事だよね。実際、例の元議員たちは人が変わった様になってるって言ってたし。
姉が少し動揺しているのが気になるけど、こればっかりは疑っちゃ駄目だよね。
あれ? ちょっと待って! 理事に関する情報を姉が知ってるって事は、既に誰かが潜入してるって事? もしかして、諜報部隊の人たち?
「海よ。当たりだ」
「だからさ。心を読まないで欲しいんだけど」
「既に諜報部隊を潜ませている」
「そのまま話を続けるんだね?」
「今回、ジェニファーは後方支援だ」
「だから、家に居るんだね?」
「ダフはネットを利用した情報収集だ」
「ダフって名前は初めて聞いたよ?」
「潜入したのは、シルビア・トム・ラフィーネ・ジムの四名だな」
「一気に名前を言われても覚えきれないよ。そもそも会った事が無いんだし」
潜入した四人は、姉の薬で変装しているらしい。その中には変装の達人って人もいるらしい。変装の達人なら、姉の薬は要らないんじゃない? でも、その人たちのおかげで、色んな情報が入って来てるらしい。
実際の作戦だけど、諜報部隊の人たちが理事から信用を得るのが第一段階なんだって。それから、薬を使用して理事から資産を手放させるのが第二弾なんだって。言うのは簡単だけど、そんなに上手く行くのかな?
それで、僕は休みの日にボランティアとして参加するんだって。やっぱり僕だけ蚊帳の外な感じがするのは気のせいかな?
「突然の実戦だ。緊張するのも仕方ない」
「いや、別に緊張はしてないんだけど」
「大丈夫だ。お前には助っ人を用意する」
「助っ人? だから、そもそもボランティアがどんな感じなのかすら、想像がついてないんだけど」
「心配ない。そいつが、お前をサポートしてくれるだろう」
「相変わらず、勝手に話を進めるよね? 僕の意見は聞いてくれないの?」
「だから、お前は安心してボランティアに精を出すといい」
「あぁ、もう! だから、僕の話も聞いてくれない?」
結局、僕は姉の指示通りにボランティアに行く事になった。学校が休みの日は、バイトのシフトを入れてるのにさ。姉は勝手にバイト先に連絡して、僕が暫くバイトに行けないと伝えたみたい。
何て言ったら良いんだろうね。
姉の手伝いはするつもりだよ。『裸の王様大作戦』の時は何もさせて貰えなかったからね。今回は役目を与えて貰ったんだから、頑張るつもりだよ。
でもね、勝手にバイト先に連絡するのは無しだと思うんだよ。それは僕が直接伝えるべきなんだよ。それに、暫く休むなんて事をしなくても、シフトの調整なら幾らでも出来たはずだよ。それでもスケジュールが上手く組めない時は、止む無く休むって選択肢も有ると思うけどさ。
姉がこんな暴走状態に入ってるって事は、助っ人に来るって人も巻き込まれてるって事じゃない? どんな人が来てくれるんだか全く聞いてないんだけど、その人も災難だね。
「助っ人は男だ。お前より年上だから頼るといい」
「そうなの? どんな人なの?」
「一言で言えば変態だ!」
「はぁ? 変態ってどういう事?」
「残念ながら、私の部下だ。一応、仕事は出来るやつだ」
「残念な人なの? しかも、姉さんの部下って事は、休日にも働かせるって事?」
「組織の一員として当然だ」
「組織ってブラックなの?」
「大丈夫だ。やつは、そんな事を気にする男ではない」
「なんか、その人の人物像が想像つかないんだけど……」
「実は、お前は会った事が有る?」
「そうなの?」
「但し、変装した姿だけどな」
「それなら、分かりっこないよ!」
姉が言うには、小野寺さんが姉の代わりに大阪へ行った時に、小野寺さんに変装して家に居たのがその人なんだって。小野寺さんに変装してたんなら、僕に気が付けるはずがないよ。会った事が有るなんて言われても、ノーカウントじゃない?
でもなぁ、変態って言われる様な人と上手くやれるのかなぁ?
いや、いや、ちょっと違うな。もしかすると姉は、男の人に対して妙な先入観が有るのかも知れない。だって、ずっと色眼鏡で見られて来たんだしね。
背が小さいだけで、中学生だと勘違いされたり。合法ロリって言われて、そういうのが好きな層に付きまとわれたりとかさ。
だから、姉が男性を好ましく思ってない節が有っても仕方ないと思うよ。助っ人って人も案外まともな人かも知れないね。そう考えると少しは安心してきた。
それに、姉は極度の心配症だったりするしね。だから、僕を作戦から遠ざけていたんだろうしね。その姉が男の人を僕の助っ人にしたって事は、それなりに信用されている人なんだろうね。
これが、全て僕の勘違いでただの変態だったら、二度と姉に近付けない様にぶっとばすけどさ。
そして、作戦が開始されて初めての休日になった。体一つで行けば良いと言われていたので、僕は動きやすい格好だけして現地に向かった。どんな事をするんだか、聞かず終いだったしね。
現地に行くと、それなりに人が集まっていた。二十人? いや、三十人は居るのかな? そんなにボランティアに参加しようなんて人が居るなんて、ちょっと嬉しくなる。だって、現状を変えたいって思う人がこんなに居るんだよ。世の中捨てたもんじゃないって思わない?
現地に着いてから僕が暫くキョロキョロとしてると、一人の男性に話しかけられた。その人は凄くイケメンで背が高くて、爽やかな笑顔が特徴の人だった。
「やぁ、海君。元気そうだねぇ」
「あなたが助っ人さんですか?」
「そうだよぉ。僕がぉ、助っ人のぉ、香坂志遠だよぉ~。志遠兄さんって呼んでねぇ」
うん。ちょっと変な人だ。イケメンで爽やかスマイルだから騙されそうになったよ。ちょっと癖の有る感じだ。
「大丈夫! 僕が居るから安心してねぇ。すいらんちゃんからも任せられたしねぇ」
うん。全く安心が出来ない。ちょっと所か凄く嫌な予感がする。僕はこの人と上手くやっていけるのかな?




